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【第17話】世界を知る授業。チームガレオス結成!

王都グラン・フォリアには本格的な冬が訪れていた。


寮から教室に向かう4人はいつもの様に、話に花をさかせていた。


「王都って温かいんだね。冬なのにコートもいらないなんて。」


田舎から出てきたアルノにとっては初めての王都での冬。


「そうか、アルノは王都での冬は初めてだもんな。王都は1年を通してあまり気温差が無いんだ。まあ夏は多少暑ちぃけど、冬は雪も降らないしな」


カイルをはじめ、他の二人も王都育ちだ。


そんな中、普段は冷静なアルノが、田舎との気候の違いに驚きを隠せずにいる。


その意外な一面に、皆は自然と親しみを覚えた。


「アルノ君の故郷は、雪が降るの?ウチ、雪は見たことないねん」


「少し積もるよ。年に一、ニ回は銀世界になることもあるんだ」


「へぇ、ほんまにー。いっぺん見てみたいわ」


「いつか遊びにおいでよ。きっと母さんも喜ぶよ」


その言葉を聞いたシルフィアの耳の先が、少し朱を帯びた。


あれからシルフィアは耳を隠さず、髪型をポニーテールに変えていた。



ーー



1年Dクラスの教室は、いつもと少し違う緊張感に包まれていた。


教壇に立つDクラス担任のロイドは、相変わらずヨレヨレの白衣姿で無精髭を撫でているが、その眼差しだけは珍しく真剣だった。



「さて、お前ら。もうすぐ一年生の集大成、『C・Dクラス合同・ダンジョン探索実習』が始まる。今日はそのための座学だ。寝てる奴は実習で冗談じゃなく死ぬからな」



その言葉に、教室の空気がピリッと引き締まる。


「まず、ダンジョンについてだ」


ロイドは黒板にチョークで丸と山の絵を描いた。


「おとぎ話の迷宮を想像してるお花畑な奴はいないと思うが、ダンジョンってのは自然界の洞窟や巨大な岩山の内部が、途方もない規模に拡張された過酷な自然環境だ。発光する植物が多く意外と明るいが、ブラインド・ゾーンと呼ばれる完全な暗闇のエリアもある。マッピング能力と明かりの確保が生死を分けるぞ」


ロイドは黒板をトントンと叩き、さらに続ける。



「そして、そこに住み着く『魔獣』だ。まず魔力は全ての生物が持っているが、それを外に放出できるのは、基本的に人間と精霊だけだ。そのため普通の野生動物は、長年生きると体内の魔力が飽和する。その外へ放出できない魔力が『結晶』として実体化しちまった連中をまとめて『魔獣』と読んでいる」



「頭部付近に結晶ができたものの多くは脳に影響を及ぼし狂暴化する。これを『ビースト(狂獣)』と呼ぶ。頭や額、顔面から異質な結晶が突き出ているから、一目で危険な「討伐対象」だと判別ができる。そしてビーストからは、ビーストしか生まれない」



「次に頭部以外の体内に結晶があり、理性を保っている『カーム(静獣)』。テイマー(魔獣使い)が波長を合わせることで、テイムが可能なのは主にこれらの種類だ。見た目は通常の動物とほぼ変わらないか、少し大柄で屈強になっている程度。外から結晶は見えないから普通の野生動物と思って不用意に近づくと危険だ。カームは、カームか魔石を持たない個体を産む」



「そして極まれに、体表に結晶が現れたものを『ファントム(幻獣)』と呼ぶ。これらの種類は、結晶から魔力を放出することが可能で、魔法を使うこともある。その上、極めて知能が高い。テイム自体は可能だが、力でねじ伏せるのではなく「対等な契約」や「波長の一致」が求められるため、非常に困難だ。まあ、今のお前らには到底無理だから考えなくていい。見た目は頭部以外の体の一部から美しい結晶が現れている。すぐに襲ってくることはなく、相手を値踏みするような素振りをみせるらしいから、出会ったらおとなしくその場を立ち去れ。ファントムからは、ファントムかカームが生まれる」



ロイドの淡々とした説明に、生徒たちは固唾を飲んでメモを取る。


アルノも頬杖をつきながら、興味深そうに耳を傾けていた。



「最後に、これが一番重要だ。ダンジョンの入り口には『タルタロス(魔獣の檻)』と呼ばれる巨大なゲートがある。このゲートには透明な魔力結晶ガラスが張られていて、そこには大きく強力なルーン・サーキット(魔法陣)が刻まれている」



ロイドはチョークを置き、生徒たちを真っ直ぐに見据えた。



「ダンジョン外で魔獣化した生物は、なぜかダンジョンに引き寄せられる。そのルーンは『外から内へは入れるが、内から外へは出られない』という一方通行の術式だ。これによって魔獣が外の世界へ溢れ出すのを防いでいる。……つまりだ」



ロイドは懐から、ルーンが刻まれた小さな箱を取り出した。


ロイドが小箱に魔力を流すとロックが外れ、その中から金属フレームで縁取られた、美しいカード型のマギアを取り出して掲げた。



「ダンジョンから帰還するには、この『リターンキー(反転術式マギア)』が絶対に必要になる。こいつを内側からゲートにかざすことで、一時的に一方通行の術式を反転させ、外へ出られるようになるんだ」



ロイドはリターンキーに付いたチョークの粉を白衣で綺麗にぬぐってから箱の中に戻し、再び鍵をかけ、懐にしまった。



「ダンジョン内でキーを紛失したり、破壊されたりすれば、二度と外へは出られない。まあ、強化のルーンも刻まれていて非常に頑丈だから壊れることはまず無いが、貴重品だからな、実習中は絶対に手放すなよ」



重苦しい静寂が教室を包み込む。ダンジョン探索に潜む、あまりにも現実的で残酷なリスク。


「説明は以上だ。実習は4人一組のチームで行う。今から自分たちでチームを組め。余った奴は適当にくじ引きだ」


ロイドがそう言い残して教室を出ていくと、静まり返っていた教室が、堰を切ったように騒がしくなった。



「なあ、ミラ・フォルテシモ! シルフィア・エーテリス!」



真っ先に立ち上がったのは、クラスメイトのダグラス。


彼はナイト(騎士)志望で、Dクラスの中ではリーダー格を気取っている。


その後ろには彼と仲のよい、ベッキーというガーディアン(結界師)志望の女子が、少し不満そうな顔をしながら立っていた。


「俺たちのチームに入ってくれよ! ミラ・フォルテシモのあの圧倒的な火力と、シルフィア・エーテリスの精霊魔法があれば、実習の成績で上位クラスを狙えるぜ!」


ダグラスの言葉に、他の生徒たちも「うちのチームに!」「いや、俺のところへ!」と同調し、あっという間に二人の席の周りに人だかりができた。


入学当初、制御不能の「一族の恥」と嘲笑されていたミラ。


精霊に拒絶され「落ちこぼれ」と見下されていたシルフィア。


しかし、これまでの実習で彼女たちが見せつけた規格外の実力は、Dクラスの生徒たちの評価を完全に覆していた。


だが、ミラは申し訳なさそうに「パンッ」と手を合わせ。



「ごめんねみんな。実はもう組む相手を決めてるの、ワタシたち」



「誘ってくれてありがとね」



シルフィアも少し困った顔で、ふわりと微笑んだ。


二人は人だかりの間を通って、一番後ろの席でのんきに欠伸をしている小柄な少年の元へ向かった。


その横には、カイルも腕組みをして座っている。



「アルノ、カイル。おまたせ!」



「おせーぞお前ら。でも、これで4人揃ったな」



ダグラスは信じられないという顔で、その光景を指差した。


「お、おい! 嘘だろ!? なんでアルノ・ガレオスなんかと組むんだよ?確かにマギア(魔導具)制作はすごかったけどさ、そいつはクラフターだぜ?」


その言葉に、カイルがギロリと鋭い視線を向けたが、アルノは「まあまあ」とカイルを制し、ダグラスに向かってにっこりと笑った。


「大丈夫だよ。僕たちは絶対に結果を出して、このクラスをCに押し上げてみせる」


アルノは右手のグローブを外し、右手を強く握りしめた。


その絶対的な自信に満ちた涼しい笑顔に、ダグラスたちは言葉を失い、気圧されたように引き下がるしかなかった。


ダグラスの後ろで一部始終を見守っていたベッキーは視線をそらしながら、ほっと胸をなでおろしていた。



「よろしく頼むぜ、リーダー」



カイルがアルノの肩をポンと叩き、4人は目を見合わせた。


その目は何も語らずとも、皆が同じ気持ちであることが感じ取れた。


ここに、落ちこぼれの吹き溜まりから生まれた最強の4人組、「チームガレオス」が正式に結成された。



ーー



放課後、チームガレオスの4人は学園で最も大きな大図書館へと足を運んだ。


ダンジョン実習に向けた過去の記録や、魔獣の分布を調べるためだ。


4人がけの大きなテーブルの上に、さまざまな蔵書を積み上げ文献を読み漁るが、すでにカイルは飽きており、頬杖をつきながら周りを見回していた。



「……あれは…、ニ年のAクラスのチームリーダーだ。たしか、騎士団長の娘さんだったかと。」



視線の先には、制服を凛と着こなす銀髪の美しい女生徒の姿があった。


シエル・ラインハルト、王国騎士団の団長の娘だ。彼女の周囲だけ空気が張り詰めているかのような、圧倒的な存在感だった。


彼女の襟の六角形のバッジには、今年度の2年生を示すグリーンのベースの塗装の中央に「A」と金色の文字が刻まれている。


「ん?…なんか…、こっち見てないか?…おい、こっちに向かってきてるぞ!お前らなんかしたかっ?!…」


「ワタシたちのせいにしないでよ!あんたがじっと見過ぎなのよ!」


シエルはアルノの席の横まで静かに歩みより、じっとアルノを見下ろした。


アルノは顔を上げ一言、



「ひさしぶり、シエル姉ちゃん」



「「「ね、ねえちゃんっ!!」」」



三人の声が美しくハモった。


感動の姉弟の再会かと思われたが、彼女の口から出たのは、氷のように冷たい言葉だった。


「……アルノ。あなたの魔力出力、0.01だったそうね。そんな致命的な数値でダンジョン実習に出るつもり?」


一切の感情を交えない冷ややかな視線に、ミラたちが息を呑む。


「あなたにこの学園は無理よ。足手まといになって死ぬ前に、おとなしく田舎へ帰りなさい」


シエルはそれだけを言い捨て、振り返ることもなく去っていった。


「なっ……なによあれ! いくら実の姉でも言い過ぎだわ!」


「おい!アルノ、お前姉ちゃんがいるなんて、一言も言ってなかったよな!…っていうかお前、騎士団長様の息子なのか?!」


「お姉さん、ちょっと怖そうやな。うまくやっていけるか心配や…ん?家名ガレオスじゃないん?」


それぞれが口々に気持ちを吐露する。


しかし当のアルノは、ショックを受けるどころか、少し首を傾げて図書館の高い天井を見つめていた。



(……おかしいな。昔のシエル姉ちゃんは、ボクのことを甘やかして、溺愛してくれてたのに。あんな冷たい態度、姉ちゃんらしくないな)



7年ぶりに出会った姉の変化に、何か別の意図があるのではないかと不思議に思っていた。


「まあ、みんな。それよりまずは目の前の実習で成果をださないと。ほらカイルもちゃんと調べて」


アルノはいつものように涼しい顔で笑った。


そのいつもと変わらないアルノの態度に、三人は毒気を抜かれたように肩の力を抜く。


涼しい笑顔の奥にある確かな力量に、我らがチームリーダー、小さなルーン・テイラーへの頼もしさを、あらためて感じていた。


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