019 末弟の新しい友達【イーサン】
はい。…いえ、レオじゃないです。
俺はイーサンですけど…どちら様ですか?
あ、名刺下さるんですね、ありがとうございます。
エイデンさん…古魔道具屋さんなんですか。
それで、ジュナイさんの今の雇い主の…そうなんですか。
すみません、実は今、着替えを取りに帰っただけで、俺すぐ戻らないと
…レオが俺の同居人なのは間違いないです。
でも、あいつ今ちょっと入院してまして…そう、そこの市民病院です。
いや大した事ないんですけど、レオの奴、メンタル最弱の癖にちょっと色々やらかして。
ところで、どこでこの住所を?ラルフ先生ですか?やっぱりね。
…ジュナイさんは、ここにはいないです。
ほんの三日前までは。ここにいたんですけど…今はその…。
…エイデンさんは見たところ、堅気というか、普通の商売の方ですよね?
それなら、もうジュナイさんの事は忘れた方がいいと思います。
余計なお世話かも知れないけど、ジュナイさんも同じ事言うと思うんです。
すみません、力になれなくて帰ってください。
…って!え~!ちょっと!!上がり込まないで下さいよ~!
え?「詳しい話を聞くまで帰らない」って…そんなぁ、困りますよ!
こ、こっちは親切で言ってやってんだ!とっとと帰りやがれ!
……全然怖くない?わ、悪かったですねぇ!!
俺だってね!裏稼業なんか全然向いてないから辞めたんですよ!!
まぁ、それだってジュナイさんが力になってくれなきゃ、無理でしたけどね…。
…いいですよ、話しても。
でも俺、入院中のバカの着替えを用意しなきゃなんで、ちょっと待って貰っていいですか?
…荷馬車で病院まで送る?ああ、そりゃ助かります…。この辺乗り合い馬車少ないし。
じゃあその辺、適当に座っててください。
写真?ああ、写真立ての…その真ん中がレオですよ。チビでしょ?
その左が俺。右隣の三つ編みが…フレデリックです。三ヶ月前に死にました。
生まれつき体が弱くてね…抗がん剤も体質に合わなかったんです。
…いつも「大丈夫、大丈夫」って笑ってましたけど、全然大丈夫じゃなくて。
俺ら三人の中で、フレデリックは一番嘘が上手で…
つい騙されて、気がつけば手遅れでした。
その入院費を用立ててくれたのが、ラルフ先生とジュナイさんなんです。
ラルフ先生は残り少ない印税の取り分をはたいてくれて、
ジュナイさんは黒ギルドの仕事を何回か請けてくれて…
お陰でフレデリックは、終末医療って言うんですかね?あれを受けて。
痛みもなく「ありがと」って、笑いながら…し、死んだんです……
いや、大丈夫です。ありがとうございます。
タオルありますんで、平気です。
…葬式も俺とレオと、ジュナイさんとラルフ先生の4人でやって…
遺体は骨にして隣の部屋にあります。入れる墓も無いし、
きっと俺たちと離れたくない筈だって、レオが言い張って。
…俺とレオとフレデリックは、同じ孤児院で育ったんです。
孤児院ってピンキリでしょ?俺らがいたとこは、最悪でした。
国からの助成金はみんな懐に入れて、ガキはみんな家畜以下の扱い…
家畜の尻に突っ込んだりしないでしょ?そういう事です。
で、俺らは学校にもろくに行かせてもらえず、黒ギルドに売られたんですよ。
まぁ色々な事させられましたよ。
盗みや暴力沙汰は当たり前、売春ですらね…。
そんな毎日でも、孤児院よりはマシでした。
一番きつかったのは…
三人で冬の川にモモ貝を密漁に行って、死にかけた事ですかねぇ。
密漁って黒ギルドの内職じゃ割とメジャーで…
そうです、カロン川!よくご存知ですね…?
本で読んだ?
エイデンさんって読書家なんですね。ラルフ先生のファン?やっぱり。
…あ、それで話は戻るんですけど、そういう裏道のドブを浚うようにして
生きてた時に出会ったのが、ジュナイさんでした。
三人とも孤児院の出だって話したら、すごく親身になってくれて…
ヤバい仕事が俺達に回って来ないように、根回ししてくれたりしたんです。
最初はね、ジュナイさんが俺たちなんかのために、
なんでそこまでしてくれるのか、分からなかったです。
それで、レオのやつがなんで?なんで?ってしつこく食いついたら
「俺も孤児院で育ったから」ってようやく教えてくれて。
…ただ、ジュナイさんと弟さん…知りませんか?
ジュナイさんには弟がいるんですよ。俺らも詳しくは知らないんですが。
…とにかく、ジュナイさんと弟さんが入った孤児院は、
俺らのとことは違って優しい人ばっかりだったみたいで。
職員の人が自腹でお誕生日会してくれたり、
忙しいのに参観日には必ず来てくれたって聞きました。
それでジュナイさんは今のジュナイさんになったんだな~って、
よく三人で話してました。
妬ましくはなかったです。不思議と。
それで、もう三年前になるのかな…ラルフ先生の原稿書きの見張りを
俺らとジュナイさんとでしてた時があって…
あの時は本当に楽しかったですね。
ジュナイさんに「いい加減真っ当な職に就け」って説得されて、
ラルフ先生が原稿書いてる隣の部屋で、俺ら三人で資格の勉強したりね…
色々取りましたよ、魔導書士三級とか魔石ボイラー技師とか。
黒ギルドを抜けるのも、ジュナイさんが上の方に口利いてくれて…
不気味なくらい何事もなかったです。
お陰で今は冒険者ギルドの事務員ですけど、真っ当に働いてます。
レオは今休職してますけど、昨日も冒険者ギルドの上司や同僚が
見舞いに来てくれて、本当にありがたいです。
…レオが入院した理由?
……そうですね、話さない訳にはいかない。
レオは、心中しようとしたんです。
…冬のカロン川に入って…ジュナイさんと。
……ここから先は、レオから聞いて貰えますか。
俺は事が終わった後しか知らないんで。
…大丈夫です。話すくらい出来ますよ。甘やかす必要は無いです。
あいつには、あなたに話す義務がある。
…じゃあ着替えの用意は出来たので、車に載せて貰えますか。
助かります。
…フレデリックに手を合わせてから?
あ、ええと…ありがとうございます…!
フレデリックは…弟は、やたら人懐っこい奴でしたから、
きっと「友達が増えた」って、喜ぶと思います…。




