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魔王様に気に入られてしまいました  作者: ラズベリーパイ@天安門事件


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11/11

ハッピーエンド

 所変わって、フォルカーは古代竜の図書館で本を読んでいた。

 以前からこっそりと……勇がこの世界に来た時から、勇者や魔王についても調べていた。

 それによって魔王と勇者は恋人同士になることが多いらしい。


 そういった意味で倒される場合が多々あると書かれていて、笑ってしまった。

 確かに勇にも言われてしまったが一度は負けている。

 だから意地になってしまったのも当然だ。


 フォルカーは勇が好きなのだから。

 けれど自身の変化に、きっとこれは勇を傷つけると確信めいたものを持ってしまった。

 だから、フォルカーは勇を元の世界に戻そうとしているのだ。


 以前殺戮の王として有名だった“魔王”の変化に自分が似ているとフォルカーは気づいていたから。

 調べてももそれをどうにかする方法が見つからない。

 それでもまだ希望を捨て切れずに、フォルカーは探してしまう。


 生まれながらの王などと言われていても、この様かと思い、それでも探し続けるフォルカー。

 そういった一人で抱え込む癖が、フォルカーを危機に陥れているとは気づいていなかったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 一通り話を聞いた勇は、フォルカーの兄であるリューズに問いかけた。


「でも何故僕に話を? フォルカーに直接言った方が良かったのでは?」

「ああ、それはフォルカーが僕を頼ってこなかったからだ」

「……え?」

「しかもなかなか里帰りしてこないし、最近はリューズお兄ちゃんて呼んでくれないし、自分だけでなんでも出来ると思っているみたいで、転送の魔法についてだけ聞きに来るくらいだし……それも自分でどうにかしようと図書館に行くとかね。可愛くないからちょっと意地悪を」


 ニコニコ笑うリューズに僕は、


「そんな悠長に言っていられるのですか?」

「うーん、現状だとそんなに急いでどうこうする必要もないし、更に巨大な災厄が降ってくるなんて珍しい事態に陥らなければ大丈夫だと思う。それ用の手もあるしね」


 そこでリューズは目の前のお茶に口をつけながら、


「あの子は僕達古代竜のように、“記憶の複製”が出来ないだろう? だから一から色々教えていかないといけないんだけれど、会話って、自分の中にある知識を元にして話すじゃないか。だからフォルカーは知識がないから、結構苦労していたんだよ?」

「そうなのですか……でも、力は強かったんですよね?」

「うん、僕達、古代竜の誰よりもね。だからこそんなフォルカーのような古代竜のために、あの図書館は作られたのだけれど……初めは酷いものでね。結果しか書いていないから役に立たなくて、それに至るまでの思考が実のところ重要だとその後分かって修正が加えられて、今では多少重複する部分は省くけれど、まるっと残すようにしているんだ。だから以前よりも学びやすくはなっているんだよ」


 そこで話がそれてしまったねとリューズが語りながら、


「力を持つ者だからこそ知識が必要なんだ。その力がただ猛威を奮うだけなら自然災害と同じだからね。

さて、そんなわけでこれから君には頑張ってフォルカーを誘惑してもらわないといけないね」

「あ、あの……手助けしてくれる人に今の話をしてもいいですか?」

「うーん、これ、禁忌の知識なんだよね。フォルカーならまだしも……じゃあ話すと不味そうな所は君の話す言葉に制限をかけて、話せないようにしておくよ」

「よ、よろしくお願いします!」


 こうして僕はリューズに魔法をかけてもらう。

 そこでリューズが、


「他に何か聞きたいことはあるかな?」

「以前僕は竜を癒やした事があったのですが、竜を狂わすというのは何ですか?」

「ああ“人間”の魔法だね。“人間”はよくあちら側に行ってしまった人間が大好きな竜を操って、戦闘の道具にしていたんだ。今回はこちらに仕返しに放ってくれたから良かったと思うよ、その操る魔法を解けたからね。それに竜を操れるだけの強い力を持つ“人間”だから、古代竜に気配が似ていて警戒を解いて油断しやすいというのもあるのだろう」

「僕は知りませんでした」

「その話を聞いて、君が傷つくのを恐れたのかもしれないね」


 笑うリューズに僕は、そんなところでもフォルカーの自分への優しさを感じ取ってしまう。

 そんな僕にリューズが小さく笑い、


「でも異世界に帰す方法か。こちらから君を召喚した人間の世界はもともと同じだから、簡単に転移もできるし、その時の世界の接触の影響は少なくて済むんだよね」

「その力をもしかして応用すれば……」

「残念だけれど、無理だね。こちらと人間の世界がいつ頃何処で接触するのかの予測は出来るのだけれど、君のいた世界はここからそこそこ遠いし」


 僕はそれを聞いて、そうなのかと思って……気づいた。


「何時頃人間の世界と接触できるか分かるのですか! そうすれば獣人達の村は……」

「あの件は、人間側が、介入して大きく開いていたようだから、本来は捨て置いてもいい大きさの穴だったんだよね。っと、フォルカーが戻ってきてしまったから、お話しはこれまでかな」

「……そう、なんですか。ありがとうございます、色々教えて頂いて」

「素直で可愛いな……でも、僕はフォルカーも大切だから、よろしくね」


 そう笑うリューズに、その意味に気づいて僕は顔を赤くしてしまう。

 そこで僕の傍にやってきた、図書館から不機嫌そうに戻ってきたフォルカーに、リューズが僕を元の世界に戻す方法(嘘)を伝え、この場ですぐには送れないとフォルカーは判断し、その場を後にしたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 ちなみにこの古代竜の村で一泊していかないかとリューズに言われたフォルカーは、


「仕事がありますので」


 と言って僕を連れて逃げた。

 そしてセラフとベルゼルが歓迎されすぎて、もみくちゃになってげっそりしているのを拾い、魔王城に帰ってきた。

 そこで、疲れてボロボロになりかけたベルゼルが、


「……今度からこまめに帰ろう。じゃないと一気に歓迎されて死にそうになる」

「……そうですね、そうしましょう。……私もベルゼルとの関係を根掘り葉掘り興味津々で聞かれるのはもう疲れました」


 ベルゼルにそう答えるセラフ。

 二人してお疲れ様な感じだけれど、そこでフォルカーは、


「さっそくだが、勇を元の世界に帰すための準備をする。手伝って欲しい」


 そういったフォルカーにセラフがげっそりとしたように、


「家族の相手を全部私達に任せて逃げたくせに……せめて休憩をください。精神的にもう無理です」

「ぼ、僕も~」


 ベルゼルが疲れたように同調する。

 そこでフォルカーはちらりと僕の方を見るけれどすぐに視線をそらし、


「では俺一人でも進める」


 そうフォルカーが告げて、フォルカーはその場を去ったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 フォルカーがいなくなって丁度いいので、僕はセラフとベルゼルにお話した僕。

 セラフが驚愕したように呟いた。


「ま、まさか歴代魔王が人間の“勇者”の色香に惑わされていたなんて……」

「そ、それは置いておくとして、そのですね」

「ええ、フォルカーが貴方を抱かないと危険という話でしたか」

「はい」

「それでもう少し詳しく話せますか?」

「えっと、そもそも世界が衝突して落ちてくる災厄はうにゃらにゃらにょらららにやらなのです」

「……禁忌にかかるとはいえ、こうやって言われると馬鹿にされているような気がしますね。でも、分かりました。僕はお手伝いします。ベルゼルもいいですね」


 それにベルゼルもはーいと答える。

 それからセラフは僕に向き直り、


「それでリューズさんはフォルカーに話せないのですか?」

「いえ、リューズ……古代竜の方のフォルカーのお兄さんが言うには、『お兄ちゃん』と呼んでこなかったり、なのに異世界に送る為の方法が知りたいと頼ってきたりするのが気に入らないらしくて」

「……なるほど」


 セラフが虚ろな目つきで頷いた。

 なにか思い当たる節があるらしい。


「それに、大量の災厄が降ってくるとは思えないし、そうなったとしても、どうにかする方法があるそうなので大丈夫かと」

「ですが、その災厄の影響でフォルカーがおかしくなっているのを、試しに伝えておいた方がいいでしょう。それからでも勇に誘惑させるのは遅くはありません」

「話して、大丈夫かな? ああいう風に言っていたけれど、フォルカーに直接行っても無駄だとリューズさんが思ったから、という可能性はないのですか?」


 あまりに馬鹿馬鹿しい理由なのでなにか裏の意味が、と思ったのだけれど、セラフは首を振り、


「リューズさんは昔からそういう人です」


 の一言で終わったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 セラフはフォルカーに一度話してからでも遅くないのでは、ということで話しに行きました。

 その後を僕とベルゼルはこっそりつけていって、セラフには離れた所の声を送受信する魔法の玉を持って行ってもらい、僕達もそれを一つ持って様子見をしていたわけですが、


「……俺に、降ってきた災厄が影響していると?」

「ええ、何か思い当たる節はありませんか?」

「無い」


 短くセラフに一言告げるフォルカー。

 どうしようかと思っていると、


「それで、その災厄の影響を俺が受けているとして、俺はどうすればいいんだ?」

「そ、そうですね……確か、勇者と魔王が恋人同士になっていた経緯から察するに、勇をフォルカーが抱くのはいかがですか? ほら、勇は“勇者”なので、全ての魔を、呪いを癒す力がありますし」

「……俺はもう、勇に興味はない。だから元の世界に帰すのだから」

「で、ですが……」

「セラフは俺と勇が恋人同士になるのは否定的だったのでは? それを今更、どうして俺に薦める? 何が理由だ?」


 フォルカーが苛立ちを抑えた声で言う。

 その低い声に、フォルカーの怒りが感じ取れて、少し離れた僕達もびくっとしてしまうが、それはセラフも同様だったようでしどろもどろになりながら、


「え、えっと……勇が嫁としては良いのかもという話に……」

「……心配してくれるのは嬉しいが、今は忙しくて恋人を作る暇もないと伝えておいて欲しい。養父母も兄弟も俺に対して過保護だからそういうのかもしれないが、俺はもう大人だ。自分の事は自分で決められる」

「そうですね。そう伝えておきます」


 こうして、セラフのフォルカーへの説得は失敗してしまったのでした。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そんなわけで、僕の部屋に戻り次ぎの作戦に移ったわけですが、夜這いをしようといった話になった。

 そして現在、セラフの力も借りてフォルカーの部屋の鍵を開き、僕はフォルカーの部屋に潜入しました。

 暗い部屋だけれど、カーテンの隙間から薄っすらと月明かりが差し込んでいる。

 これからすることを考えると暗い方がいいのだが、フォルカーのいる場所まで辿り着くには明るい方がいいという矛盾。

 なのでこれくらいの薄暗さの方がいいだろうと僕は歩き出す。


 足音は立てないようにゆっくりとフォルカーに近づく。

 フォルカーの寝顔ってどんななんだろうと思いながら、それに意識を移してこれからの事は考えないようにする。

 やがて、ベッドのすぐ傍までやって来て、そっとフォルカーを覗きこもうとする。


 けれどすぐに眠っているはずのフォルカーから手が伸びて僕の手首を掴んだかと思うと、ベッドにうつ伏せに押し付けられて、後ろ手に拘束されてしまう。

 そこでフォルカーは、僕だと分かったようだった。


「勇? ……何故ここにいる」

「えっと、フォルカーに夜這いしに?」


 フォルカーが沈黙して、それから深々とため息を付いて、


「セラフやベルゼルに唆されたのか?」

「ち、違う、僕はフォルカーが……」

「いや、聞かなくても推測はつく。俺が災厄の影響を受けているだの、勇を抱けだの冗談だとごまかしていたが、本気だったと」

「い、え、あの、その話は本当で……」

「セラフの話は嘘だから、そんな義務感にかられなくていい。大方俺が勇を好き過ぎておかしくなったと思っているのだろう。だが、俺はもう勇には何の執着を持っていない」


 そう告げられて僕は凍りついた。

 そんな僕にフォルカーは更に続ける。


「勇を元の世界に戻すのは、竜を助けてもらったことや、獣人の“姫”を守ってくれたことへの、魔族の長としての礼だ。だから気にしなくてもいい」

「でも……」

「もう夜は遅い。部屋に戻って眠るといい」


 優しい声音で僕はフォルカーに諭される。

 けれど僕はもう少しふんばろうとして、そこにとどまろうとする。

 そこでフォルカーの顔が近づいてきて、僕の唇と重ねられる。


 それは触れるだけの軽いキス。

 けれど久しぶりだったからだろうか、酷く温かくて幸せな気持ちに僕はなる。

 そして唇を放したフォルカーは、


「もう部屋に戻って眠るといい。……俺からの願いだ」


 フォルカーに微笑まれ、部屋の外にまで案内されて……待っていたセラフに僕は引き渡される。

 フォルカーはセラフを微かに怒ったように見ていたがそれ以上は何も言わなかった。

 それから次の日もその次の日も、女装をしてまで僕は頑張ったのだけれど、フォルカーは僕に手出ししてこない。


 僕に魅力がないから仕方がないと諦めかけたその日、事態は急変したのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




「いい加減にしろ!」


 声を荒らげて、フォルカーは僕に怒鳴りつけたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 まずフォルカーがこんな風に怒り出すまでの経緯について話そうと思う。

 今日は、夜に誘惑するので勇の姿が見えないので耐えられるのでは、という理由から、昼間に誘惑することにした。


 そんな僕は、セラフのが事前に人払いをしてフォルカーだけにしていた、異世界転送用の儀式(嘘)の部屋にやってきて、フォルカーに抱きついたわけですが……。

 抱きついた瞬間、フォルカーが凍りついいたようにかたまりました。

 暫く動かなくなるフォルカーに抱きついたままの僕はフォルカーの様子を伺うと、悲しそうでつらそうな顔をしているのに気づいて、僕が何か言おうとした所でフォルカーはそれに気づき……怒り出しました。


 強い力で僕を引き離して、セラフ達の方に倒れこむように突き飛ばされて、ベルゼルとセラフに僕は抱きとめられた。

 そんな僕はフォルカーからずっと目が離せなくなっていた。

 見たこともないような怒り狂った表情でフォルカーは僕に、


「いい加減にしろ!」


 声を荒らげて、フォルカーは僕にを鳴りつける。

 僕はやりすぎてしまったのだろうか、嫌われてしまったのだろうかと思って、絶望的な気持ちになる。

 だって僕は、こんな風な格好までしてしまったのは全部……フォルカーが好きだからで。


 だから少しでも振り向いて欲しくて、それがもうフォルカーが僕に興味を失った後だったから、だからこんな風にまでして……。

 機会だと思ったのだ。

 フォルカーを癒す力があるのは僕だけだと思って、だからこれを機会にと思ってしまったのだ。


 今更だったのに。

 当たり前だ。

 なのに僕は、未練がましくフォルカーに縋り付いて、だから起こるのは当たり前で……。


 だったら何で初めてフォルカーの部屋に忍び込んだ時キスをしたのだろうと思う。

 どうして僕に期待させたのだろうと思う。

 違う、これはいいわけだ。


 責任を全部フォルカーに転嫁させているだけだ。

 きっとフォルカーは優しいから、僕の気持ちに気づいて、なだめる意味でしてくれたのかもしれない。

 それに甘えてしまった僕がいけなかったのだ。


 そう思うと僕の瞳に自然に涙が浮かんでくる。

 そんな僕にフォルカーははっとしたような顔をしてから視線をそらし、


「……これ以上、俺に近づくな、勇。俺が……我慢できなくなる」


 それはどういう意味だろう、とか、期待していいのかと僕が聞こうとした、その時だった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 城の地面が小刻みに揺れる。


「じ、地震?」


 僕は小さく呟くけれど、フォルカー、セラフ、ベルゼルは一斉に天井を見た。

 正確にはそのさらに遠くを見ているようであったけれど、僕には分からない。

 そこでセラフとベルゼルが即座にフォルカーに視線を移して、


「フォルカー、今すぐここから避難を! これは、災厄が落ちてくる前兆です。地鳴りとともに揺れが起こり、災厄が降ってくる……そう伝えられています」

「そうか、それで?」

「だからフォルカー、僕達の中で一番強いフォルカーがおかしくなられると困るんだ。僕達では止められないし、古代竜の皆さんに助力をう事になるだろう? 聡いフォルカーらしくな……」


 そこまで言って、ベルゼルとセラフは気づいた。

 フォルカーの様子がおかしいと。

 何故先ほどはあれほどまで怒っていたのに……今は笑っているのだろうと。


 よく見れば、フォルカー目指して黒い何かが滴り落ちている。

 霧状のものではなく、濃密な黒い液体となりフォルカーにポツリと零れ落ちている。

 まるでフォルカーに狙いを定めるかのように。


 そういえばこの災厄である“瘴気”の影響を受けると、更にそれを引き寄せやすくなると聞いたようなと僕が思っていると、ベルゼルが僕の方を見て、


「えっと、えーと、確か、更に災厄が降ってくるまでは大丈夫だろうって話だよね?」

「は、はい、僕はリューズさんにそう聞きました。それにそんな風に災厄が落ちてくる可能性は少ないだろうと」

「うーん、フラグ?」

「そんな冗談を言っている場合じゃ……え?」


 そこでフォルカーの背に、羽が生まれる。

 黒い竜の、蝙蝠のように角ばった翼がフォルカーの背に現れる。

 それはとても大きくて、フォルカーの身長よりも大きい。


 それが金色の細かい粒のような燐粉を放ちながら、その翼はフォルカーの背に広がっている。

 フォルカーの姿に相まって、その美しさに僕は一瞬目を奪われる。

 すぐ側でベルゼルが呟いた。


「いきなり第三形態ですか。昔試しに一度見せてもらったことがあったけれど、これは危険そうだね。というわけで、先手必勝で全力で行きますか!」


 そう言ってベルゼルが自身の力を全力でフォルカーに振るうが、フォルカーはといえば、


「邪魔だ」


 一言呟くと、ベルゼルは側の壁にぶつけられた。

 しかも子供の姿になっているので、彼の言葉通り全力をだしたのだろう。

 それでも、敵わないようだ。


 更に付け加えるならば、フォルカーはその戦う時もベルゼルを見ていなかった。

 ずっと、その間……僕を見つめていた。

 まるで獲物に狙いを定めるかのように。


 そんな僕の視界の端で、セラフが気絶したベルゼルを抱き上げていた。

 呼吸などを見て安堵している様子から察するに、息はしているらしい。

 それに僕も良かったと思って、その僅かにフォルカーから意識を逸らしたその間に僕は、フォルカーに腕を捕まれ、抱きしめられた。


 その強くて痛みすら感じるそれに僕が驚いてフォルカーに唇を重ねられる。

 しかもそのまま床に押し倒されて、体を弄られる。

 突然起こったそれに僕は理解できず、けれどフォルカーが発情しているらしいと気づく。と、


「勇、そのままフォルカーをこの場で食い止めていてください! 私とベルゼルは、非常用の転送陣で古代竜の村に向かって助力を乞いに行きます!」


 そう告げてセラフはこの場からいなくなった。

 そこでようやく僕は気づいた。

 もしかして、僕、囮にされた?


 最善の策とはいえ、これって無いんじゃないかなと思っている内に、フォルカーの熱い舌が僕の中に入り込んで来たのだった。

 祖押してそのまま抱かれてしまった僕だけれど、そこには以前のように優しく僕を見つめるフォルカーが気付けばいて、


「フォルカー?」

「……激しくして済まなかった、勇が可愛くて途中で止められなくなってしまった」

「……いいよ、フォルカーが元に戻ってくれてよかった」

「ああ、勇達の言っていた話は本当だった。なのに俺は一人で我慢して、勇を遠ざけようとして……」

「でも全部、僕を思っていての事だったんだよね」

「そうだ」


 頷くフォルカーに僕は、


「フォルカー、愛してる」

「俺も、愛してる」


 自然にこぼれた言葉に、フォルカーがそう答えてくれる。

 幸せだなと思った所で僕は気を失ってしまったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 ベッドに寝かされていた。

 起き上がるとふらふらするも、何とか歩いて部屋の外に出る。


 人のざわめきを頼りに歩いていくと、そこにはフォルカーが立っていて、黒い靄のような“瘴気”に向かって手をかざしている所だった。

 その姿は僕が見ていたフォルカーの中で一番凛々しく見えた。

 そして“瘴気”を消し去るのは一瞬だった。


 パチンと大きな音がして、“瘴気”が消え去る。


「これで全てを消し去った。……勇、起きたのか」


 そこで僕に気づいたらしいフォルカーに微笑みかけられた。

 それに僕はふらふらと近づいていくと、フォルカーにギュッと抱きしめられる。

 以前のように抱きしめられて僕は、幸せな気持ちになる。と、


「……二人して随分幸せそうですね、私は酷い目に合いましたが」


 セラフが恨めしそうに僕達に話しかけてくる。

 どこかふらふらしているのと、ベルゼルが元の姿になって元気そうなのを見れば大体の状況が察せられた。

 そんなセラフから、僕がフォルカーに襲われた後の話を聞くこととなった。

 まず、フォルカーに僕が襲われている間に、セラフは古代竜の村に向かったのだが……そこで、フォルカーの兄のリューズに話した所、


「そうなのかい? でも放っておけば元に戻るだろうから、そのままでいいと思うよ?」

「いえ、ですが……」

「ああ、戻ったらフォルカーに、嫁と一緒に挨拶に来るよう伝えて貰えるかい?」


 で、終わったらしい。

 確かに僕と交われば、フォルカーは元に戻れるのだけれど、余裕があり過ぎではないだろうか。

 そう思ってフォルカーの様子を僕が伺うと、フォルカーが無表情になっていた。しかも、


「……今度古代竜の村に戻っても、リューズ兄さんとは口をきかないでいてやる」


 フォルカーは子供っぽい仕返しをすることを決めたようだ。

 それに僕が吹き出すと、むっとしたようなフォルカーに僕はキスされてしまった。

 けれどそこで新たな事実が発覚する。


「僕、結局元の世界の戻れるのかな?」

「俺はこの世界にずっといて欲しいが、やはり元の世界には戻りたいか。分かった、異世界に転送する魔法陣を引き続き作ろう」

「あ、あの、でも実はあの魔法陣、偽物で」

「……どういうことだ?」

「その、フォルカーと僕が、そういった行為に及ぶ時間稼ぎというか、その関係で偽物を教えておくってリューズさんが」

「……勇、この世界で俺と一緒に暮らしていこう」

「で、でも一度元の世界に戻らないと。それに」

「それに?」

「ラーメンの丼ぶりをお店に返さないといけないし」


 実際に僕は、ラーメンを食べている途中でこの世界というか人間の世界に召喚されてしまったのだ。

 なのでそのお店に丼ぶりを返さないといけない。

 そして渋々と頷いたフォルカーが、古代竜の村にて兄のリューズと兄弟喧嘩の果てに、喧嘩両成敗と二人の本当の両親に、フォルカーとリューズが力づくで止められたり、そのフォルカーの本当の両親にそろそろ禁忌を解除してもいいかなと思った内容だったとやり方を書いた本を僕に預けてくれたりしたりと大変な出来事があった。


 そうして僕とフォルカーは魔王の城に戻ってきて、もうリューズ兄さんとは二度と口をきかないとフォルカーが怒っているのをなだめながら、意外に簡単に出来る転送魔法陣と、それの鍵となる宝珠を二つ、創りだしたのだった。

 この間、約二日の出来事だった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 渡されたのは、赤い一つの宝玉。

 もう一つはフォルカーが自分用に持っているらしい。

 いつでも僕に会えるように、だそうだ。


 そして、明日に転送という話になり、僕の歓迎会が開かれる。

 色々あったためか、セラフも僕に対して優しくなったというか認めてくれた感じで、ベルゼルも同様だった。

 ちなみにその二人は歓迎会の途中、何処かに消えていった。


 相変わらずお盛んなようである。

 また、この世界と僕の世界では、時間の概念が違うらしいので、僕が望んだ時にその時間に行けるらしい。

 幾つかの制約はあるようだが。


 なのでこの前の次の日、といった音声入力でその時間に飛べるらしい。

 不思議な感じがするが、そういうもののようだ。

 そうやって宴会をしていると、獣人の“姫”の服を着たフランが現れた。


 幾つもの白や、白くて透き通る布を重ねた民族衣装のような服を着て頭には髪飾りが付けられている。

 この格好だと女の子みたいで、お姫様と言われても遜色ないね、と褒めたらフランが怒った。

 怒って押し倒されてしまった僕だけれど、そこで、フランがふんふんと僕の匂いを嗅いで猫耳をぴくぴくさせる。


 何をやっているんだろうと僕が思っていると、フランが涙目になって僕を見て、


「勇、もしかしてフォルカー様と……」


 涙目なフランだけれど僕としては何故バレたし、と僕が思っていると、匂いで分かったらしい。

 そうやってフランと話したりしてそれから僕は、フォルカーの力によって元の世界に戻されたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 それから元の世界の戻ってきた僕は、ラーメン屋の席に座っていた。

 目の前には空になった丼ぶりが有り、財布を出して料金を支払い店を後にした。

 その後はまっすぐ家に帰り、そこでようやくポケットの中にはいっているあるものを取り出す。


 それは赤い石だった。

 フォルカーのいる世界に行ける石。

 それを見て僕はようやく安堵してベッドに転がり込みながら、


「うん、夢じゃなかった」


 呟いてみて、ようやく僕は実感する。

 これでまたあちらの世界に、フォルカーに、皆に会いにいける。

 もしも夢だったらどうしようと未だに僕は不安を抱えていたけれど、大丈夫なようだ。


 そして僕は夏休みの間、毎日あちら側で過ごすようになるのだけれど、“人間”であり“勇者”な僕は、歳を取りにくいらしい。

 なのでフォルカー達と一緒の人種のようなものになってしまうらしい。


 その辺の事情は置いておいて、このほど獣人のフランはジルの恋人になって、僕とセラフに愚痴っていた。


「……ジルが激しいいんだけれどどうすればいいと思う?」

「実は僕もフォルカーが」

「私もベルゼルが」


 といったようにフランに同調する僕とセラフ。

 このままでは体が持たないのでこっそり三人で避暑地に遊びに行こうという話になった。

 準備は秘密裏に行われ、日程も数度変更し、偽の日程表を残すなどの工作活動を僕たちは繰り返した。


 そして、いざ避暑地に僕達が着いてみると、フォルカー、ジル、ベルゼルの三人が宿の前で待ち構えていて……お仕置きと称して何時もよりも激しくされて、僕達はもう、もう……。

 その後も反省会を行い、別の手法を全部試した結果すぐに場所が割れてしまう。

 何故だろうと思っていると、全ての原因は僕でした。


「“勇者”の力を抑えるために印がついているからな」


 フォルカーのあの時の笑顔は忘れられませんでした。

 しかもジルは守護とてフランに印をつけていて、ベルゼルは子供の時にすでにライバルを秘密裏に消し去るためにセラフに印をつけていたのが判明した。

 嫉妬深い恋人に対して、僕達はもう少し自由がほしいと駄々をこねて、三人の楽しい旅行をしてみたけれど、結局恋人の側じゃないと物足りないといった話になった。


 そんな出来事があったり、他にも騒がしい出来事がいっぱいあって、それはそれで楽しい日々が続いていく。

 それが幸せだなと思いながら僕は直ぐ側のフォルカーに、


「愛してる」

「俺もだよ」


 短い言葉で告げて、唇を重ねる。

 フォルカーという“魔王様”に気に入られて、恋人になって、次はどうなるのだろうと思う。

 けれどきっと、これからの未来もこんなふうに幸せなんだろうなと僕は想って、唇を放したフォルカーに抱きついたのだった。





「おしまい」




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