実行委員会は、帰宅戦士たちのラスボスです
冒頭ね、なんだろうね?
……なんなんだろうね?
次の日の放課後、GHQ(Go Home Quickly)の真髄である、『即・時・帰・宅』という信念を曲げてた俺の姿は、教室の前の廊下にあった。
傍らには勇人の姿もいる、何故こんなところにいるのか、帰宅戦士の心構えはどうしたのか、と問われれば、簡単である、権力に屈したのだ。
そう、あれは帰りのHR、己が部活動を早くやりたいと、神速の帰宅将である俺には到底理解しえぬ心を持った者たちが、そわそわと忙しなく、いつでも、教師が学業の時は終わったことを告げれば、その瞬間に外に飛び出していけるようにと、カバンの紐を握りしめていたのを俺は眺めていた、その時だった、奴らは教卓の前に現れた。
「――実行委員会からのお知らせです」
文化祭を影から操る闇の者たちが現れた。気の強い女性であり、クラスにいる女子のカースト上位の彼女は、淡々と告げた。我が志を砕く言葉を――
「文化祭の準備をしたいので、部活動のある方は部活動優先で、無い方は残ってください」
そう、それは信念を曲げろ、我の前に跪け、そう言っているのだ。
しかし、帰宅戦士幸助――諦めるつもりなど、毛頭ない、帰らねば……愛する我が家族が待つ、我が家へ――!そう考え、チラリと勇人と目配せし、目と目で語り合った、長い年月を共に、戦友として走り続けた時が現実にさせた力だ。
『我らの志、諦めるとは夢にまで思わぬだろう?』
『当然だ、我が帰宅精神、何物にも止められぬ』
その瞬間だった、実行委員の男が、そういえば、と立ち上がり、声を大にして言い放った。
「とりあえず、残れない人は手を挙げて、ちゃんと理由を言ってください、放課後、出席を取ります、いなかったときは、明日に理由を聞くので」
帰宅の精神――そんなもの奴らに通じるわけもない、鼻で笑われるだけなのだ。
心の中で舌打ちをした、もはやこれまでだった……。
と、まぁ大それた物語を語ったところで、ただ単に文化祭の準備でとどまっていると言えばいいだけの話だ。
現在、勇人と共に、看板の制作に取り掛かっている、といっても具体的な寸法はない、というわけで、適当に線を引き、カッターで切って行った。
そのあとに厚紙を張り付けて、文字を書くだけだ。
切れ味が悪いために、削るように何度も同じところに刃を通していくと、
「昨日振りね」
と声が聞こえた。
顔をあげると、――昨日会った女性だった。
……なずぇ、ここにいるんですかぁ?
「えぇと、文化祭同盟を組んだ高校の……」
「何その変な名前の同盟?一ノ瀬百合、生徒会長やっているわ」
「戦闘力500か……」
お前は黙れ、そしてなんで増えているんだ。
「は?」
「勇人の頭のおかしさはいつも通りなので、許してあげてください」
「幸助、いいか、神夜さんの戦闘力は53万だ」
俺はフリーザ様じゃないからな。
「あら、月野神夜って女性知ってるのね?」
「あぁ、女神の名前だ」
うわあああああああ!うわあああああああああ!やめろ!女神とかいうな!
「女神?まぁいいわ、聞いたんだけど、誰も知らないようなのよ、どこに居るのか知らない?」
「俺の心の中に居ますよ」
なんでこいつ、今日に限ってこんなにバグってんの?
「あー俺は知らないです、そういえば助けられてたなっていう感じで」
「あぁ、やっぱり貴方が逃げ出した人なのね」
心に金づちを振りおろさないでほしい。
「……その時はすみませんでした」
「いえ、いいわ、みんな大体ヘタレだし、ヘタレごときで落ち込まなくてもいいわ、ヘタレ」
――こいつ、絶対に根に持ってるだろう。
見上げる少女は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「まぁ、それはいいとして……、とりあえず探さないと」
「はぁ、何故そんなに?」
「助けられたのに、お礼も言わずに問い詰めたのよ、態度の悪さを謝らなくちゃいけないし、お礼も言わなきゃ」
「――貴様、神夜さんを問い詰めただと……!?」
「勇人、飲み物買ってきてくれ、今なら300円、おつりはいらないから」
「マジか、おっしゃ、買ってくるわ」
財布から百円玉三枚を取り出して、送り出した。
何故、こいつは神夜状態の俺のこととなると、こんなにも頭がおかしくなるのだろうか……。
頭おかしい人は、しまっちゃおうねー
「あぁ、そうですか、それなら俺も手伝いますよ」
しかし、この一ノ瀬さん、良い人のようだ。
逃げ出したときは問い詰められたことにより、正直苦手意識があったが、少し好印象だ。
「何も出ないわよ?」
「まぁ、何か面倒事ならスルーしますけど、そういうことなら喜んで手伝います」
そう言うと、俺をまっすぐとみて、何か考え込むように、下唇をつまみ、すぐに頷いた。
「それじゃあ、よろしくお願いするわ」
「はい、それで、次くるのはいつですか?その時に教えますよ?」
「それじゃあ面倒よ、はい」
そう言うと、一ノ瀬さんは携帯を取り出し、こちらへと近付けた。
どうやら、連絡先の交換のようだ。
「赤外線ですか?」
「えぇ、それじゃあ、お願い」
そういってずいっと手渡された。
「……は?開いていいんですか?」
受け取り、そう聞くと頷いた。
人の携帯を使うのには、抵抗があるんだが……。
「あの、正直人の携帯は……」
「赤外線、わからないのよ」
「あ、はい」
顔を下げて、操作していく、会社が違うためか、少し困った。
そして俺の顔にも困った、すげぇニヤニヤがおさまらない、気が強く、今でも苦手ではあるが、美少女が少し恥ずかしそうに言うと、テンションが上がった。
心の中はサンバカーニバルだ、キモいな俺。
「できました」
なんとかして笑みを抑え、赤外線で連絡先の交換をして、携帯を返すと、頷いて携帯をしまい、
「それじゃあ、用事も終わったし、これ以上探しても見つかりそうにないし、帰るわ」
「あぁ、それじゃあ、何かわかったら連絡しますね」
「えぇ、よろしく」
そういって去って行った彼女を見届けて、背後からかけてくる音が聞こえ、振り向いた。
勇人だ、勇人が缶とペットボトルを持って、こちらへと駆け寄ってきた。
そしてペットボトルを渡された。
「……何これ」
「なんか、置いてあった」
ペットボトルには、わけのわからない英語が書かれていた。
産地を見る、『アメリカ合衆国』と書かれていた。
……なんだろう、この地雷臭。
勇人のほうを見る、目に痛いライトグリーンの絵柄で、これまた意味不明の英語。
「……産地は?」
「アメリカ……やべぇ、今さら後悔してきた」
キャップを取り外し、ペットボトルの口元に鼻を近付けた。
炭酸の音と、刺激臭レベルの甘い匂いが広がった。
一口飲むと、異常な甘みと、炭酸が口の中で広がり、ドクターペッパーのような後味が残った。
チラリと、勇人を見る、開けられた缶を見て、固まっている。
「……すまん」
「……いや、別にいいけど、好奇心で買うのはやめような」
「おう……」
沈黙の後、良くも分からずジュースを混ぜ合い、そのまずさに小躍りする、そんな時間が過ぎ去り、準備時間も終わりを告げ、家へと帰宅するのは、夕飯前となった。
さぁ、夕飯も食べ終わり、風呂にも入り、後は寝るだけなのだが、俺はベッドの上で、携帯を見詰めて考えていた。
どうやって、神夜状態で、彼女と会おうか、と。
ぐぬぬ……と唸っていると、部屋の扉がノックされた。
「はい?」
「兄さん、入っていい?」
「え、あぁいいけど」
妹のようだ、扉を開いて部屋へと入ると、こちらをまっすぐと見た。
「何だ?」
「いや、何か考えているみたいだったから」
俺、そんなにわかりやすかったのだろうか?
妹を見ると、平然とした面持ちでこちらを見ていた。
神夜さんの件以来、話すことが多くなっていた。
「うん、まぁ……神夜の件でね」
「あぁ、趣味が大爆発した……」
――女性は、俺の心を、抉る生き物、俺、わかった。
吹き出しかけたが、それを抑えて、とにかく今の現状を教えていくと、妹は二度ほど頷いた。
「普通に場所指定して、それで会えばいいんじゃない?」
「変に思わない?」
「いや、それは兄さんの考えすぎ、『行きたいけど用事ある』といえば、不思議に思わないよ」
第三者視点の言葉だ、それも納得いくものだった。
「そうなのか……とりあえず、いつぐらいに言えばいい?」
「明日か、明後日じゃない?」
「あぁ、ありがとう」
そう言って、携帯を近くにある充電器へと嵌めた。
妹は「じゃ、大丈夫だね」といって外へと出て行った。
昔から、苦手意識はあったが、別に普通に話せるじゃないか、そう考えて、笑みがこぼれた。
時計を、ふと気になって見ると、時刻は10時、寝るのにはまだ早い時刻だ。
何となく、ごちゃっとしている机へと近付き、掃除を始めた。
「あれ?」
掃除をしていると、奥のほうから一枚の写真が見つかった。
写真には、幼いころの勇人と俺……そして、その隣は、人ひとり分の大きさがあるが、そこは真っ黒に塗りつぶされていた。
「なぁんだこれ?」
こういうギャグ一直線だと書きやすいんだけどなぁ……




