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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第四章『地下都市奪還作戦』

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第四章63話『二区奪還作戦』

「ほんとにいいのか? 休まなくて」


「問題ありやせん。某の部隊は皆、早く戦いたくて仕方がないようですし」


「そっか。そんじゃ、頑張れよ!」


「このシュテルニス。任務達成を、星に誓いやす」


 その後シュテルニス率いる百二十五人は、右手を見えない夕焼けに掲げて東区へと馬を進めていった。


 心配は、ある。

 なにせ、西区の地下牢から脱獄したのが朝。そして南区に辿り着いて、南区を制圧。

 皆この工程を、休むことなく行なっているのだ。


 シュテルニスもレックスたちのように、少しだけでも休んでもいいというのに。

 最も、彼らがそれを望まず戦いたいと言うので、自分たちにはそれを応援する義務があるのだが。


「ーーレックス。ちょっといいか?」


 そう声をかけてきたのはグレイだった。


「なんだ? グレイさん」


「いや、話したいことがあるんだ。内容は、お前の持つ『能力(ギフト)』ーー『雷の戦士』についてだ」


「俺の、『能力(ギフト)』……分かった」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お前が誘拐されてた間、俺も少し考えたり調べたりしてたんだ。そん時、ふと思ったんだよ」


 レックスの『能力(ギフト)』。彼らは、過去にそれについて話したことがあったが、その詳細については何も分からなかった。


「何をだ?」


「まず前提として、『能力(ギフト)』ってのは二種類あるんだ。ひとつは、世界中で一度に多くの人が持つ、重複するもの。ーーそしてもうひとつは、世界中で一度に一人しか持つことができず、受け継がれていくもの。この二つだ」


「ーーそう、なのか。それで?」


「おそらくお前のそれは、後者の方ーー受け継がれる能力(ギフト)だ」


「受け継がれる、能力(ギフト)……」


 今グレイが言ったように、能力(ギフト)は二種類存在する。


 ひとつが、一度に同じ能力(ギフト)を持った者が何人も存在する方。重複する能力(ギフト)とも呼ばれている。


 そしてもうひとつが、伝説級とも呼ばれる方ーー一度に同じ能力(ギフト)を持つ者が二人以上存在せず、受け継がれる能力(ギフト)とも呼ばれる方だ。


 なので唐突にこんなことを言われても、レックスは混乱するしかない。それでも受け止めたレックスには、まさに流石と言わざるを得ないだろう。


「確証はねぇ。ただ、これまで発見されてきた重複する能力(ギフト)の図鑑に、お前の能力(ギフト)が載ってなかったんだ」


「なるほど、それで受け継がれる能力(ギフト)だと考えたのか」


「そういうことだ。詳しいことを知りてぇなら、ここから北東に進んだ先にあるハラッパンという街を訪れるといいぜ」


「分かった。ありがとう」


 いずれにせよ、今分からないことを悩んでも仕方がない。

 それに、知るためには魔帝国を打ち倒して、ハラッパンに行くことが必須条件なのだろう。


 ーーだから、今は今の戦いに集中するとしよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 南区の地区庁舎を離れてトンネルに入ってから、もう時期半時間が経つ頃だ。そろそろ到着しても良い頃なはずだ。

 そう思った途端、突如トンネルの先に光が差し込んだ。その情景に、思わず息を呑む。


「隊長、見えてきました」


「よし。ーー皆に次ぎやす。このトンネルの先にある地区庁舎。今からそこまで全速力で突撃しやす。それでは、行きやすぞ!」


「「「おォォーーーッッ!!」」


 進めば進むほど、遠かった光が大きくなり、やがてそれは自分たちを大きく包み込んだ。


 地区庁舎は真ん中に位置する。なので、自分たちが馬を進める場所は、そこ一択しかない。

 見た感じ少しだけ慌ただしい様子だが、住民が混乱に包まれているという空気は感じなかった。ーー慌ただしいのは、シュテルニス率いる大勢が、突如として現れたのが原因だろう。


「地区庁舎までもう少しです。皆、気を引き締めやしょう!」


 そのまま石レンガでできた床の上を馬に乗って走り抜け、そしてついに地区庁舎を守る石製の防壁と、そこを通り抜けるための木製の門の前に辿り着いた。


「ーー皆、突撃!!」


「「「おォォーーーッッ!!」」


 皆の威勢と勢いのまま突撃し、木製の門は崩壊。中で待ち構えていた百ほどの兵の視線に晒された。

 だが、以前に比べて敵の士気はガクンと下がっていた。

 全員武器は握っているものの、どこにも勝利に焦がれた瞳を持つ者はいなかった。

 ならば、もしかすると戦わずして勝つことができるかもしれない。そう思い、シュテルニスは声を張った。


「ーー戦う気がないのなら、投降を願いやす。武器を置き、大人しくしてください。命までは奪いやせん」


 この一言で、敵兵の士気はより一層ブレたと思われる。当然だろう。勝てない戦いに、わざわざ挑む必要などないのだから。

 そうして様子を伺っていると、一人の敵兵が震えながら口を開いた。


「ふ、ふざけるな! お、俺たちはスーホさんが来るまで、ここで持ち堪えるんだ! ーー待てよ、お前たちがいるということはまさか!」


「スーホ•トラム。彼の身柄は、某たちが預かっていやす。ーーその上でもう一度、戦う気がないのなら、投降を願いやす」


「馬鹿、な……」


 その声をはじめ、多くの者が手から剣やら弓やらを溢し、最終的に全員投降という形で『東区奪還作戦』は呆気なく幕を閉じた。


「さて、あとは地下牢だけです」


 シュテルニスは百人の味方兵を残して投降した敵兵を見張らせ、残りの二十五人を引き連れて地下牢に入った。

 一応交戦状態になることを懸念して味方兵も連れてきたが、中に入ってそれが勘違いだったことを知った。


「看守が一人もいやせん。ひとまず囚人たちを解放してあげやしょう」


 後から分かったことだが、おそらくここにいた看守は、先ほど投降した兵士だったのだろう。

 ともあれ、それから何事もなく橋を下ろして囚人を解放し、首輪も解除した。ーーだが、やはりレックスの鍵はなかった。


「某たちと共に、スローンを撃ち倒したいという者はついてきてください!」


「「「おォォーーーッッ!!」」


 こうして、シュテルニスの働きにより、百人の敵兵を捕虜として捕え、『ブレイク反乱軍』の人数に百が足されることとなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それでは、向かいやしょうか。最後の区ーー北区へと」


 そのセリフを『シュテルニス部隊』の二百二十五人に言ってから、もう二時間が過ぎる頃ーーのはずだ。時計がないので、実際のところは分からない。

 単にシュテルニスの体内時計がおかしいだけなら、疑問など全く浮かばない。

 しかし、その体内時計が正しいのなら、これは問題だ。


「ーー妙ですな。一向に、辿り着く様子がありやせん」


 気になったことと言えば、それは今までの直線的だった道と比べて、今回はその道が曲線的になったということだ。

 それに加えて、一向に街の光が見えない。違和感覚えるのも、当然のことだろう。


 ーーその時、突如として後方で爆音が鳴り響いた。


「なっ、一体何事です!? まさか……皆、罠です!! 急いで警戒体制を!」


 シュテルニスは気づいた。これが単にトンネルで起きた事故ではなく、自分たちをここで仕留めるための罠だということに。


 しかし、逃げ道を塞いだだけでシュテルニスたちを仕留めることが、はたして北区の残党にできるのだろうか。

 確かに、今日シュテルニスはもう大技を放つことができない。ーーそれにしてもだ。


「ーー隊長、何か音がしませんか?」


「音、ですか?」


 隣にいた黒髪の若い男ーー仲間であるツンガ•ディーレの一言。それは正しかった。

 例えるなら、まるで何か大きな物体がこちらへと迫ってきているような、そんな音だった。ーーまさか水ではなかろうか。


「ーーっ、水です! 奴ら、某たちをここで溺死させる気です!」


「なっ、本当ですか?」


「左様。急ぎ後ろの瓦礫を破壊してください!」


 幸い、『ブレイク反乱軍』の武器の多くはツルハシだ。それに加え、ここの囚人たちは元々採掘の刑務作業を何年も行ってきている。

 この瓦礫を壊すことなど、造作もないことだろう。ーーもうそこまで、このトンネルを覆い尽くすほどの水が迫ってきている!


「ーーもうそこまで来てやす!」


 光属性魔法なら少しだけ使える。だがそれも、この場を打開する決定打にはなり得ない。

 シュテルニスの魔法の精度がもう少し高ければ、天井や壁を貫いて打開できたかもしれないが、それが叶わない今、別の方法を探すしかない。


 せめて、一瞬でも星光を浴びることができれば、状況は一転するのだが。

 そう焦っていると、隣から魔法の詠唱が聞こえた。


土壁(アースウォール)!」


 その詠唱の直後、シュテルニスたちの前に大きな土の壁が生み出された。

 魔法を使ったのは、地面に両手を当てて歯を食いしばっていたディーレだ。どうやら土魔法を操れたらしい。

 その精度も見事なもので、先まで押し寄せてきていた水を受け止めていた。


「ディーレさん。感謝しやす!」


「隊長、私の魔法も、長くは続きません。ですから、早く!」


「承知しやした!」


 シュテルニスは背中をディーレに預け、不安そうに見ていた皆の方を見た。


「皆、急ぎやしょう」


 その声と共に、再び塞がれた瓦礫の破壊が始まった。

 ツルハシの金属と、瓦礫の石がぶつかる音が、何度も何度もこの密閉された空間に響き渡る。ーー後ろで、水が土の壁を殴っている音も。


「隊長、まだ、ですか?」


「もう少しの辛抱です。それまで頑張ってください!」


 どんどん音が加速していく。皆が必死になっている証拠だ。 

 そしてそんな緊張がこの空間を支配していた時、一筋の光が宿った。


「ーーっ! ようやく向こう側が見えた!」


「こっちもだ!」


 そうして次々と瓦礫が砕かれていき、そしてついに逃げ道を塞いでいた障害を全て取り除いた。


「よし、逃げやしょう! ディーレさんも早く!」


「分かりました! ーそれでは、解除します!」


 そう言ってディーレが地面から手を離した途端、殴るように押し寄せてくる水が、土の壁を一瞬にして粉砕、こちらへ水が押し寄せてきた。

 するとどうやら魔力を使い果たしたのか、ディーレが眠りについてしまった。

 ほっといたら水に飲み込まれてしまうので、ひとまずシュテルニスが肩に担いて馬に乗った。


 全員馬に乗れている。幸い、今押し寄せている水の速度は、馬よりも遅いはずだ。全速力で馬を走らせれば逃げられる。


「撤退です! 皆、逃げやしょう!」


 その合図を聞いた一同は、一目散に馬を走らせて来た道を辿った。

 予想通り、あの水は馬に追いつけていない様子だ。これなら逃げ切れる。


 そうして半時間にも及ぶ逃走を経て、ようやく光が宿った。ーー北区への出口だ。


「北区に出たら、急いで横に逃げてください!」


 そう言い終わると同時に、シュテルニスのことを眩い光が包み込んだ。

 そしてその指示を聞いていた後ろの仲間たちも街の光に包まれ、その後指示通り横方向へ旋回した。ーーそして瞬く間に、先までいた場所が水に飲み込まれた。まさに間一髪というところだ。

 そしてその水の量は、この北区を見れば一目瞭然だった。


「流石に、危なかったです。あれに飲み込まれていたら、生きて帰って来れるかどうかも危うい……」


 トンネルから噴き出した水は、あたりの木々を跳ね飛ばし、シュテルニスたちの立っていた場所を水浸しにするほどだった。


 何はともあれ、『シュテルニス部隊』に死傷者はゼロでここから立て直すことも可能だ。切り替えていくしかない。

 そう思っていると、肩の上で微かに動きがあった。


「あ、あぁ……わ、私は一体? ーーそうだ、あの大量の水を抑え込んで、それで気を失って」


「左様。お主のお陰で、某含めた皆無事でありやす」


「そうでしたか。それは、何よりです。隊長」


 シュテルニスは馬から降りてディーレを肩から下ろし、そして声を張った。


「皆、某に時間をくれやせんか? あの北区を突破するための策を考える時間を」


 そう呼びかけると、一同は迷うことなく頷いた。その反応に、思わず笑みがこぼれる。

 それからディーレと作戦を考えるために、少し皆の元から離れた。


「ディーレさん。どうしやすか?」


「おそらくまた挑んでも、あの濁流に飲まれてしまいますし。ーーですが、策ならあります」


「策、ですか?」


 そう問いかけると、ディーレは「はい」と首を縦に振って、服の中に忍ばせていた簡易的な地図を取り出した。

 そして、それから北区の場所を指で示した。


「分かってるように、ワイレスの中央区を除いた四区は、二つのトンネルに挟まれています」


「左様。それで?」


「隊長を抜いた私たち二百二十四人で、もう一度このトンネルから北区へと向かいます。隊長は、ここから西区まで行って、そこのトンネルから北区に向かってください」


「それはつまり、某の隊の皆を囮にして、某が背後から襲うという作戦で間違いありやせんか?」


 そう問うと、ディーレは静かに、そして強く頷いた。そして真剣な眼差しでこちらの瞳を覗き込んだ。


「奴らは必ず、私たちの方に気を取られます。だから、この隊でずば抜けて強い隊長の襲撃なんて、気づくわけありません」


「ーー某のことを、信じてくれるんですか?」


「そんなこと、決まっています。だって、私たちは『ブレイク反乱軍』であり、『シュテルニス部隊』の一員なんですから。私たちの命は、とっくに隊長に預けていますよ」


『某たちの命は、もうとっくに旦那に預けてありやすよ』


 ーーその言葉を聞いた時、ふと自分たちがレックスに言ったことを脳裏がよぎった。

 自分も、あの人みたいに周りから信じられる人間なのだなと、シュテルニスは胸の奥でそっと噛み締める。


「分かりやした。このシュテルニス、必ずや成功させてみせやしょう!」


「それでは、行くとしましょうか!」


 二人は、互いの拳をぶつけ合った。 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「隊長、準備が整いました。それでは、一時間後はよろしくお願いします」


「ディーレさんも、ご武運を」


 話し合いが終わった後、ディーレは待機していた全員に作戦を話し、それから準備に取り掛からせていた。

 その後、シュテルニスが戻った時には、もう既に全員馬に乗って戦いの準備を済ませていた。そして、皆の闘気が大気中に満ちているのを、肌で感じ取ることができた。

 さて、知っての通りこの作戦の核はシュテルニスだ。

 シュテルニスは皆を信じ、それから皆に信じられた自分を信じなければならない。でなければ、北区が仲間の血で埋め尽くされることになるだろう。


「負ける気がしやせんな」


 だがこのシュテルニスは、そんなことを一切気にしていない。

 たとえこの場所に星光が差し込まなくとも、彼は『星斬り』の名に恥じぬ男でならなくてはならない。

 この一つの決意が、彼のことを『星斬り』にしていた。


「それでは、行きやしょうか」


 一騎の馬が、地面を蹴って駆けていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーー着きやしたか。そしておそらく、ディーレさんたちも作戦を始めている時間ですな」


 東区を出てからここ西区に戻ってくるまで、おおよそ一時間ほどが経ったはずだ。今頃は作戦が始められていることだろう。

 一刻も無駄にはできない。そう思い、シュテルニスは乗っている馬の頭をそっと撫でた。


「それでは、北区の者どもを蹴散らしに行きやしょう」


 シュテルニスを乗せた馬は、さらに速度を上げて駆けた。

 その速度に思わず驚いて姿勢を崩しかけたが、すぐに適応して、馬と共に風になるような感覚を味わった。

 そのまま、すぐそこにある北区へのトンネルへ入り、風のような速さでトンネルを駆ける、駆ける、駆ける。

 その時、突如遠くの方で爆音がした。そう、例えるなら、大きな濁流が発生したような音だった。


「北区の奴ら、ディーレさんたちを攻撃しやしたか。ならばあとは、某のことを悟られぬように突き進むのみです」


 当然あたり一帯は薄暗く、目的地から発せられる輝きもまだ差し込まない。

 こうしていると、どこか不安がよぎってしまう。

 もちろんディーレたちのことを信じている。しかし、信じることと心配しないことは話が違う。だがそれでもーー、


「ディーレさんたちを信じて、突き進むしか道はありやせん」


 間も無くして、薄暗いだけだったトンネルに微かな光が差し込んだ。そしてそれは近づくごとに大きくなっていく。


「ーー覚悟してください。某は、少し怒っていやすので」


 ーー一騎の馬が、誰も警戒していなかったトンネルから現れた。

 それからシュテルニスが東区へと通ずるトンネルに近づくと、それにいち早く気づいた一人の敵兵が大きく声を上げた。


「う、後ろだぁ!! 敵襲、敵襲!!」


 総勢五十ほどの敵兵が、一斉にこちらへ振り返る。それに対してシュテルニスは、落ち着いた様子で馬から降り、

 

「『星斬り』シュテルニス。ただいま参上いたしやす。戦う意思がないのなら、投降を願いやす」


「『星斬り』シュテルニス……」

 

 その言葉を筆頭に、敵兵たちが一斉にざわついた。

 大抵の者であれば、『星斬り』シュテルニスの名を聞いただけで息を呑むほどだ。それが敵に回るとなると、士気など落ちて当然であろうーー、


「ーー今だ、放て!」


 その言葉を筆頭に、敵兵たちが一斉に炎を生み出した。それは、一直線にシュテルニス、そしてそのシュテルニスが乗っていた馬にも向かって放たれていた。


「そうですか。それではこちらも反撃させて頂きやしょう」


 そう言うと、シュテルニスはレックスと出会ってからまだ一度しか抜いていない剣ーー『星剣』テリアスの柄に触れ、それを握る。


「星の輝きよ、某に祝福を」


 ーー『星剣』テリアスの光輝く刀身が顕になった。


 そしてその次の瞬間には、放たれた炎が真っ二つに両断されていた。無論、シュテルニスにも馬にも、そしてその刀身にも傷一つすらもついていない。

 シュテルニスが剣を鞘に直しながら馬の背中をそっと撫でると、馬は安心したように後ろへと走り去っていった。


「さて、それではもう一度。投降を願いやす」


「第二部隊、行け!」


 シュテルニスの背後には、十ほどの敵兵が突如として姿を現していた。ーーおそらく、影属性の潜伏魔法だろう。

 シュテルニスが来ることを予想していたのか、やはり準備は周到なようだ。

 

「甘いです」


 シュテルニスが後ろへ振り向いて、そこから手刀を一振り。結果、飛び込んできた敵兵たちは全員戦闘不能にさせられて、地面に倒れ込んだ。

 それから後ろに振り返って、「次は、なんですか?」と一言。敵兵の指揮をとっていたであろう人物が顔を赤らめた。


「まだだ! 第三部隊放て!」


 その言葉を筆頭に、今度はシュテルニスの周りを二十ほどの敵兵が取り囲んでいた。まだ潜伏魔法で隠れていたのか、と心の中で思わずツッコミを入れそうになる。

 現れた敵兵たちは、一斉に手を翳してそれをシュテルニスに向ける。それから「ファイヤー!」という詠唱とともに炎が放たれた。


 相手を軽く見積り、星剣を鞘に直してしまったことを少し後悔。それから柄を握り、引き抜く。


「はっ!」


 瞬く間に、シュテルニスを全方位から取り囲んでいた炎は、誰にも火傷を負わせることなくかき消された。

 それから星剣を鞘に直すことなく右手で構え直し、それから一言。


「少し、手荒い手段を取らせて頂きやす」


 シュテルニスは敵兵たちに向かって突進。それを食い止めるべく、無数の炎の雨が放たれた。

 前から、横から、はたまた上から飛んでくる炎の雨。だが、常に極限集中(ゾーン)を発動し続けているシュテルニスにとって、これを全て捌くのは造作もないこと。

 彼にとってそれは、単なる作業でしかないのだ。


 そして間も無くして単純作業が終わり、シュテルニスは指揮をとっていた兵の前に辿り着いた。


「さて、お主には一旦寝てもらうとしましょう」


「く、くるなぁ!」


 最後の悪あがきとして炎が放たれたが、それもシュテルニスの前には無に等しい。呆気なく炎は破られ、指揮をとっていた兵は剣で一振り。気絶させられてしまった。


「もう一度、投降を願いやす」


 五十ほどいた敵兵たちは、一斉に両手を上げて降伏の意を示した。こうして、『シュテルニス部隊』による北区奪還作戦は、なんとか幕を閉じた。

 それからひと段落あって地下牢の囚人を解放し、代わりに百近くいた敵兵を全員檻に収容した。だが、やはりそこにもレックスの鍵は見当たらなかった。

 となると、残すは中央区のみだ。


 その後、シュテルニスが東区の時のように囚人に演説をして見事囚人の心を掴み取り、『ブレイク反乱軍』の総勢人数は四百人となった。

 いよいよ、スローン討伐作戦の幕が開けそうだ。


「それでは帰りやしょうか。旦那のーージュリアス•レックスの元へ!」


「「「おォォーーーッッ!!」」


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