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29.託された願い






研究室は、静寂(せいじゃく)に包まれていた。


そこにいるのは三賢人【純白のカーティス】と、血まみれで地に()すミチナキ博士。


戦いはあっけなく終わり、敗者である博士には宣言通り銃撃された。


ヒューヒュー


博士にはまだ息があったが、もう幾ばくも持たないことは誰の目にも明らかだ。


そんな彼にカーティスは問う。


「なぜ、こんな選択を?」


こんな選択とは解放主義者(かいほうしゅぎしゃ)になったことなのか、レイミに全データに渡して逃がしたことなのか。


少なくとも、ミチナキ博士は後者だと解釈したようだった。


「……必要だと思ったのだよ。あの子の未来と……シティの未来に」


力のない声で、途切れ途切れにそう答えた。


「……貴方は未来を見すぎている」


カーティスのその言葉が、ミチナキ博士が最期に聞いた言葉となった。




● ● ● ●




セントラルの地下にあるメンテナンス通路。


中央官邸の研究区画の換気ダクトを通り抜けたアタシは、この薄暗く狭い地下通路に出た。


―― ケンゾウ・ミチナキより『最期の札:《アシッド・ストーム》』を受信 ――


そんなメッセージが、アタシの視界の隅に表示された。


最期の札(ラスト・ウィル)』。


それは(あらかじ)め設定しておくことで、自分が死んだ時に手持ちのカード1枚を送信できるシステムだ。


これが来たということはつまり博士は――。


あふれ出そうになる涙と嗚咽(おえつ)をアタシは(こら)える。


思い出すのは、この世に生を受けてからの幸せな日々。


(あたた)かな眼差(まなざ)し、(おだ)やかな声、優しく頭をなでる手の平。


作り物の命であるアタシに与えられた、確かな愛情。


だが、それらはもう2度と与えられることはない。


「…………」


本当は今すぐにでも足を止め、(ひざ)を抱えて泣いてしまいたい。


でもそれはできなかった。


ナナや博士が命がけで守ってくれたこの命、このデータを守り切らなければならないのだ。


だから一刻も早く、施設を脱出して遠くに逃げなければ。


そこでふと、イヤな思考が頭をよぎる。


逃げるって、いつまで?


追手は三賢人、純白のカーティス。


シティ・アルファの最高権力者。


そしてアタシは完全なる人類計画の貴重なサンプルにして、ミチナキ博士の全研究データを所持する者。


当然、全力で探し出そうとするだろう。


どこに隠れようとも、いかなる手段を使ってでも見つけ出そうとするはずだ。


閉ざされた世界であるこのシティ・アルファに、安全な逃げ場なんてあるのだろうか?


そもそも、生まれてからずっとほとんど研究施設内で過ごしてきたアタシは外で生きていけるのだろうか?


考え出したら止まらない。


すでにアタシは、()んでいるんじゃないのか?


『大丈夫です、レイミ様。ここからの道は、私がご案内します』


突然、そんな声が聞こえた。


驚いて顔を上げると、そこには10数センチほどの小さな妖精の少女が浮いていた。


《虚構天使ヴァナ》。


この間手に入れた、アタシのカード。


なんで実体化を?


案内ってどこに?


というか今しゃべった?


そんな感じで驚き戸惑うアタシの疑問に、彼女は答えてくれる。


彼女は先ほど博士が研究データと一緒に送ってくれたサポートAIだということ。


予め逃走先として設定されているアウターの旧研究施設までの脱出路をインプットされていること。


『最期の札』が送信された場合に起動してレイミを助けるようにプログラムされていたこと。


アタシはその内容に驚いた。


まさか、セントラル内部からアウターに行ける逃走経路まで準備してあるなんて!!


余りにも用意周到(よういしゅうとう)で、これは間違いなく以前から用意していたものだろう。


シティの中枢とつながる研究施設のトップにして、シティと敵対する解放主義者(かいほうしゅぎしゃ)


今日のような日がいつか来ると、博士は予想していたのだろう。


何にしても、今はありがたい。


そこなら当面の隠れ場所に出きそうだった。


アタシはヴァナの案内に従って、地下通路を走った。




● ● ● ●




メンテナンス通路や下水道、通路の壁のひび割れ、シティ建設時の物と思われるデットスペース、アウターの地下道。


それらをいくつも経由して、アタシは以前いた旧研究施設の地下までたどり着くことができた。


地下道に伸びた階段を上って、研究施設内に入るとアタシはそこにしばらく身を潜めることにした。


施設内には幸い保存食が多く残されていたし、検査用の病衣があったので逃走時にボロボロになった服を着替えることもできた。


だが困ったこともあった。


空調の止まった施設内の空気は(よど)んでホコリっぽかったし、少々寒くて体の弱いアタシは体調を崩しそうにもなった。


気づかれないようにするため電気も付けられず、夜は暗くて歩き回ることもままならない。


そして当然、いつまでもここに隠れているわけにもいかない。


セントラル内を探し回って見つけられないとなれば、次は研究に関係のあるこの施設に調査の手が伸びることは想像できる。


次の手を考えなければいけない。


ここに逃げ込んでからの数日間、アタシは自分が持つ研究に関連したデータやこの施設に残されたデータを漁り続けていた。


その状況を逆転する手がないかと。


そしてその手は必ずどこかにあると確信していた。


何故なら、博士はこの状況を想定していたはずなのだから。


でも、絶対に見つからない場所や逃げ続けられる方法なんてあるのだろうか?


そんな疑問がわいてくる。


なら逆に、逃げたり隠れなくて済む解決策があるというのだろうか?


…………あっ。


その時、アタシの頭の中に以前聞いた博士の言葉が蘇る。



―― 変われないものに明日はない ――



そう、変わればいいんだ。


アタシ自身がシティの中枢と戦えるほどの存在に。


それは逆転の発想だった。


この数日のデータ漁りで見つけたある情報がアタシの脳内には大きく浮かんでいた。


それはシティのアーカイブに保存されていた、あるデータの記録。


そこには『崩壊戦争(ほうかいせんそう)以前に起きたあるVR事故の被害者の人格データ』の存在が記載されていた。


記録によると事故後にサルベージされた不完全な人格データとされているが、()ける価値はあると思った。


なぜならそこには、こんな備考(びこう)が書かれていたからだ。



―― 『クロス・ユニバース』世界大会優勝者 ――



このシティで圧倒的な弱者が強者に勝ちうる唯一の方法。


それはクロス・ユニバースを使った『反逆権(リベリオン・コード)』だ。


なら、もしアタシがその世界最強の存在になることができるとしたら!?


カーティスは言った。


アタシの電子脳なら、やろうと思えば『人格のダウンロード』もできると。


ならやってみるだけだ。


とはいえ、それだけじゃだめだ。


ただ人格のダウンロードをするだけでは、おそらくアタシという今のこの人格が消えてしまうかもしれない。


ナナや博士が救ってくれたのだ。


そのアタシという存在が消えるのは避けたい所だった。


だけど手はある。


人格のダウンロードができるなら、アップロードも可能なハズだ。


あとはそのアップロード先さえあれば……。


「……あっ」


周囲に視線をさまよわせたアタシは、ちょうど良いモノを見つけた。


『どうかされましたか、レイミ様?』


そこにはAIを搭載した小さな妖精の姿があった。




そして、アタシは施設に残された電子脳へのインストール装置を用いて人格の転送を行った


アタシの人格をヴァナに移し、古代人の人格をアタシに入れることにした。


アーカイブには不正アクセスしたから、やがてこの場所はシティポリスの知るところになるだろう。


でもきっと何とかなるはずだ。


この人格が、本当に最強の力を持った人物のものならば。


そしてきっと彼ならやってくれるはず。


アタシを、ナナを、博士を、研究員の皆を、こんな目に合わせた憎きアイツを倒すことさえも。




こうして、俺は目を覚ました。








次回「ラストバトル 純白のカーティス」へ続く

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