初めて
ヤンは耳を疑った。今、ヘーゼンはなにを口走ったのか。あまりにもな言葉に理解が追いつかない。
「師……今、なんて言いました?」
「ああ、気にしないでくれ。独り言だから」
「気になりますよ!? なんて言いやがったんですか?」
「ひどいな」
「その後!」
「いや、気にしないでくれ。本当に目算だから。小金貨3枚は過大評価だったかな……僕としたことが」
「断固として、そういう問題じゃないんですよ! 師はあの惨状を見て、税収計算してました?」
「はは……そんなに大層なものじゃない。本当に、ザックリだから」
「なんなんですかその意味のわからない謙遜は!?」
「そんなことより、城についたぞ」
「……っ」
わめき散らすヤンを完全に無視して、馬車は門番一人いない城下町の門を通過する。ノヴァダイン城が近づき、城下町の景色が過ぎ去る。
「これは……ますますひどい」
「ええ」
またしても、ヤンは同意する。眼前にそびえるそれは、誰もそれが『城』だとは認定しないであろう廃墟のような佇まいだった。城としての機能はなく、遠目から見ても活気がない。通りには人はおらず、建物は寂れて見る影もない。
加え、進んできた大通りの両脇には風が吹けば飛ばされそうな建物の数々。当然、人など歩いているはずもなくミナ鳩の『クルルルル、ポッポッ』という鳴き声がただ不気味に響く。まさか、これが城下町だとでも言うのだろうか。
「昔は賑やかだったようだったがな」
ヘーゼンが無表情でつぶやく。
かつては他城と比べても遜色のないもので、城下町も人の声が止むことがないほどの活気であったという。
誰もいない大通り。もはや領主など、この土地にはなんの意味も持たない。どの貴族がその椅子に座ろうと、自分たちにとって役になる存在ではないということなのだろう。そんなことよりも、日々の生活。毎日、生きていくために精一杯なのだ。
「師」
「ああ。城の改修費用も多くいるな……これでは、税率を上げることも考えなければな」
!?
「上げるんですか!? 下げるんじゃなくて!?」
「はは……なんで下げるのよ」
「冗談言ってないんですよ! これだけの惨状を見て、税率を上げるんですか? なに考えてるんですか!?」
「収益を向上させる、あらゆる選択肢を考えている」
「だから、そう言うことじゃないんですよ!?」
歩きながら、やんや、やんやとやっていると、そこに村人たちが通る。誰もが疲弊しきった表情を浮かべながらウロウロしている。
「見ました?」
「ああ……なにしてるんだろうな? 酒飲んでないか?」
「飲んでる訳ないでしょう!?」
「そ、そうなのか」
「ねえ……師。さっきから、言ってることが的外れですよ。なんなんですか?」
「うっ。よくわかったな。実は領地運営は、経験がない」
「……」
と言うことは、まるっきり初心者と言うことか。だが、『だからかぁ』とはならないところが非常に酸っぱかった。
「……普通、なかったらいい領主を演じようとするものだと思いますけどね」
「うーむ。税収は大事だと思うが。上級貴族への上納金を差し引いて、収支が黒にならなければどうしようもないし」
「シマント少佐から以前大金貨10枚絞り取りましたよね! あれくらいあれば、この領地の立て直しくらい簡単じゃないですか!?」
「使った」
「えっ?」
「……」
「……」
・・・
「えーーーーーー! 使っちゃったんですか!? 全部!?」
「うん」
「あれだけの額、いったい何に使ったんですか!?」
「君に言う必要はないな」
「くっ……」
ふざけんじゃねーぞ、とヤンは思った。
「とにかく、ないものはない。それに、僕は他人の金を当てにするような輩が嫌いでね。自分たちの苦境は自分たちでなんとかさせるさ」
「ちょっと何言ってるかわからないんですけど!?」
「まあ、下級貴族の領主であることの義務は心得ている。領地運営にあまり、時間をかけることはできないが、そつなく上手くやってみせるさ」
「……ちなみに領主の義務とは?」
「税の徴収と治安維持」
「ヤバっ!!」
ヤンがガビーンとした表情を浮かべた。




