012 嘘つき【エイデン】
世間は三連休の初日だという事だが、下町の小さな商店街である
遺物横丁の客足が伸びる事は、特にない。
そればかりか、周囲の商店が一家総出で行楽に出掛けてしまい、
約半数の店が閉まっているので、むしろ閑散としている有様だ。
当然、俺の店にも客はいない。それは別に今日に限った事ではないが…。
「エイデンさんって、風俗とか行かないの?」
店番中に、ジュナイが突然そんな事を言い出した。
昼日中からする話かと諌めると
「客どころか、通行人すらいないんだから、別にいいだろ」
と、しれっと返された。
確かにそれはそうだが、いくらでも他の話題はあるだろうに。
何故そんな事を聞くんだと問うと
「別に?男としてはごく自然な疑問だろ」とジュナイは答えた。
…それを言うなら、ジュナイも同じだろう。
少ないが毎月給料を渡しているのに、そういった事に使っている様子はない。
「なぁ、なんで?まだ枯れる歳でもないよな?」
ジュナイがニヤリと笑う。
俺は他人にどんな答えを期待されているのか、察するのが苦手だ。
ゆえに小細工をせずに正直に答える事にした。
「惚れた相手としか、そういったことはしたくないからだ」
そう答えると、ジュナイはじっとこちらを見たあと、
さも小馬鹿にするように「嘘だぁ」と鼻で笑った。
失礼な奴だ。さすがにムッとして、なぜそう思うんだと問うと
ジュナイは少しの間黙った。
その顔にかすかに浮かんでいるのは笑みだが、
先ほどのように馬鹿にしたものではなかった。
「…だって俺としてるんだから、違うだろ」
その声も微笑みも、何かを諦めたように寂しげなものだと感じた。
…俺がジュナイと関係を持ったのは、間違いなく彼に惚れているからだ。
それ以外に理由が無い。
ただ、それを今言ったところで、信じてはくれないのだろう。
察しの悪い俺でも、なんとなくその事だけは分かった。
おそらく、彼は甘い言葉を期待して言っているのではないのだ。
「どう答えて欲しいんだ」
そう訊くと、ジュナイはやはり黙って俺を見た。
「欲しい言葉を言ってやるから、望みがあるなら言えばいい」
続けて言うと、ジュナイはゆっくりと椅子から立ち上がり、俺の傍に来た。
その額が俺の肩に触れ、わずかな重みを感じた。
「『お前なんか幸せになる資格はない』…
そう言ってくれないか」
ジュナイは今、どんな顔をしているのだろう。
その声と同じく、溢れる何かを噛み殺すように、つらい顔をしているのか。
何がここまで、彼を苦しめているのだろう。
この店に来る前のジュナイを知らない俺には、その絶望の根の底を
窺がい見る事すらできない。
腕を伸べ、そのしなやかな体を抱きしめると俺は「言いたくない」と答えた。
ジュナイはあきれたように少し笑った。
「…あんたは結構、嘘つきだね」
それきり何も言わず、ただ俺の胸に身を預けた。




