『はじまり』の始まり(5)
耳をふさいでも、不況和音は鼓膜を突き刺すように聞こえてくる。
「ぐあああぁぁっ!」
「んだよ、これ…頭が、割れ……」
「か、神様…どうか、お助け、くだ、さい……」
その音はその場で立っていた者、軍人も町の人も関係なく全てに膝をつかせた。
ただ一人――――微動だにしないカイウを除いて。
数メートル程離れたカイウを見つめていると、違和感を覚えた。彼の髪や服の裾がほんの微かに、風になびくように揺れていた。今は、風なんか少しも吹いていないのに。
「カイウ…ねえ、どうしたんだよ!」
声がかすれた。届かないなんてわかっていた。
でも、言葉を発していないと、
仲間がいるという安心感がないと、
気が狂ってしまいそうだった。
それでも、音は止まない。頭の中はガンガンと金が鳴り響いているように。
――――ふと、耳元で囁くような声が聞こえた。
「……ソウ」
それは、遠くにいるはずのカイウの声だった。
そしてぼくの思考が追いつく間もなく、音はピタリと止んだ。
「くうっ……」
それでも、頭に痛みが残った。両手で頭を抱えこんだ。
「ソウ、大丈夫だった?」
「うん。なんとか大丈……」
聞き覚えのある声に安堵し顔を上げると、そこにはいつも通りの、何食わぬ顔で立っているカイウがいた。
「ぇ……」
「ほらほら、泣くなよ。いつもの勇ましいソウはどこに行った?」
……何が起きているのか、まったく解らない。いや、さっきまで起きていたことも、ぼくは。
何一つ解っちゃいなかった。
☆ ☆ ☆
たしかに、動物の鳴き声は馬の声に聞こえた。人々の悲鳴や、物が壊れる音、馬の足音が徐々に近づいていた。
「そんな…こんなこと、今までなかったのに……」
「いいからソウ、お前は先に逃げろ。俺たちが人を集めたんだ。俺たちが責任もって皆を避難させる」
「でも……」
ソウが納得のいかない様子で動かずにいると。
「……お前のことだから、こうなると思ってたよ。俺とサヨネ、2人だけじゃ人数足りないから手伝ってくれるか?」
この場に不似合なくらいの笑顔で言った。
「うん。それじゃあ、東側の通りに通じる道の方へ行ってくる。カイウは、反対側の大通りをよろしく。……えっと、その、歌姫さんは……」
「歌姫じゃなくて、サヨネ。あいつなら、大丈夫なはずだ。自分より他人が優先っていうお節介なやつだからな。あとで紹介してやるよ」
うん、と返事をしようとして、うまく声が出なかった。
(ちょっとはしゃぎ過ぎたかな?それとも緊張? ……とにかく、みんなを助けないと)
「それじゃ、またあとで広場に集合な」
そう言ってカイウは去っていった。
「ぼくも、急がなくちゃ……」
方向転換をし、あわてる人々に呼びかけながら車いすを走らせた。




