歌姫のいた町
とある国のスラム街。
いつもは盗みを犯す子供たちだったが、最近はおとなしくなっていた。
「お姉ちゃん! 今日も歌ってよ!」「明るいのがいい!」「早く早く」
子供たちに囲まれているのは、真っ白な髪に碧い瞳のカッシア一族の末裔――――サヨネだった。
「大丈夫。ちゃんと歌ってあげるからね」
「サヨネ姉の歌を聴くと、俺たち元気になれるんだよ!」
「ありがとう。……みんな!」
サヨネはたくさんの国々で、罪を犯した者に罰を与えている。
路上で歌っていると、いっぱい人が集まってきた。その不特定多数の人たちに向けた歌に軽く【殺意】をこめると、その大勢の中から罪を犯した者がしゃがみ込んだり、あるいは叫び苦しみだしたりする。あとはその場で取り押さえられるか、病院に連れて行かれて正体がばれるか……そんなずるいようなことをして、世界を旅していた。
いつか、突然いなくなった、大切な人に会えると信じて。
そして今は、偶然通りかかったこのスラムで、みんなに希望の歌を歌っていた。
サヨネの歌のおかげで、盗みを働く者や、酒におぼれる人たちを町で見なくなった。
「お姉ちゃん、ずっとここにいてくれる?」
「いつまでもサヨネ姉ちゃんの歌、聴いていたい」
無邪気な、少年少女の笑顔。
「……私も、ずっとここにいたい。みんなが大好きだもの。でも、私は会わなくちゃいけない人がいるの」
「そっか……」
少女は、残念そうにうつむく。サヨネも胸が苦しくなった。でも、少年はニカッと笑った。
「じゃあ、その人と一緒にまた来て。それで、僕たちにその人を紹介してくれよ!」
「そうだね!」「そうしよう」「また来てね」「約束だよ!」
こぼれ落ちそうになる涙をこらえ、ありがとう、と笑うことに必死だった。
サヨネが町を出ていく日になった。
周りには子供たちだけでなく、その親や、おじいさんおばあさんまでいた。
「お姉ちゃん。最後に一回だけ、歌ってくれる……?」
「あたしたちも、あなたの歌を聴いてみたいわ」
「ありがとうございます。……じゃあ、最後の一曲を――――――」
どおおおおん。
ごおおおん。
サヨネの声はかき消され、地面が割れる様な音があたりに響いた。
「いやぁぁぁっ!」「助けて!」「何!?」「どうしよう」「怖いよ!!」
子供たちはパニックに陥った。
「こ、これは……?」
「もしかしたら、あの噂の……」
ごおおおおおん。
ずどおおおおおん。
破壊する者――――【ブレイカー】がこの町にやって来た。




