手紙
王妃が死んだという知らせは、【神の視点】を使って知った。
いつもより国が騒がしいと思い、街の野良猫に視点を移した。
『王妃様が亡くなったらしい』
『つい最近まで国中を回っていらしたのに…』
次は空を飛ぶ鳥。
『私たちはあの方のおかげで勇気をもらえたのに…』
『急な病気だったらしい』
その近くにあった木に変わる。
『そんな、もともと体が丈夫じゃないと聞いているぞ』
『暗殺されたと言っている奴もいた』
人々の噂を一通り聞き、ボクに戻る。
「ふうん……。王妃がなくなった?」
そんなこと、ボクにはどうでもいい。この国がどうなろうと、顔も知らない父親に塔に監禁されている身なんだ。
「――――シュロ様。朝食を持ってまいりました」
半年前から一日三回は聞くこの台詞。
「そこに置いてくれ」
息をのむ気配があった。……これは新入りだ。
「そ…それから、ご主人様から『何か欲しい物はないか』と言伝を頼まれてきました」
召使いの声はほぼ毎日変わる。ボクは小さく呟く。
「人形だ」
「へ……?」
「人形が欲しい、と『ご主人様』に伝えろ」
たとえ憎い相手でも、利用できるなら使ってやる。
「……か、かしこまりましたっ!」
それだけ言うと、召使いは慌てて部屋を出て行った。
数時間後、昼食を持ってボクの元へやってきたのは、朝とは違う召使いだった。
「手紙を、預かってまいりました」
夕飯を運んできた若い男の召使いは、ただ静かに仕事を果たすためにそう言った。
「手紙? 誰から」
「ご主人様です」
ご主人――つまり、ボクの父親。何の関係もない〈お父さん〉とその奥さんを利用して殺した、最低な人間。
「返事がある場合、明日の朝お渡しください」
やはり静かに言うと、彼は部屋を出て行った。
階段を下りる音を確認すると、ボクはご飯よりも先に手紙を手に取った。
「何なんだよ、今さらっ……!」
すぐにでも手紙を切り裂きたかった。
でも、中身が気になって封を開けた。
《シュロへ
前に私が送った男が言ったから解っていると思うが、私はお前の父親だ。お前を塔に隔離したのは、幼い時に病気になったからだ。このままでは家族にもうつってしまうと医者に言われたのだ。何故今、手紙を書くことにしたのか。それは、私の妻が死んだからだ。妻の遺言で、お前を本家に戻すことになった。戻ってきてほしいと思う。お前は覚えていないと思うが、二人の兄も待っている。頼む。 父より》
父親のだいたいの推測はしていた。ボクを塔に閉じ込められる権力があり、〈お父さん〉や複数の召使いを持っていることから、金持ちの貴族だと思っていた。
でも。
「妻が、死んだ……?」
父親の手紙と今朝の王妃が死んだという噂。
あの噂が本当で、ボクの推測がほとんどあっているなら。
――ボクは王族の子供かもしれないというのだ。
「フッ……。ハハハハハ!」
何故か、笑いが止まらない。
「王様だって? ボクの父親が? 〈お父さん〉を殺した、最低な?」
〈お父さん〉と奥さんを殺すために国軍を使ったわけも。
「ボクの人生を狂わせた奴が?」
望めばいくらでも手に入る人形も。
「ハハハハハハッ!」
すべては、国王だったからなのか――――?
頬を冷たい雫が滑り落ちる。
月光に輝く鋏を手に取ると、薄っぺらい紙に刃を当てた。
後付けだらけでもう何がなんやら…。




