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真鍋先輩がリュックからタオルを取り出して、びしょびしょの僕を拭いてくれた。
「何で、待ってなかった?」
「遅くなっちゃったから……もう、居ないと思って」
真鍋先輩にされるがまま乱暴にごしごしと拭かれながら、僕は小さく答えた。
ふうって聞こえる、真鍋先輩のため息。
「定期ある?」
「あります」
「俺切符買ってくるから、待ってて」
「はい」
ちょうど大学や高校の下校ラッシュに重なって、駅はすごい人で。
僕は柱に凭れて真鍋先輩を待った。
先輩、僕、本当に分からない。
どうしたらいいの?
自分の気持ちをどこにぶつけたらいいの?
「行くぞ」
切符を手に戻ってきた真鍋先輩に、また、支えられて。
嬉しいのに哀しくて。
木戸先輩の姿が、ちらついて、寒くて痛くて。
真鍋先輩の肩に乗せる自分の手を、握り込む。
「あれ、乗ろう」
ちょうどホームに来た電車に、僕たちは乗った。
電車は激混みだった。
テスト期間中の普段乗らない時間帯の朝の電車ぐらい激混みで、その大半は数駅むこうの大学生っぽかった。
ぎゅうぎゅうで必然的に真鍋先輩とくっついちゃうんだけど、足が痛くて揺れる電車に踏ん張れない。
「こっち、来い」
真鍋先輩が見かねてドア側と変わってくれる。
ドアの横のスペースに凭れておさまって、やっと、落ち着く。
でも、真ん前は真鍋先輩。
近すぎて、顔が上げられない。
駅に着いて、更にその辺りの高校に通う生徒が乗ってくる。
もう超満員電車状態。
「わり」
ぎゅうって。
向かい合って密着する、僕と真鍋先輩。
ほっぺただって、もう、触れてしまいそう。
ドキドキ、する。ドキドキしちゃうよ、どうしても。
ただでさえドキドキなのに。
真鍋先輩、どうして?
真鍋先輩の右腕が、僕の腰に回って。
僕はまるで、先輩に抱き締められているようだった………。




