冷たい人形
久々の新章突入です。
そして相変わらずの酷いネーミ(以下略)
ボクは待っていた。兄――ヤシが来るのを。
でも、それからしばらく、ボクの所へ来るのは召使いだけだった。
あれから一年が経ち、ボクの10歳の誕生日。
ボクの元へ来たのは、ヤシではない兄だった。金髪に翠の瞳を持った、いかにも王族といった雰囲気を持っていた。たしか国王も、髪と瞳がこいつと同じ色だった気がする。
「はじめまして、シュロ。私はヤシの兄のソテツだ。もちろん、君の兄でもある」
「……何の用?」
「父上…国王陛下から頼まれた物を渡しに来たのだ」
ソテツと名乗った男は持っていた木箱を、食器を出し入れするための小さな扉の前に置いた。
「誕生日プレゼント、だそうだ」
今度来るときは人形を持ってくるって、ヤシと約束したのに。
「何か伝えたいことがあれば、召使いを通して伝えてくれ。それでは」
ソテツはさっさと去って行った。
「……」
階段の音が消えたのを確認すると、扉を開き、木箱を取り出した。それの縦の長さはボクの腕を伸ばしたのと同じくらいで、横はそれより少し短い、長細い形の箱だった。
ベッドに腰をおろし、木箱のふたを開けた。すると、
中には、人形が入っていた。
ボクと同じ茶色の髪に赤い瞳をした、少年の人形。わざとボクに似せて作ったのか解らないけど、すごく腹が立った。大きさは、いつもボクの所に持ってこられる物と同じくらい。だけど、いつも通りの布で出来た物じゃなくて陶器製の物だった。
これじゃあ、“処刑ごっこ”ができないじゃないか。
ふと、この人形にどこか見覚えがあるような気がした。
……まさか、そんなはずない。
ボクは人形の髪を撫でる。次に、ボクの髪を触ってみる。
次に、赤い瞳を近づいてよく見てみる。
感触も見た目も、人間に近い。いや、人間そのものだと思う。
「……そ、んな……」
そして、ボク以外の茶髪と赤い瞳を持つ者を、ボクは知っている。たった一度見ただけだけど、鮮明に覚えてる、あの人の顔。
だけど、信じられるはずがない。
人間そっくりの造りをした、髪も瞳の色も偶然似ている人形だと思いたい。
ボクはそっと人形を持ちあげた。陶器だからか、ずっしりと重たい。
木箱を覗くと、底に文字が書いてあった。
――ヤシ・マルバ・グロキシニア――
「……!!」
それまでのボクの微かな期待が、踏みにじられたようだった。
手から人形が滑り落ち、絨毯の上に転がった。
ボクは膝の上に置いていた木箱を床に置き、ベッドに横になった。布団に包まり、静かに呼吸する。
どうしてだろう。悲しいのに、涙は出ない。〈お父さん〉がいなくなった時みたいに、大声を上げて泣いたり喚いたりできない。
ただ、息が苦しくなるくらい大きくて真っ黒な闇が、心の中をゆっくりと支配していった。
「これから、仲良くなれるって……、思ってたのに……!」
気がつくと、ボクは真っ白な空間にいた。
こんなことが前にもあったな、と思っていると。
『やあ、シュロ君。久しぶりだね』
爽やかな声が聞こえた。知っているような、知らないような声だった。
やがて、目の前に一人の青年が現れた。




