それからの悲劇(下)
「人々の叫び、子供の泣き声。君にはそれが、聞こえないの!?」
ブレイカーは、歩みを止めない。
「君には、昔の……。子供のころの記憶はないのか!?」
バンは、必死に生きようとしている。
限りなく0に近い可能性を、あいつは捨ててない。
でも俺は、何もできない。
妹が命の危機に晒されているのに、何も……。
ブレイカーは歩みを止め、バンの額に右手を当てた。
「バンっ……! おい、バン!」
「バン、にー……」
ミゾレがうっすらと眼を開けた。
バンは前を見たまま――――ブレイカーに向き合ったまま、左手のピースを俺に見せた。
大丈夫のサイン。小さい時に転んだ後、あいつはピースをして『大丈夫だ』と言った。それ以来、俺らはよくこのサインを使う。
「君には、みんなの姿が見えてないみたいだね」
ブレイカーの右手に、青い光が集まっていく。
「でも、僕には見える。みんなの、必死に生きようとする姿が。」
風が、大きな風が起こる。
ダメだ。逃げろ、バン。
そう言いたくても、恐怖で声が出ない。
「だから、ねえ」
ピースが、ゆっくりと崩れていく。
「僕らの未来を、壊さないで!」
ブレイカーの瞳から、涙がこぼれた。
「え……?」
バンが、驚いたように声を上げる。
「バン、お前――――」
すごいな、そう言おうとしたその瞬間。
青い光が、バンを包み、それから、それから……。
バンの体は、ただの骨、血、肉の塊と変化した。
「……っああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いない、もう、どこにも。親友が、俺の、俺の大事な親友が。
ブレイカーを睨むと、彼は。
すでにどこかへ消え去っていた。
金色に輝く光を残して。
もう一話だけ、錆びた町が続き、そのあと新章突入です。




