地雷原を突破せよ
その昔、勇人の親父さんは、絵にかいたような飲んだくれのダメ親父だった。
どのくらいダメかというと、学生での飲み会にノンアルコールビールを頼むようなダメさだ、よくわからない?うん、まぁ俺もわからない。
俺は必死になって勇人を護ろうとしたけど、力は足りなかった。
俺も殴られて、護ろうとした勇人も殴られて、被害は拡大していくばかりだった。
どのくらい拡大したかというと、インフルエンザ患者を、満員電車にマスク無しで置いておくレベルだ。うん、適当なこと言った。
その結果ではあるが、今は勇人の親父さんは真っ当な仕事をして、家族にも優しくなっている、本当に良かった、と思うのだが、いつ思い出しても、何故そうなったのかは思い出せない。
ただ、誰かが助けてくれたことを覚えている。
ただ、それがだれかはよくわからないのだ。
――俺は、誰に助けられたのだろうか。
「お姉ちゃん?」
――と言われて、固まった。
オネエ=チャン?歴史の教科書でも聞いたことがない。
そんなすっとボケたことを考えていると、一瞬のうちに一ノ瀬さんの顔が赤く染まった。
「そ、その、すいません……えっと、少し知り合いに似ていたので」
「そう? いや別に気にしないけど」
そう言って笑顔を返した。
「お姉ちゃんに、似ているの?」
言っておいて、思い切り剣を握り締めて、相手の心に突き刺したことがわかった。
さらに顔を真っ赤にして、
「そ、そのっ忘れてください!」
と言った。
赤面する美少女が目の前にいる、ご飯三杯どころか、一生ご飯のみでも構わないと思ってしまう――嘘です、そんな江戸時代の武士すらドン引きの食生活送りたくない。
「えっ、えっと、今日はお礼をしたいと思って、お呼びしたのですが……」
思わぬ事態に、未だに混乱から覚めず、彼女は手をバタバタと動かし、変なジェスチャーをしながら言い始めた。
俺がやったこととはいえ、ここまで混乱するとは、凛とした姿が瓦解したところへ、ダイナマイトを投げ込むこの光景に、思わず笑みを浮かべた。
「とりあえず、自己紹介をしよう、私は月野神夜、君の名前は?」
「あ、はい、一ノ瀬百合です」
「では、一ノ瀬さん、私の行動については、お礼はいらないよ、ドラマ風に言うなら、当然のことをしたまで、といったところかな?」
そう言って、いたずらっ子のような笑みを浮かべる、――完璧だ、今この美少女の前で俺の性癖が暴露されてるぞ。
見えていないがわかる、わかるからこそ、ダッシュでホームから線路へシューッ!超エキサイティン!したくなる。
「いえ、えっと私の気が収まらないです」
そう言われて、腕を組む、この子は結構我が強い性格をしているようだ、今は先ほどのことが尾を引いているために、慌ててはいるが、後々先ほどまでの冷静な彼女に戻るだろう。
そう考えて、笑顔で頷いた。
「それじゃあ、お礼してもらおうかな?」
再び、いたずらっ子な笑みを浮かべて、ウィンクをしてそう言った。
神夜さん状態ならいいのだが、これを元の俺がやったとしたら、もう……
「はい、それじゃあ、少し歩いて昼食を」
「あぁ、わかった」
「……ナンパとかがないように、店にすぐに入りましょう」
「あ、はい」
女性にとってショッピング街での『少し歩く』は少しではない。
それがよくわかる一時間を過ごすこととなる、中身野郎の俺ではあるが、神夜さん状態となると、それも楽しめるらしい、良かったと心の底から思った。
楽しみながら、――まぁ精神的な疲労は蓄積をされるが、この体となって、メイド服をきたり、鏡の前でポーズをとったりとまともなことをしてなかったような気が――気じゃないな、事実だ、完全に事実だ。
しかし女性になったのに、女性らしいことを一回もしてないような気がする。
――少し、新鮮な気分だ。
昼食は、一般的なファミレスで食事だ。
奢ると言って断固として聞かなかった、お礼と言うのは昼食をおごることだったらしい。
「普通においしいですね」
「そうだね」
一ノ瀬さんはドリアを、俺はハンバーグセットを頼んで、食べながら話を始めた。
「そういえば、一ノ瀬さんのお姉さんはどういう人なの?」
「――お姉ちゃんは、小さいころに意識不明になっています」
おーっと、幸助選手、地雷原に突っ込んだ!
「えっと、小さいころ男の子を助けて、その後に意識不明になったそうです」
「……立派なお姉さんだったんだね」
おーっと、神夜選手が突然幸助選手の背中を押した!
「えぇ、記憶は少ないですけど、その、私を引っ張って、いつも笑顔で、今でも大好きなお姉ちゃんですよ、ちょっと月野さんに似ています、いやすごくですかね?」
「はは、一ノ瀬さんのお姉さんだったら美人さんだろう?だとしたら、すごく光栄かな?」
場の空気を盛り上げるために、神夜さんは明るい声でそう言った。
うん、何故かオートモードなんだ。
「えぇ、すごくきれいでした、私もお姉ちゃんみたいになりたいって思ってましたし」
少し声の調子を明るくして、一ノ瀬さんは言った。
「私が君のお姉さんだったら、君のような妹を得て、すごくうれしかっただろうし……」
そのまま神夜さんは続けていった。
「君は、一ノ瀬百合さんの美しさを持っている、そんな君が妹だったら、誇らしい気持がしただろう」
……会話の流れがよくわからなかった。
「……え?」
――うん、なんだこの反応。
驚いた、何かに気がついたような――
「あ、はい、そうですよね」
コクコクと二度頷いて、料理を食べていく。
そこからは無言で、食事は終わった。
「えっと、今日はありがとう」
「いえ、私も楽しかったです、メールアドレス交換してもいいですかね?」
――もう貴方の携帯アドレスにあります。
電話番号も、メールアドレスも……どうすればいいんだ……!
「おや、君は生徒会長と――」
声をかけられて、振り向くとそこには――イケメンがいた。
『容姿イケメン × 服装イケメン = 最大限辱められて惨たらしく死ね』という公式が当てはまる男性――神宮司くん。
しかし、ナイスだ神宮司くん、これで話が逸らされた!
「つきのかぐやしゃん!」
――お前もか、神宮司くん!
お前も勇人と化すのか!
心の中で叫んでいると、神宮司くんはハッと何かに気づいて、さらりと髪を掻きあげた。
「ふふ……こんなところで会えるなんて、運命だね……英語でいうと、でぃすてぃにぃー」
今更取り繕っても無意味だ神宮司くん!
というよりそのバカっぽいキャラは何なんだ!?
「落ち着こうか友哉くん」
「ふふ、君との出会いで少し舞いあがっていたようだね、君の美しさはすべてを魅了する、まるで水晶の花のようだ……」
そんな言葉を吐かれる、この話を聞けば、女性はどう思うだろうか、うっとりとするか、ドン引きするか、一周回って笑うかだ。
ならば、男である俺はどう思うか――
――死ね!なんていうか死ね!
である。しかし、流石と言うべきか、神夜さん状態だと、そんな感情をおくびにも出さない、その言葉にニコリと笑顔を浮かべ、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「えぇっと、少し恥ずかしい……かな?でも、嬉しいよ?その、今は一ノ瀬さんと話しているんだ」
「あぁ、生徒会長さんか」
声のトーンが一瞬で変わった。
その変わり身の早さに軽く驚きつつも、考えていた行動を開始する。
ふと、広場にある時計を見て、驚いたフリをした。
「時間が危ないようだ……すまない、一ノ瀬さん」
「え?はい」
「メールアドレスは幸助くんから聞いてほしい、今日は楽しかった!ありがとう!」
「え、あ、はい、こちらこそ!」
回れ右をして全力疾走、後ろは振り向かないことにした。
そして全力で我が家へと帰宅する。
――この行動が、後々面倒なことになる。
なんだろうか、三月で終わるのか、これ。
-次回予告-
「お前が山田幸助だなァッ!月野神夜さんのメルアドを教えていただこう!」
神宮司君襲来。
「な……なんだと……幸助貴様ァッ!神夜たんのメルアドを知っているだとう!?」
次回『神夜さんの周囲の男たちは、なんかキモい』
――打ち込んだ後に思い出した、
これ三千文字だし、ネタバレどころか全部言ってるような……




