私の異世界
ありがとうございました!完結です。
私は、告白をしたことがない。
勿論、されたこともない…
それは、この世界に来る前からで…
この世界で姫様をするようになって、もうモテまくりーなんて事にならなかった。
「なぜだ!?見た目は可愛らしい若いお姫様なのに、なぜ告白してこない!」
「そりゃ、これだけ破天荒に暴れて騎士達をなぎ倒していたら誰も言い寄って来ませんよ。それに口から心の声、漏れてます」
エドは冷めた顔をして、いつものようにタオルを準備している。
私の周りにはボロボロになって倒れている騎士達が転がっていた。
「ウタさま。あまり騎士達を苛めないで下さい。彼らは彼らなりによくやっております」
クロスは汗を拭きながら私のもとにやってきた。
「あの訓練についてこれるウタさまが規格外です」
苦笑いを浮かべているクロスに私は顔を紅くした。
だって、クロスが直接稽古をしてくれるって言うから、めちゃめちゃハリ切るにきまっているじゃないか。
逞しく鍛えられたカラダ、優しい黒い瞳、短い黒髪が私の元の世界を思い出す。
クロスが私の国の騎士になってすぐ、実力人望共に文句なしで国王(私の父)が騎士団長に任命した。
クロスが騎士団長になると、うちのへっぽこ騎士達のレベルがどんどん上がったのは言うまでもない。
ちなみに私の護衛騎士は忙しいのに何故かいまだ継続中だ。
私はエドからタオルを受け取りワシャワシャと汗を拭いた。
「……はぁ。普通のお姫様はお化粧をして、綺麗に着飾り殿方の視線を気にして過ごしております。騎士と稽古に励むのではなく、刺繍やお茶会など優雅に過ごして儚く愛らしい存在でいるから告白されたりするのですよ」
「なに?エド、私にじっと座って儚く愛らしくしろと?」
「モテたいのでしょう?」
「だ、誰でもいいというモノではないわ!」
「ほーう」
「うぐ……」
私はチラッとクロスを見るとクロスはまるで私とエドのやり取りを微笑ましく見眺めていた。
そう、最近私は悩んでいる。
クロスに告白するか、それとも何とか告白してもらうか。
大国での事件から、私とクロスはお付き合いしている関係と噂されているが、実際は全くなんの進展もない…
多分、嫌われてはいないと思うが、主と騎士の関係以上になる気配もない。
父も母もサジイも私の結婚相手としてクロスに期待をしている。
私だって……
しかし、女らしい事が何も出来ない自分にはどう進展させたらいいのか全くわからなかった。
「とりあえず、汗を流しに行きましょう。ウタさま」
「くっ……わかったわ。エド行くわよ。クロス殿、また後で!」
「……わかりました」
汗を流し、着替えを終えるとエドが私の髪を乾かす。
「ねえ、エド。どうすればクロス殿は私に好意を寄せてくれるのかしら?」
「…まったく、ウタさまは鈍感だから。難しいと思いますよ」
「どういうこと?」
「例えば、わたしの存在です。恐らくクロス様はわたしとウタさまに男女の関係を疑っているでしょうね」
「…は?なんで?」
エド誘拐事件でエドの相手は私じゃないとハッキリ判明したと思うが。
「ただの側近をカラダはって守る姫はいませんよ、ふつうは」
「大切な側近だから当然じゃない!」
「っ…まったく貴女って人は…」
エドは髪を乾かす手を止めて私の耳元に顔を近付けた。
「そういう発言が誤解されるのです。わたしですら勘違いしてしまいそうになる」
耳元で囁き私の首筋に口付けを落とすと私はゾワっと鳥肌がたった。
「エド!」
私がからかうエドを叱ると平然とした顔をして話をすり替えてきた。
「そういえば、明日ネシル王子がお忍びでいらっしゃいますよ」
「え、また来るの?」
大国の第一王子が最低でも月2回、多いときは毎週この辺境の貧乏小国にわざわざやってくる。
理由はエドといちゃつくためだ。
私の中では、もう鬱陶しいから二人で好きにしてくれと思っている。
なので、エドと私が何かあるなんて、あり得ない話なのだ。
「諦めてクロス様に告白したらどうですか?」
「私が告白すると、主として命令しているようなものじゃない」
「それを受け入れるかどうかは本人次第でしょう。仕える騎士として受け入れるのであれば、ラッキーじゃないですか」
「なんだか、それは嫌なの」
私は深くため息をついた。
次の日、予定通りお忍びでネシル王子がやってきた。
相変わらずの偽物の笑顔を私の両親に振りまいていたが、相手が私とエドだけになると素の表情が現れる
「相変わらず何もない田舎だな」
「だったら来なきゃいいでしょ…」
「お前に用はない。エイドに会いに来てる」
はたから見たら、辺境の姫に会いに来ている王子だろうが実はその執事を溺愛してるなんて誰も思わないだろう。
「エイド、こんな奴の所より私のもとに早く帰っておいで」
「嫌です。貴方が一人前に成長したら考えます」
「わたしを焦らしてそんなに楽しいか?」
「ええ」
私とネシル王子に紅茶を入れながら淡々と答えるエドをネシル王子はいとおしそうに眺めている。
私はこの甘ったるい空気に耐えきれず、咳払いをして席を立った。
「そういえば、サジイに呼ばれていたわ。席を外すからエドあとよろしく」
「承知いたしました」
別に急ぎではないサジイの用事を聞きに行こうとしていた時、クロスが使用人(女子)に呼び止められている姿が遠くで見えた。
私は気になって、こそこそっと隠れて近づき、お行儀が悪いが何を話しているのか盗み聞きした。
「クロス様!お付き合いしている方はいらっしゃいますか?」
「はい。ウタさまと」
その噂を流しているので、話をあわせてくれているのだろう。
クロスと話している使用人は古株の使用人の確か娘さんで最近奉公に来てもらっている。
若くて可愛くて愛嬌がよく男性陣に人気の彼女だった。
「ウタさまとの件は聞いております!あの、私でよければお付き合いをして頂けないかと…表向きだけウタさまでも、私は大丈夫です!」
…ふむ。
つまり、私とクロスのお付き合いは偽物だと知ってる。なので、自分と付き合って!ということか…
別に騎士と使用人が交際することは禁止ではないし、おかしなことでもない。
まあ、普通に考えてクロスが名家の騎士で使用人なんて相手にしないだろうと思うが、なんたってクロスは根っからの良い人だ。
「お気持ちはありがとうございます」
ほら、いい人。
使用人だからと差別的な扱いは一切しない。
私もこの使用人の子みたいに可愛かったらなあ…
「でも、今はそういう事を考えられないので。」
「私、お邪魔をしません。お試しでもいいですし、どうかお付き合いしてみませんか?!」
ぐいぐい迫ってくる使用人に少しイラッとしている私だったが、私が口出しする事ではない。
これはクロス個人の自由なのだから。
クロスの返事を聞くのも嫌になって立ち去った。
女らしく、愛らしく、儚く、おしとやかな女なんて…
ダメだ…勝機はない。
私はどんよりと俯いてサジイの所に行くと、そこにはクロスの執事アオイが一緒にいた。
「ウタさま、どうしたのですか?」
「サジイが何か手伝えって言ってたから来たのよ」
沢山の書物を持っているアオイの奥からサジイがひょっこり顔を出した。
「あーウタさま。もうこの者が手伝ってくれたから大丈夫じゃ」
「えー」
「いやー、クロス様の執事は若いのによく働き学ぶ姿勢もある。これはエドとは違った才能じゃ。どうじゃ、ワシの後継者に」
「お恥ずかしい。そんな僕はまだまだ勉強中ですので」
「なに、ウタさまとクロス様が結婚すれば必然的にうちの執事になるからな!わっはっは!」
凄く上機嫌なサジイに私とアオイは苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、私必要ないのね。もう行くわ」
「ウタさま!ついでに第三書庫にその本持って行って下され」
どこの執事が姫を荷物運びに使うのかしら。
8冊ぐらい分厚い本をサジイは指差していた。
しかし、これが当たり前に育ってきた私は素直に本を持って書庫に向かおうとするとアオイが困惑していた。
「ま、待って下さい!僕がやりますから!!」
「あ、いいのいいの。うちはいつもこんな感じだから」
「そうじゃ!王族も働くべきじゃぞ!」
アオイは慌てて私の持っていた本の3分の2をとった。
「僕も運びます。第三書庫はどこですか?」
「いいのにー」
「運びます!!」
「あ、ありがとう。サジイそういうことだから。」
「おお、また来いよー」
アオイの気迫に負けた私はふたりで第三書庫を目指した。
その道中、アオイが周りの景色を見回して小さく微笑んでいた。
「ここは不思議な国ですね」
「え?」
「皆さん、生き生きとしている。堅苦しくなく、なんというか空気が澄んでいます」
「あー田舎だからね」
「それだけじゃないかと思いますよ」
アオイは苦笑いを浮かべた。
あ、そうだ!情報収集するチャンスだ。
「ねえ、クロス殿はーその、これまでお付き合いした女性とかいたの?」
「クロス様ですか?はい、いらっしゃいました」
「どんな女性だった?」
「そうですねー包容力があり、おしとやかな方が多かったかと」
多かった…ということはひとりではない…ということか。
何にしても、私とはタイプが違う。
「そう。ありがとう。」
私が少し落ち込んでいると、アオイは少し焦って
「あ、クロス様は恋愛に積極的な方ではないので。」
「私もよ。恋愛のやり方がわからないなんて情けないわね…告白なんてされたことないし、するなんてハードル高いわよね」
「そうなのですか?案外簡単ですよ?」
「え」
若い執事なのにまさか経験豊富なのか!?
アオイはにこりと微笑んでいた。
「ちなみに…告白ってどうやってするものなの?」
第三書庫にたどり着いて本を指定の本棚に片付けると私は何かヒントがあるのではと思ってアオイに聞いてみた。
「そうですね。脈がありそうな意中の子を呼び出して、基本二人っきりの時にします。それは、デートの時でもいいですし、夜暗い中でも効果があります」
「へ、へー」
「伝える言葉もシンプルな方がいいですね。あまり回りくどいとキザに聞こえたり伝わらなかったりしますし」
「好きです!とか?」
「ぷ。それはシンプルすぎです」
少し小バカにされたように笑われて私は赤面してしまった。
だって、わからないんだもん。。。
「貴女ともっと一緒にいたい。この僕の好きな気持ち、わかってもらえますか?とか?」
「うわーーー」
絶対断れない空気になるわーアオイの意外な女ったらしっぷりに私は驚いた。
「告白されて嫌な気になる人は少ないですよ。相手がクロス様なら尚更何かしらの答えはもらえます。僕は応援してますよ」
「私、クロス殿に告白するなんて一言も言ってないけど」
赤面したまま、私は口を尖らせた。
それから暫く、私は告白を意識してしまい、クロスの顔をまともに見れずつい避けてしまう日々が続いた。
このままではいけないとわかってはいるが、やっぱり告白する勇気がでない。
そんなある日、またネシル王子が突然やってきた。
「ウタ、俺と結婚しろ」
「嫌です」
出会い頭に、結婚しろ発言に即答で拒否した。
「婚約者候補のベネッサに既成事実を作ろうと夜這いに来たり、セレナには毎晩誘われる。なんなんだ、あのメスブタたちは!」
ベネッサとセレナはネシル王子の婚約者だ。懐かしい。
「知りませんよ…そんなにオレモテます自慢したいのですか?」
「ウタなら契約結婚で夫婦生活も必要最低限に済ませることが出来る。ウタ、悪い話ではないじゃないか」
いやいや、私の人生をなんだと思っているのでしょう?
全力で拒否したが、ネシル王子も立場上大変なのは同情した。
大国の後継者として、子供は絶対必要だろうし。
今回は相当参っているようだったので、早々にエドと二人っきりにしてあげようと気を使って私は席を外す事にした。
城(大きな屋敷)の中では、クロスの護衛は必要ないと告げている。
いま、クロスが側にいるとまともに呼吸も出来そうにない。
それでも、私はクロスが見たくて、遠くから稽古をしているクロスを眺めることにした。
騎士の稽古場を覗き込むがクロスの姿がない。
他に思い当たる所を探し、自室で執務をしているのかと思い、そちらも覗いたが居なかった。
まさか…あの子とデート…
嫌な想像が次から次に浮かび上がる。
私は勝手に落ち込み気分転換をするため庭を散歩することにした。
クロスが誰を選ぼうと自由だ。
私は所詮偽りの婚約者だし…
トボトボ歩いていると、ガゼボ(休憩所)に人の気配を感じた。
「ん……あ……」
ふたつの人影が絡み合う。
まさか…クロスとあの娘が…その人影が誰かを確認するため隠れて近づくと、そのエドとネシル王子だった。
こんなところで、こいつら…
勝手に勘違いした自分を恥じて凹んでいると、ポンっと肩を触られた。
ビクッと驚き振り返るとそこにはクロスが人差し指を口元あてて『バレないように』といったジェスチャーだった。
「ネシル…」
「ああ、エイド」
私はここを離れたくてジェスチャーでクロスに伝えるとクロスは苦笑いを浮かべて頷いた。
こそーと離れて、もうバレないだろうという所まで移動すると私は背中を延ばす。
「はぁー、まったく」
「彼らもですが、それを覗き見るウタ様も感心出来ませんね」
「わ、私は違うわよ!ちょっと理由があって!」
少し困った表情をしているクロスに私は赤面して視線を反らした。
「…そんなに彼を思っているなら、手放さなければいいのに」
「どういうこと?」
「ウタ様、貴女は魅力的な人だ。皆が貴女に好意を抱く。ネシル王子は貴女に求婚し、アオイは貴女に愛を囁いている。」
「え!あれはー…」
あの時何処かで聞いていたのか。
赤面していた私の顔が恥ずかしくて更に紅くなる。
「それでも、貴女が想っているのは彼なのでしょう」
「へ?」
「わたしはウタ様が誰を選んでもあなた様に仕えたいと思っております。だから、どうか避けないで…叶うのなら側に置いてほしい」
少し弱々しく聞こえたその言葉に私はゆっくりと顔をあげてクロスを見た。
クロスは静かに微笑んでいるがその瞳は悲しそうだ。
「ちがう…」
「ウタ様?」
「誤解です、クロス殿!わ、わ、わ、私は~っ…」
ここで伝えないと、ここで私の気持ちをちゃんと伝えないと!
私は自分の両頬を両手でバンと叩いた。
頬は痛いが、動かない唇に気合いを入れて改めてクロスを真っ直ぐに見つめなおす。
「私が好きなのはクロス殿、貴方です!」
「!」
心臓がドックンドックンと鳴る。顔が更に熱くなり唇と手は震えて、頭がパニックになる。
言ってしまった、告白してしまった。
もう、後戻りは出来ないし、なるようになるしかない。
「ずっと私は貴方の事が…」
「嫌われてると思ってました。わたしは邪魔なのだと」
「そんなわけないです!」
「避けられてましたし」
「だって…一緒にいると苦しくなるから」
私の言葉にクロスはフワッと笑顔になり、私をそっと抱き寄せた。
「わたしもです。些細なことで貴女の周りの男に嫉妬して、恥ずかしい」
「クロス…」
「偽りでなく、本当の婚約者になることを夢見ていました。これは現実ですよね?」
「はい!さっき頬が痛かったので!」
クロスは少し紅くなった私の両頬を両手で包み込んだ。
真っ黒な美しい瞳で優しく包み込むように微笑んでいるクロスに私の心が奪われた。
「ウタ様、貴女を一生お守りします」
「はい」
そう囁くと私の唇に口づけを落とした。
晴れて、私はクロスと正式に婚約を結ぶことになり、とんとん拍子で結婚式の日まで進んだ。
私たちの結婚式は小国の中でも盛大に執り行われた。
あの、小国の残念なお転婆姫が大国の騎士を射止めた。
まるでシンデレラストーリーのような展開に誰もが祝福をしたのだ。
異世界に転生されて、私は本当の「恋人」を手にいれた。
こんな展開なら、異世界もいいかもしれないね。
おしまい
最後まで読んで頂き、ありがとうございました
(*^^*)
この小説は1年前になんとなく書いて、途中で手が止まっていたものです。
物語を考えてると途中で「あれ?私何書きたかったっけ?」となることがしばしば苦笑
完結させるって結構大変ですよね……
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!!