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歌姫の願い

 




  ☆ 



「サヨネは、その力を何かに使おうとは思わないの?」

 研究所で会った後、カイウは言った。

「でも私の力なんて、誰かの為になるのかな? 人が、死ぬかもしれないのに……」

「罪を犯した人だけなんだろ? だったら、サヨネのやってることは正義になると思うんだ。それに、気をつければ相手が苦しむ程度で済むんだろ?」

「うん、そうだけど……。本当に私の歌は正義なのかな」

 カイウは、自信がなくうつむくサヨネの肩を叩く。

「そうだよ。君の歌は不思議な力を使わなくても、人の心に響くよ。あ、もちろんいい意味で」

「そっかぁ……。ありがとう!」




  ☆





 もう、カイウには会えないのだろうか……。

 怯える子供たちを大人と一緒に誘導し、非難する。

「ねえ、僕たちはブレイカーに殺されるの?」

 涙をこらえながら、小さな男の子がサヨネを見つめる。

 その答えを、当然ながらサヨネは持っていない。

「大丈夫だよ、私がいる」

 こんな、誤魔化しの様な言葉しか言えない自分を、もどかしく思う。

「……うん」

 不安そうに、でもどこか安心したように、男の子は頷いた。




 そ の と き 。




「――――――――っ!」

 右足に鋭い痛みが走り、足がもつれて転んでしまった。

「お姉ちゃん!」

 男の子が駆け寄ってくるが、今来た道を見ると、動きが止まった。

 その様子にサヨネもゆっくり振り返ると、さっきまでは町だった景色がただの瓦礫の山になっていた。

 そして、ブレイカーがすぐそこに立っていた。

「っう、わああっ……!」

 悲鳴と共に、涙を流す男の子。

 ブレイカーが一歩一歩近づいてくる。

「振り返らないで! 先に逃げて!!」

 男の子は驚いた様な顔をしたが、サヨネの瞳を見て決心したように頷いた。

 そして、振り返ることなく走っていく。

 しかしそれでも、ブレイカーの足音は、途絶えない。

「……もう、だめだ……」

 サヨネは死を覚悟した。



 数年前にカイウと出会い、それまでの人生が大きく変わった。


 一緒に旅をして、みんなを歌で救ったこと。


 二人で綺麗な景色をたくさん見たこと。


 彼が突然いなくなった、あの日のこと。


 全部覚えている。忘れられない、大切な…大切な思い出。



「私の人生って、カイウなしで語れないなぁ……」

 自然と笑みがこぼれてくる。

 せめて、死ぬ直前までは歌っていたい。いや、死んでも歌い続けたい。彼の為に。

 右足から流れる血は、サヨネの体力を奪っていく。それでも力を振り絞り、地面に足をつける。


 ――――届け、この歌。君のもとへ。


 サヨネは大きく息を吸った。






【錆びた町】と話の進み方のパターンが似てますね…。

なんとか脱出しないと…。

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