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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第五章 離島奪回
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対戦闘機戦闘

「プリンス、なに笑ってんの」

「笑ってたか」

「グフ、グフ言ってたわよ。キモかったんだけど正直」

「相手にとって不足は無いって思ったのさ」

「ホントかしら」

「それより、敵から目を離すなよ」

「任せて。ねえ、フレア(IRミサイルに対する囮熱源)を放出してもっと気を引いた方がいいかな」

「いや、止めておこう。ホントに撃たれた時に足りなくなったらヤバい」

「了解」

 そうね、この子が装備してるフレアは、従来型と違って自然発火性ウエハを使用しているから、赤外線は出すけど発光と発煙が抑えられていて無駄に敵の注意を引くことが無い様になっている。

 今回の様な場面はイレギュラーだけど性能が向上した結果、却って使いづらくなっちゃうなんて、ちょっと皮肉ね。

 こちらの射弾を確認したであろうフォージャーが、上空から浅い角度で向かってくるのが見える。

「プリンス、来るわよ」

「おう」

 プリンスの操縦でシーサー2は、突っ込んで来る敵に対して45°の角度になる様に針路を変える。

 敵機との相対距離は急激に近づき、その結果相手の降下率も又増大する。こちらが飛行経路を変更した事も、相手がバンクした状態から攻撃せざるを得ない状況を強要する事になる。

 なる程、上手い手だ。流石プリンス、伊達に元軍人では無い。

 私は、正面から徐々に真横へと迫って来る敵機を見失わない様に、ショルダーハーネスを少しばかり緩め、フレームに手を掛けて体全体を捻り体勢を整える。

 こちらは海面近くを飛行しているから、相手は500ktノットで飛行していたとして、降下角が10°だった場合150ft/sec(毎秒46m)の降下率で海面に向けて突っ込んで行く事になる。

 更に降下率自体もこちらに接近するに連れて大きくなるから、急速に高度を損失して行く。相手のパイロットは心理的にも不安定となるだろう。

「プリンス、敵が直線的飛行に移ったわ」

 どうやら、見越し角の修正を完了したらしい。GUNにせよ、ミサイルにせよ、相手が撃つまで秒読み状態だ。

「了解」

 プリンスは高Gを掛け、今度は先程の変針とは逆方位に90°の急旋回を開始する。

 機体のバンク角は90°に近づき、高度が維持できずに降下旋回となる。敵機を見失わない様にしている私の視界の端で海面がせり上がって来るが、ここはプリンスの操縦を信じるしか無い。

 向こうも、私達の急激な機動によって射線が外された様で攻撃態勢を立て直す為、再び旋回を開始する。

 プリンスは急旋回による高度損失を利用して、敵の腹の下に潜り込む様に更に低空に舞い降りる。

 流石にここまで翻弄された敵機は、海面への激突のリスクを避ける事にした様でダイブから一転、上昇を開始する。

「敵機上昇、離れる」

 私達がAAM(空対空ミサイル)を持っていれば、この好機を逃さず攻撃に転じるのだが、如何せん武装は自衛用のGUNだけである。

 さて、お次はどうだとばかりに遠ざかる敵機を見送りつつ、各種計器の示度に異常の無い事を素早くスキャンする。

 プリンスもシーサー2を敵機の死角に置き続ける如く、ゆるやかに上昇旋回を打つ。

「あれ?」

「ん?」

 再攻撃を仕掛けて来ると思った敵機は、そのまま距離を離しに掛かる。

 どうやら、こちらの相手をする事を止めたらしい。

「ばれた」

 ああ~、せめてもう少し時間を稼ぎたかった。

「単純な速度勝負じゃ、向こうが圧倒的に上だ。

 逃げを打った敵には追い付けない、ここ迄だな」

 残念ながら戦闘のイニシアチブは、向こうが握っている。取り敢えず、ちょっかいを掛ける事には成功したのだ。空振りに終わらなかった事を良しとしよう。そうしよう。

 何事も100を狙って0になるより、マシって事。

『スタリオン、シーサー2。敵機に逃げられた。

 悪いが後は頼む』

『シーサー2、スタリオン了解。

 十分だ、不用意に艦隊に近づかない様注意せよ』

『シーサー2、了解』


「さて、どうしようか」

「着艦直前で呼び戻されたんだ、燃料が心許ない」

「艦隊には、フォージャーの件が片付くまで多分近づけないわ。

 よし、飛行場へ向かおう」

「了解」

 一仕事終えた感を醸し出しつつ有った私だったが、一応目だけはまだフォージャーが飛び去った方角に向けたままだった。

 そんな私の視界に光が飛び込んできた。

「ん?」

 方向はフォージャーが消え去った先だったが、その光は小さな連続した瞬きで航空機が撃墜された様な暴力的な光量とは明らかに違っていた。

「何だ、何かあったか」

「光が見えた、4時の方向」

 正面を12時として、4時方向とは右後方となる。操縦を担当しているプリンスにとっては、見張りの為にその方向に目を向けてでもいなければ通常は死角だ。

「まさかフォージャーの奴、ミサイルでも撃って来たか」

 うん、私も一番最初に疑ったのがそれだけど、敵が装備してるかもしれないミサイルが最新鋭の物でない限りこちらを捉えるには、ミサイルの頭に付いてるシーカーを直接私達に向けてロックする必要が有る。でも、飛び去ったフォージャーに旋回した様子は見られなかった。これでも一応油断せずに見張りを継続していたのだ。

 それでは、あの光は何だったのか。

 だが、私の疑問の答えは直ぐに無線によってもたらされた。

『オール・ステーションズ(付近の全ての無線各局へ)、こちらスタリオン。

 接近中の空中目標をロスト。繰り返す、コンタクト・ロスト(レーダーによる接触を失った)』

「撃墜した訳じゃ無いのね」

「ロストって何だ、墜落でもしたのか」

『スタリオン、こちらシーサー2。

 少し前に目標方向で微かな光を複数回確認した』

 母艦へ私が見た光について、一応の報告をする。ホウレンソウこれ大事よ。

『シーサー2、スタリオン。

 目標は乗員がベイルアウト(機外脱出)した模様。SAM(Ship to Air Missile:艦対空ミサイル)の照準レーダーでロックしたが、こちらが撃つ前に飛び出した様だ。

 今、収容のヘリを向かわせている。シーサー2は、念の為に現場に向かって護衛の態勢を取って貰いたい』

『シーサー2了解。座標送レ』

 撃たれる前に脱出するって、根性無さ過ぎでしょ。

「私達に見切りをつける判断が早かったから、結構やるなって思ったけど」

「単なる臆病者だったってオチか」


 そんな会話をしつつ現場海域に向かう私達に、又しても新たな情報がもたらされる。

『マイカ(地上部隊指揮所)聞こえるか、こちらシーサー。

 市庁舎に白旗を確認した。

 繰り返す、市庁舎に白旗だ』

 地上戦にも大きな動きが有った様ね、すっかり頭の中から抜け落ちてたわ。


 そもそも空を飛ぶって簡単な事じゃ無い。何かを片手間に考えながらフライトする事など不可能だ。

 よくフライト中は地上の悩みのアレコレを全て忘れる事が出来る、なんて前向きな発言を聞く事が有るのだけれど、裏を返せば能力の全てをフライトだけに注ぎ込まなければ命が危ないと云うだけの事なのだ。

 私にも同じ様な経験が有るけど、それが一種の気分転換になって思わぬ問題解決に繋がったり、単に棚上げされた状態から元に戻っただけの事だったりもした。

 ともかく、生活の中心がフライトである事だけは間違い無いのがパイロットってモノなのは確かね。


「プリンス、白旗だって」

「ああ。でも、結局敵の抵抗が完全に制圧される迄は、安心出来無いだろうな」

「人質もいるしね」


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