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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》①’ ”部活”

久しぶりに投稿します。続いて湊視点です。

「ああ、もう倒しちゃったんだ」

 そう言ったのは金色の長髪をなびかせる美しい少女だった。コスプレとしか思えないメイド服を着ている。E・D内では然程珍しくはないが、いざ目の前で見ると気になってしまう。

「……やっと来た」

 俺は小声で抗議した。三人でこのダンジョンに来るという話だったが、結局は俺一人で二体のドラゴンを倒してしまった。彼女のを含めた二人は何の役にも立っていない。

「す、すいませんっ」

 もう一人の連れが直角に頭を下げた。突き付けられた頭部の先で一対の猫耳がしょんぼりと垂れている。猫の姿を模した種族――猫妖精(ケット・シー)のアバターだ。取って付け加えた様な尻尾が背中の奥で伸びている。

「私、暗い所が苦手で……」

 確かにドラゴンが住んでいたこの洞窟は光が薄い。女子二人が行きあぐねるのも分からなくはない。それに戦闘に参加していても、暗闇に怯えていれば役には立たなかっただろう。

 突如、猫妖精の隣で立っていたメイド服の少女が俺に向かって上半身を突き出した。そして、機会だといわんばかりに口を開く。

「そもそも! クリムが先に行ったのが悪いんだよっ。何で私達を置いて行っちゃうのさ!」

「う……」

 思わぬ所でメイド服の少女――ユリアから反論を食らった。

 薄暗いやら寒気がするやらと言って彼女達は歩みが遅かったのだ。ユリアがうるさく騒ぎ立て、猫妖精のアバター――シャロが口を閉ざして震える。そうした二人に付き合える程俺は寛容ではなかった。

「文句言うなら先に行かなければ良かったじゃない」

 遅かったから。一人で充分だったから。様々な根拠が浮かぼうとして、喉から飛び立つ前に消え去った。それでは抗議の意味がない。ユリアとシャロに反省を促す俺の方が間違っていたようだ。

 俺は自分の失態を自覚し、短く詫びた。

「…………悪い」

 ユリアの言い分は通された。しかし、当の本人は不満足そうに頬を膨らませ、俺への距離を更に詰めた。

「もう、そうじゃないんだよ! どうして君はここで納得しちゃうのさっ」

「?」

 彼女の言っている事が理解出来ず、首を傾げる。何が違うのだろうか。異性の心は――同年代であっても察せられない。まあ、男性だろうと同じだが。

「あの、先輩。アイテムはドロップしましたか?」

 シャロがおずおずと尋ねた。怒気で顔を赤くしているユリアがその話に表情を切り替えた。

「そうだ。……どうだった? ゲットできた?」

 元からの目的であった、ドラゴン討伐の際に入手できる高価アイテム。それを俺自身のシステムウインドウごと表示させる。アイテムと書かれた欄を叩くと、内蔵されているアイテムの一覧が浮かび上がった。彼女達の方へと向きを変える。

「おお……」

「二つも手に入ってますね。……凄いです」

 目を輝かせるユリアと褒め称えるシャロ。二人の女性に感動され、顔が内側から熱くなるような感覚を覚えた。

 紅潮を知られまいとウインドウを俺の方へと回す。画面を覗き込んで光を自分の顔上に当ててやった。ついでにアイテムの整理もする。騎士団に入っていた頃から溜まっていたアイテムの順番を整理する。不要で換金できそうな物にだけを狙いを定め、指先で上部にスライドさせていった。

「これでかなりの金額になるだろう」

 知っている情報を元に計算し、俺は頷いた。

 ユリアがぐっ、と拳を握る。揚々とした声でシャロに話しかけた。

「よしっ! これで《ギルド》のお金は確保できた! 私達の部活動も本格的になるね、シャロちゃん」

「は、はい……!」

 ふさふさとした毛並みの耳が揺れた。感情に左右して動くという猫耳。その仕草は頭上からユリアの手を呼び寄せていた。「ひゃ」、とシャロが呻く。ユリアが柔らかそうな仮想の耳をいじくっていた。感触が本人へと伝わる様だ。

「ふにふにふに。いや、ふわふわかな? ……まあ、もういっちょ――ふにふにふに」

「せ、先輩……」

「ああ、癖になるなぁ」

 今度は両手で責める。ユリアの胸元ではシャロがくすぐったそうに唇をすぼめていた。シャロに取ってユリアは現実とE・Dの両方における先輩である。嫌そうに見えるのだが、逆らおうとする気配はない。

 やめてやれ。そう言おうと思った。だが、一石二鳥の現実をユリアに突き付けてやる事にした。

「賞金稼ぎじゃないだろ、俺達の部活は。そんな事やっていていいのかよ」

「っ……!」

 手つきが止まり、ユリアの快楽に溺れていた顔が固まった。ぎぎぎ、と数世代前のロボットを連想させる速度で首がこちらを向く。胸を張り、息を吸う。次の瞬間。ユリアは大声で三人の間に立ち塞がる問題を叫んだ。


「だって! 依頼が来ないんだもん!!」


 そう、我らが部活の難点はそれだった。現実の出御高校とE・Dを跨り設立された新しい部活動。E・Dでのトラブルに困っている人の依頼を受け、部員達で解決していくという内容である。

 活動開始から既に二週間は経過していた。広告等は部長であるユリアが存分にしているが、未だに効果は発揮されていない。仕事を全くせずに廃部。そんな将来も遠くはない。ユリアが子供の様な口調で叫ぶ気持ちにも同意出来る。

「学校の掲示板とかに作ったポスターとか貼ってるのに来ないし! 『とにかく困っている事は無い?』って友達に聴いても苦笑いされるだけ! 一体どうすればいいのよっ!」

 俺に言われても……。

 正面から不満を受け止めつつ、俺は身を寄せてくるユリアを両手で拒んだ。落ち着け、と催促もした。

 部活動の不遇に腹を立てるユリア。そんな彼女が俺達へと尋ねる。

「君の周りに居ないの? 困っている友達とか。シャロちゃんも、ほら」

「…………」

 俺は口を閉ざした。後輩のシャロも続けて黙りこくる。

「…………」

 別に悪気は無かったのだろう。部活に熱心な部長が発した、純粋な疑問だ。だが、俺とシャロは真剣な眼差しで見つめ合った。シャロが小さな顎で頷く。俺もその内心を察して首を縦に振った。

 一斉に、寸分違わない結論を言い出す。

「俺に友達はいない」

「私に友達といません」

 ユリアが自分の掌に額を添え、低く唸った。

「ごめん。訊いた私が馬鹿だったよ……」

 分かってもらえたようだ。シャロはともかく俺に人間関係を期待するのは愚かな事である。現実における俺――鈴夜湊は、ひ弱で根暗な眼鏡男子にしか過ぎない。俺を正しく認識している同級生も数える程はいない。

 顔が広いユリアが駄目なら、依頼の呼び込みはもう手詰まりとなる。ユリアはその事実を悟ってか泣き言を口にしながらシャロに抱き着いていた。「どうしよ~」と困り果てながら猫耳の感触を楽しんでいる。悲嘆にくれているのか判断し辛い光景だった。

「はあ」

 溜息が自然と漏れた。

 口元に手を当てて、俺は考えに耽る。

 依頼を招く方法――活動時間の拡張が思いついた。俺達は基本的に現実の部活で話を聴く事にしている。だが、全員が長い授業時間を割り振られた一貫型の生徒である。得られる時間は短い放課後しかない。昼休みにも部活動を行うという案はどうだろう。運動部は体育館等で活動している場合が多い。これなら顧問に許可を取ればいける筈――――。

「…………」

そこまで考えてから、俺は全身がむず痒くなった。

気付かぬ内にこの部活動に深入りしている。部長であるユリアを放っておけなかった。シャロが柔らかい表情を浮かべているのが微笑ましかった。そう思う自分は、逆に「らしくない」と反発を生じさせている。

「ん? どうしたの」

 俺の動揺にユリアが気付いた。

 へこませている猫耳から手を離し、俺の顔をじっと見つめてきた。思わず視線を逸らしてしまう。

駄目だ、逆効果だ。これでは余計に怪しまれる。

「………………顧問は」

 やっとの事で言い出せた。切れ切れの単語だったが、ここから別の話題に入ることが出来る。ユリアにこの部活の顧問がどうなったか訊いてみよう。全ての手続きはユリア――現実での三原茜がしているので詳しくは知らない。話をしない所、名前だけを置いている顧問なのだろう。

「ああ、顧問ね。顧問が誰か知りたいの?」

 俺の尋ねたい事を理解したユリアが問い返す。俺は「ああ」と応じた。すると、不服で膨らんでいた顔が瞬く間に青ざめていった。

「…………………………忘れてた」

 引き攣った笑顔に危うく騙されかけた。

「そうか――――って、は?」

 俺としては珍しい反応である。美少女の部類に入るユリアをまじまじと凝視していた。そこに冗談や偽りがないのは容易に分かる。俺達の部活動には顧問が存在していない。つまり、学校にとっては非公式の活動なのだ。

「せ、先輩。それじゃあ、私達が他の部活動と並べて貼ったポスターは」

「多分、剥がされてる」

 怒った教師が掲示板に向かって手を伸ばしている場面を想像しながら、俺はシャロの不安を裏付けさせた。

 同好会自体は許されているが、部活と違って学校の物は利用不可能だ。掲示板も漏れなく注意の対象となるだろう。しかも俺達は依頼人という外部を巻き込む為、最低でも部活動の名目が必須である。こんな洞窟でドラゴン退治をしている場合ではなかったのだ。

「ど、どどどどうしようーっ? 今からでも顧問になってくれる先生、探さなきゃ!」

 輝く金髪を揺らし、名も無い部活動の部長は慌て始めた。シャロが隣で顔を真っ赤にして焦っている。現実ではもう六月の後半だ。顧問になってくれる様な教師は殆どが何らかの部活に就いているだろう。言われるでもなく状況は最悪だった。

「わあー! もう私の馬鹿あああああああ!!」

 ユリアが擁護しようの無い自虐を叫ぶ。若干涙目である。彼女が部長で大丈夫だろうかとさえ思ってしまった。

 彼女を見ていると前途多難な道のりを予想させられる。その険しい地表を推察している時点で俺も一緒に歩く事は決まっていた。ユリアによれば俺は副部長らしい。強制だったが、当然の地位だった。この部活動は俺の為に造られた様な物だ。

「お前ら、落ち着け」

 肩を竦めて呼びかけながら、俺はユリアとシャロに歩み寄った。

 騎士団を抜けて心残りが無い訳でもない。無二無三で大剣を振るう日々は確かに名残惜しい。

 それでも、今だけは彼女達と同じ方向を目指してみたくなったのだ。

次は現実世界――かなりシリアスなシーンになると思います。

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