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夕張メロンパンお好み焼き風

この小説を評価してくれているだと…!?

貴殿はとてもマメでいいやつなんだな。

なん…だと…


「チョコレートソースをまるでお好み焼き風にかけている、そして中にはチョコチップが…!」


そういって昼に買った、朝勇人がいっていた『夕張メロンパンお好み焼き風』をほおばる。

生地はサクサク、中のチョコチップがカリカリ。

中のチョコチップの甘さと外にかかっているチョコソースのほろ苦さがベストマッチしている。


「外にかかっているのはシナモン…少量だが、これが鰹節か」


名前からはあまりおいしそうではないイメージしかないが、お好み焼き風とはやはりお好み焼きにみたてて作ったものか。

外にかかっているシナモンとチョコソースのほろ苦さの相乗効果もあってか、美味い。

どういうことだこれは…。

そう思っていると、ニヤニヤと俺を勇人が見ていることに気が付く。

屋上での会話を思い出してみた。








「マジで美味いんだよ!」


「名前からしてあれじゃねぇか」


「食わず嫌いかよ、子供か!」


「いいだろう、そういうなら食ってやるよ!ハッ、お前の味覚はおかしいんだろ!」









なんという敗北感。

それを感じて少し顔を赤くしてメロンパンは手放さず、席を立って歩き出す。


「どこにいくんだぁ?」


いまだにやにやしている勇人を指さし。


「これでかったと思うなよ!」


そう叫んで教室から走り出した。

勇人は終始ニヤニヤしていた。





教室から少し走って、メロンパンをかじってみる。

美味い、美味いんだが…


「結局俺甘いのあまり好きじゃないじゃないか」


そう思ってため息をつく。

そもそも俺は甘党ではなく真逆も真逆の辛党だ、そばには七味唐辛子乱舞をするほどの辛党。

思い出してみて、俺は考えてみる。


「……女性化すれば甘いもの好きになったりして」


甘い考えだが、さすがにこれ以上食べたくないという思いから、人通りの少ない場所へと走ってみる。

中庭の植え込み付近だ。

横になってボソリと「変身」とつぶやく、そうすればすぐに女性化して、俺はかじってみた。


「お……おいしい」


よくドラマなどで甘いもの好きの女性が甘いおいしいものを食べて手足をパタパタさせているシーンがあるが…思わずこれはしてしまう。


「おいしいっ」


幸せである、こんなことで幸せを感じられるなんて甘党ってやつは幸せ者である。

モキュモキュと食べ進めて、無くなってしまったのをみて、何故だかちょっと悲しくなってしまった。


「そうだ……もっと買えばいい」


そう思って走り出す、太りそうだが…まぁ体重もそれほどでもなく、体脂肪も10%前後だし、一回くらいは大丈夫だろう。

そう思って俺は変身解除すら忘れて走って購買へと向かう。


「…?」


途中視線を感じたが、甘いものを食べたいという欲求ばかりあって、他を考えることはなく。

すぐに購買へと到着した。


「おばさん!」


良く合う購買のおばさん、結構話すので知り合いだ。

おばさんはこっちを向いた。


「とにかく甘いのをください!」


「甘いの……といっても、もう昼の時間もあと十分くらいで終わるし、あとアンパンくらいしか残ってないよ?」


「なん……だと……」


糞っ…いやまて、幸せってやつは、アンパンであったとしても訪れるかもしれない。


「いくつある!」


「あと一つだけだねぇ」


「Please!」


「まいど、80円だよ」


「Yeah!」


お金を払ってスキップしながら食べましょう。

お行儀が悪い?知るものか、私は甘いものが食べたいのだ。


「フフフ、まるで山田くんを見てるようだよ」


そういっておばさんはニコニコ笑っていた。







「おいひいぞ、これはっ!」


あんぱんで幸せだと…!

幸せとは人それぞれである、しかしこの体の幸せはとてつもなく近く、そしてとてつもなく喜ばしい。

思わず笑顔でスキップしてしまううれし…

……

……Oh...No way....Don't fuck with me....

女性化した状態で、俺は走り回り、かつスキップで廊下を駆け巡っていたのか。

先生に見つかってこの学校にいる生徒の容姿ではないと感づかれたら面倒事になるところだった。

早めに気づけてよかったと思い、安堵する。


そうとわかればすぐさま人の目につかない場所だ、廊下だと確実に人の目につくし、たとえ人がいなくともいつくるかわからない。


「よし」


行動を決めて


「やあ」


止められて……誰だよ。

そう思って顔を上げると、美形が現れる。

学年が同じで、それでいて女子に人気のある『神宮寺』くんだ。

名前は知らない、そしてお金持ちっぽい名前のとおりお金持ちだ。

まさに『美形 × お金持ち = 最高の苦痛を味わって死ね』の図式を与えてやりたい男である。

これで女たら…ちょっとまて。

こいつ、いまおれに声をかけただと…つまりこいつは、俺をたらしこもうとしているわけか。

ハッ馬鹿め、貴様なぞ俺の眼中にもないわ、盛大に無視して傷つけてやろう、主に心を。

…今とてつもなく自分が小さい存在に思えてならない。


「急いでるんだ、邪魔しないでくれ」


冷たくあしらってさっさと通り抜ける、そうすると手を掴まれる、鳥肌が立った、やめてください精神的に死んでしまいます。


「そんなもの食べてないで僕と食事でも行かない?」


離してくれ、とでも言おうとした言葉が、この男から放たれた言葉を聞いた瞬間に止まる。

こいつは、今このアンパンをそんなものといったのか…?


「ふざけるな…」


甘いものを食べて、うれしくなる、そんな気分にしてくれたこれを、そんなものといったのか?

ヤバイ、激昂してはダメだ、だがこの女性の体が、俺が考えた理想の思考が、怒りを持って神宮寺くんへと顔を向ける。

物を大切にする、たくさんの出来事を、思い出を、物を、たとえ小さなことでも――それを大切に持ってくれる。


「たとえどんなものでも、私を幸せにしてくれたものを、そんなものというな!」





幼稚園の頃に、俺がいじめられていたときに助けてくれた人がいた。

正義感があふれる男の子だった、俺はその時のことを鮮明に覚えていて、そしてその男の子を尊敬していて、自分でも人を助けるような人になりたいと思った。

そしてその男の子と高校に入った時に出会ったことがある。

先輩だった、あった時にそれとなくきいてみた、幼稚園の時誰か助けたことがあるかといったことを。

返答は、


「幼稚園のことなんてあまり覚えてないなぁ」


それでいて


「まぁ忘れているってことはどうでもいいことでしょ?」


――そのとき無性に空しかった思い出がある、悲しみでもなく、いや悲しみも合わせた空虚感だった。

だからこそ、俺は…たとえ小さなことでも忘れずに大切に思ってくれる、そんな性格を理想としたのかもしれない。








「たとえ、小さなものでも私にとってはそれは立派な幸せをつくってくれたものなんだ、このアンパンは売れ残りの人気のないものかもしれない、小さなものかもしれない、機械で作られた大量生産品かもしれない、それでも私にとっては大切なものだ!」


そう言い切った、俺はキッと神宮司君を睨んでしまう。

心の中で全力で謝るしかない、今の精神状況じゃ口に出せない。


「離せ!」


驚くほど簡単に拘束から抜け出せた。

終わった、お金持ちを敵に回すとか終わった。

そう思いながら女性化を解くための場所を必死に走り回る。

すぐに見つけて駆け込み、俺は「変身解除」と小さく言った―――。













いや

いやいやいや


うん


「ねーよ……」


甘いものを食べて幸せに?その程度のことであそこまで怒るのか普通。

いやないわ、もはやおかしいの域だろう。


「過剰すぎるだろ……」


そういって俺は頭を抱えて、隠れた植え込みで考える。

とりあえず女性化することをあまり多くしてはいけないし、そのうえで女性になった俺の状態を理解できなければいけない。

そして一番大切なのは女性化した俺を理性で抑えることだ。

つまり先ほどのように激昂することのないようにということだ、これが最優先。


よし、そうと決まればすぐに身体能力などを計らなければな。


「よしっ」


そういって立ち上がり、俺は歩き出す。

最初の種目は――



キーンコーンカーンコーン



甲高い鐘の音。

そして気が付いた、すでに授業はじまっていることに。


「ち……遅刻かよ……」

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