日々は続く
「状況が許せば、俺達はとっととこの国から離れるけど、整備班長はどうするんだ」
「そうですね、私か或いはトーシュカ先任のどちらかと機付長は残って機体引き揚げに付き合う事になると思います」
「あら~。どちらかなんて言わずに、班長は皆を纏めて先に戻ってくださいな」
(そして、諸々の雑事をヨロシクお願いしますね)
「いえいえ、先任。私も整備の責任者としての立場が有りますから、もう少し話し合いましょう」
(海中からの墜落機引き揚げ作業と云う得難い知見を得る良い機会です、これを逃す手は有りません)
「それにしても、今更だが二人ともよく無事だったな」
「本当に。五体満足で生還するなんて、どれだけクソ頑丈な体をしてるのかしら」
「いやあ~、私も焦りましたよ。思った以上の衝撃で海面に激突しましたから」
「僕は、スキッド・レベルの操作でマイナスGが掛かった所迄しか記憶が無いから、機体から引き摺り出してくれたジュリエットには感謝しかないよ」
私達が生還出来た理由の一つが、落下時の衝撃を機体構造が壊れる事で吸収してくれるクラッシュ・ワージネス構造のお陰だった。
シートは、私達を固定したまま床を突き破り、構造部材を破壊しつつ衝撃を吸収してくれた。構造部材の破壊は緻密に計算され、シートはやや後傾しつつ沈み込む様な形を取っており、パイロットが受ける衝撃を座面だけでなく背中全体に分散させる効果が有った。
シート自体にも工夫が施されていて、上下の高さを調節する機構にダンパーが組み込んであった。シート高の位置決めをするラッチが、瞬間に発生した高Gによって破断し、バネの力を越えて一気にダンパーを押し込みシートが下がる速度を緩やかに制御したのだ。
特に私とプリンスは背が低かったから、普段からシートを調整できる範囲の一番上にセットしていたので、ダンパーの圧縮行程を最大限に確保出来ていた事も大きいだろう。
あと、これは回収された機体を解析した結果分かった事なのだが、墜落の原因は近接信管によって作動したSAM(地対空ミサイル)の弾体がコレクティブ系統のベアリングをピンポイントで直撃したために迎角を維持する事が出来無くなったからであった。
その為、当初は迎角ゼロになる迄ピッチ角が減少し降下が始まったのだが、降下するにつれてブレードは吹き上げの風を受け、ピッチ角は更に減じ降下率を増す事になったのだ。
そしてその後、機体の行き足を止める為に行った過大なフレアーにより、ピッチ角の減少は更に大きく、同時にローター回転数も増加した。
ローター回転はその二乗で下向きのスラストを発生させ、これがフレアー後の激しい落下の原因となった。
不時着水時の衝撃は実に30Gにも達したとの計測結果が出ている。
我ながら、よくも無事だったと思う。
改めて極限まで妥協を排して、緊急時に備えた機体を設計してくれた人々に感謝だわ。
「ねえ、一応確認なんだけど」
「何だ。改まって」
「サーペント1機全損だけど、会社的に何かペナルティってある?」
「金なら無いぞ」
プリンスがすかさず口を挟む、そんなの私も無い。
「ああ、心配は無用だ。
その辺は契約でしっかり明示されているよ。
それに、まだ結論は先になるだろうが今回の件で色々とアピール出来た事も有って、大口の契約が纏まりそうとの話も出ている」
「ああ、マジックとスージーか」
「何時も喧嘩してる二人だが、今回に限り何故か一致団結して売り込みに精を出していた様だな」
「ま、そもそも地上部隊指揮官が気軽に手元で使える航空火力が圧倒的に不足していた事が原因だろ」
「ファッ●ン・クーガー様々ね」
クーガーはヘリボン援護に使用された武装ヘリよ。
「相変わらず、口が悪いなぁ。でも、確かに初日の空港へのヘリボンでは武装ヘリの動きはパッとしなかったかな」
「そう云う事だな。昨今の実戦から受ける印象次第では、無人機を攻撃ヘリの代替手段として考える向きもあろうが、要は使い方次第。
これは、攻撃ヘリだけに云える事では無いが、簡単にゲームチェンジャーなどと持て囃す事は出来ないって事さ」
「そうよ。ある環境では無敵に思えても、少しでも条件が違えば簡単に立場が逆転してしまう事も有るでしょう」
「今回の様な激烈な電子戦状況下では、ドローンの運用は相当に制限されるだろうしな」
「その通りだぜ。対電子戦装備をドローンに施せばその分費用が掛かるからな、今迄の様な安価で費用対効果を狙った使い方は無理になるってもんだ」
「僕達の活躍の場は、まだまだ有るって事さ」
「因果な商売だがな。ガハハ」
「そうかぁ、複雑ね」
◆
戦争の種で商売してるのは確かだけど、今更この仕事を辞めるなんて出来ないわ。
私は、戦場でヘリコプターの操縦を極めてみたい。
ヤバ。これって一種の中毒かも、医者と何とかは一度やったら辞められないって言うけど、パイロットも同じかもしれないわね。
強力なエンジンを備えるマシン、腕にはどんな敵も打ち倒す必殺の武器、それを操って自在に空を飛ぶ。これに優る快感って有るのかしら。
あ~、こりゃあ本格的にアレな人ってカンジだわ。深く考えるのは止めよう、今はこのサーペントと空を飛ぶ事が第一優先。
それでいいじゃない、ね!
さ~て、次はどんな空が私を待ってるのかしら!
これで、ジュリエット達の物語は一先ず終了です。
初めて書いた小説でしたが、無事完結を迎える事が出来て嬉しく思っております。
今後も、自分のペースで執筆活動を続けて行く積もりでおりますので、サイトで見かけたならよろしくお願いいたします。
梅小路 双月




