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【BL】古魔道具屋の女房と猫  作者: 丁銀 導


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028 黒き刃のバルヴァロス①【ヴィクター・グラディウス】

 



 人は誰もが、自分の望むように生きられる訳じゃない。

 俺もまた、そういった儘ならない人生を生きる人間の一人だ。


「ただいまヴィクター~」

「どうだった?!ドミニオ」

「うん。断られた」

「あ~~~」


 相棒であり黒ギルドの幹部であり、まず第一に親友である…

 その男の天使みたいな笑顔を見て、俺は頭を抱えた。


「マーズは失敗」

「…すみません、ヴィクター様」

「ドミニオも失敗」

「ごめんねヴィクター~」

「どうすんだよ!役立たずだなお前ら!」

「ヴィクターがなんとかしなよ。黒ギルド長でしょ?」

「俺が出たら最後だから悩んでんだよッ!」


 …黒ギルドなんか継ぐんじゃなかった。

 正直、そう思わない日はない。選択の余地が無かったにしてもだ。


 黒ギルド長なんていかにも女侍らせて豪遊してそうな

 イメージがあるだろうが、実際はみみっちくて泥臭いもんだ。

 ウチみたいな微妙な規模の黒ギルドの実情ともなれば、特にだ。

 なんせ稼いだ金なんか、もっとデカい黒ギルドに吸い上げられちまうし、

 黒ギルド長の俺は絶えず内憂外患に悩まされている始末だからな…。


「…で、ジュナイはなんて言ってる」

「盃受ける気はないし、さっさと殺せだって」

「あ~~…」

「ヴィクター様…殺るなら、俺が」


 このマーズも幹部だが、『会計係』のドミニオとは違う。

 所謂『殺し屋』というやつだ。

 すげぇ頼りになるが、意外と血の気が多いから、

 絶えず手綱を握っておく必要がある。


「まだ早ぇよマーズ」

「はい」


 …今の俺の目下の悩みの種が、この『ジュナイ』という男だ。

 ジュナイは正式な黒ギルド構成員じゃないが、もう10年弱にはなるのか…

 結構なガキの時分から、黒ギルドの汚れ仕事を請け負っていた。

 頭が切れるし度胸もあるから、借金の取立てや面倒な交渉事に重宝していたんだが…。


「な~んで断んのかねぇ…」


 正式な黒ギルド員…それも幹部ともなれば待遇は段違い。

 揉め事があっても俺が守ってやれる。

 こちらとしても今はチャカを振り回せば金になる時代でもない。

 悪知恵の働く奴が一人でも多く欲しいのが実情だし、

 お互いの利害は完全に一致してると踏んだが、間違いだったらしい。

 …いや、間違いではなく、タイミングが合わなかったんだろう。


「…あの『弟』ってのが死んだのが、そんなにもショックだったのか…」

「そうだね…稼いだお金はみんな治療に使ってたから」


 ドミニオは黒ギルド員のみならず、

 黒ギルドに出入りする人間の金銭に関わる情報は、全て把握している。

 頼りにはなるが、おっかねぇ奴だ…。


 …ジュナイって奴は変な野郎で、やたら計算高いかと思えば

 自分の身を投げ打ってまで他人に肩入れしたりする。


 今やそこそこ名が売れてるラルフ・ロックハンドって作家も、

 元は内臓を売る手前の多重債務者だったが、

 ジュナイがどっからか拾って来て、随分儲けさせてくれた。

 使い棄て用のガキ共を、破門にした振りして堅気に戻した事も知ってる。

 いっそジュナイがあのガキ共みたいに使えなければ、面倒事にはならなかったんだが…。


「どうするの?黒ギルド長」

「どうするって…しゃあねえだろ」

「と言うと?」

「殺るんだよ」


 ドミニオが「もったいない」という顔をした。

 俺が先の丸くなった羽根ペンを捨てるのを、咎める時と同じ顔だ。


「ジュナイくんほど有能な人、なかなかいないよ」

「…だからだよ」

 椅子の背凭れに頭を乗せ、天井を見る。


「奴は有能で、グラディウスの内情を知り過ぎてる…」

「……」

「野放しには出来ねえんだよ」


 先代から俺が代を譲り受けて四年。

 大した抗争もなく凌いで来れたが、まさか初めて流れる血が身内からとはなぁ…。

 俺としては…ドミニオもマーズもそうだろうが、ジュナイを憎く思ってる訳じゃない。

 今からでも盃を受けると言ってくれたら、どんなにか肩の荷が下りるか知れない。

 …だが、そうならないのだから、仕方がない。

 次、俺が話して首を縦に振らないのなら『黒ギルド長の面子を潰した』かどで、

 その場で死んで貰うしかない。


「…ドミニオ」

「はい」

「三十分後、俺が行く」

「…分かった。伝えてくるよ」


 ドミニオは神妙な面持ちで頷いたあと、部屋から出て行った。


「マーズ」

「…はい」

「俺と来てくれ」

「はい。方法は?」

「任せる」


 マーズは無言で頷いた。この三十分は明らかに無駄だろう。

 今更、心変わりなんかするような玉じゃない。

 それでもいきなりバッサリじゃあ、長年使って来た仁義にもとる。


「…ヴィクター様」

「なんだ?」


 無口なマーズから話し掛けて来るとは珍しいな。


「血が流れるのは、何年ぶりですか」

「そうだなァ…」

 ヒットマンってのは、妙な事を気に掛けるもんだ。

 ざっと記憶を辿る。



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