『はじまり』の始まり(3)
☆ ☆ ☆
広場の中央にある、進入禁止用のロープが張られた小さな舞台の中には、小さな台があるだけでまだ『歌姫』はいなかった。
ソウが広場へ来たときでも40,50人程の人がいたのに、どんどん数は増えてきている。
「と…通してください! わああっ、すみません……!」」
人々の隙間から透明感のある澄んだ声が聞こえた。
しばらくすると、人の波をかき分けて、少女がロープの中へ弾き飛ばされた。
「おおー! 『歌姫』の登場だー!」
「待ってたよー!」
「歌姫ー!」
「ありがとうございます!」
人々の声援に笑顔で応えるその少女――歌姫は、先ほどの影響からか、髪がボサボサで少し涙目になっていた。
しかし、ソウにとってそんなことはそうでもよかった。
――――髪が白くて、瞳が碧い……! ぼくと同じカッシア族……。
「この町では最後のライブになりますね。いつも来てくださった方々本当にありがとうございます。それでは、よろしくお願いします!」
髪が少し乱れている歌姫の笑顔は、輝いて見えた。
歌姫が歌っているしばしの間、町は話すことを忘れたように静寂が訪れた。それほど、歌姫の歌は魅力的だったのだ。
そしてまた、ソウも歌姫の歌に魅せられた一人だった。
(何だろう…この気持ちは。言葉にならない…いや、できないような……。不思議で、でも温かい……!)
気がつくと、眼から涙が溢れていた。
(あれ、なんで、涙なんか……?)
あの事件以来、ソウは人とかかわることを拒絶し、感情を殺していた。そうすれば、幸せを失うことも、また身体の一部を失うことも、大切な人たちの命を失うこともないと思ったからだ。
(感動…してるんだ、きっと。この人の歌に、ぼくは心を動かされたんだ……)
たくさんの国で、この歌姫が愛されている理由が解った気がした。
「今日まで、本ッ当にありがとうございました!」
ペコリ、とお辞儀をした歌姫は、張ってあったロープの一部を解き――――
「それでは、また会う日まで!」
それだけ言うと、小柄な体格を生かし、人ごみにまぎれて消えた。
「ど、どこに行った!?」「サイン貰おうと思ったのに~!」「お話ししたかった!」
やはりあの人は人気なんだな、とソウは再確認した。
それにしても、いきなり逃げるとはどういうことだろう。
「おーい、ソウ」
いきなり肩を叩かれて驚いたが、それがカイウの声だと認識するのに時間は要らなかった。
「やっぱり、来てくれたんだな。で、どうだった? 世界で『歌姫』と呼ばれたやつの歌は」
何を言えば良いか、一瞬躊躇ったが。
「…言葉に、できない」
正直に気持ちを伝えようと思った。
「なんか、温かくなった」
「……そうか。――――お前、笑えるんだな」
「え?」
ソウは自分の顔に手を当てた。たしかに、頬が緩んでいた気がする。
「いや…なーんか表情が豊かになったつーか……。サヨネの威力、すげえな」
「うん、ぼくもあの人に会って話がしたい!」
数年前にかえったように、目を輝かせながらソウは尋ねる。
「あ、それは……」
「あの人、何歳? なんで一緒に旅してるの? なんでさっきは逃げちゃったの?」
「落ちつけ、落ちつけ! ……あいつは14歳で、お前の一つ上だ。 旅をしているのは、あいつの…弱点克服みたいなものに、俺が協力してる…ってかんじかな。んで、世界回ったりとかしてるけど、あいつは極端な人見知り。向かい合って10秒もすれば仲良くなるんだけどな……。大勢の前だと駄目なんだ」
「ぼく、仲良くなれるかな」
カイウはソウの頭にポン、と手を置くと。
「ああ。きっとなれる。もしかしたら、俺よりも仲良くなるか――――」
――――ドカドカドカドカッ―――――
「きゃぁぁぁぁ!」「なんだ!?」
人々の悲鳴にまぎれ、動物の鳴き声が聞こえた。
「荷運びの馬が暴走した! こっちの方へ来るぞ!」




