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その後、桜たちは再び大きくなった白に乗り、森の奥の方へと向かった。
どうやら”情報屋”というところに向かうらしい。
2回目の空中移動はまだ全く慣れず高さにゾッとしたが、考えることも多すぎてそれが半減された。
なぜ神月は高額な懸賞金がかけられた人に勝てるほど強いのか、この世界では全ての人がディフなのか、こっちの世界に来たのは良いけどどうやって帰るのか、置いてきたバッグの中にあるスマホはこの世界では圏外なのか…浮かんでくる全ての疑問を今日知るのは無理だろう。日に日に知っていけば…とも思ったが、明日またこの世界に来れるのだろうか。そして今後、この世界で神月との関わりはあるのだろうか。
頭の中に1つ疑問が浮かぶと次の考えることが浮かび、思考の連鎖が止まらない。
そうこう考えているうちに、白は高度を落とした。
森の中に降り立つと、そこにはポツンと1階建てのログハウス。濃い色の木で出来ていて、屋根は深緑色。なんだか味がある。
神月はドアをノックした。
「おーい、じいさーん、入るぞー。」
神月はドアを開けると小さくなった白が先に中に入り、神月に続いて桜も中に入った。
そこには、前後左右、天井の近くまでぎっしり埋め尽くされている本棚。全ての本が落ち着いた色で統一されていて、ファンタジーの世界の本屋さんみたいだ。
正面には木でできたカウンター、そしてその後ろのドアから80歳ぐらいの見た目のおじいさんが出てきた。白い眉毛、鼻下と顎下には白く少し長い髭、少し伸びた真っ白な髪の毛は全て後ろに流れている。眼鏡をかけていて、隙間から見える瞳はキリッとしているが、猫背で杖をついている。白いシャツの上に深い茶色のベストを重ね、金色のボタンと懐中時計のチェーンがオシャレだ。下にはベストと同じ色のスラックス、艶のある黒い革靴。右手の人差し指と中指には太いシルバーの指輪。優しそうな雰囲気だが、どこからか貫禄を感じる。
一言で言いあらわすなら、ファンタジー代表魔法が使える本屋のおじいさん。
桜はそんなおじいさんを見て、まるで映画の世界に入り込んだかのような気分になり目をキラキラさせていた。
「おぉ、久しぶりだのぉ。女の子も連れてくるとは珍しいのぉ。」
喋り方もとても優しそうでゆっくりとしたおじいさんだ。
「今日はこの子のことで聞きたいことがあって。」
…この子。なんだかその言い方に少しドキッとしたが、すぐに自己紹介をする。なんだかこのおじいさんは凄く優しそうであり、凄く怖そうだ。逆らえない何かを感じる。
「はじめまして、桜です。」
おじいさんの方を見ると、カウンターに飾ってあった1冊の本が目に入った。深緑色の表紙にゴールドで文字が書かれている。
タイトルには読めない文字が書いてあるが、その上にうっすら日本語で文字が浮かび上がっているのが見える。これもその言語の飴とやらの効果なのか。そこには”フラウ”と書かれていた。
「可愛いお嬢ちゃんだのぉ。どうしおった?この本が気になるか?」
…フラウ。その単語を桜は知っている。
それはおそらく人の名前…いや、神の名前と言っても良い。
あの絵本。毎日聞いていたあの絵本のタイトルは、『フラウの書』。
「フラウって人の名前ですか?」
「そうじゃよ。」
…やっぱり。
…分かった。色々分かった。
自分がなぜこの世界に来れたのか。
だって、書いてあった。
1ページ目に全てが書いてあった。
『3000年。
それは、長い長い時間。
長い夢を見る時間。
季節が17巡りする頃
目覚めたら扉を開けよう。
1つめの魔法
鍵を開ける魔法
”ラージュ・コア”
神話の続きが始まるー…』
17歳になった今日。
自分の中にある何かが目覚めた。
そして、鍵を開ける魔法を使ってこの世界に来た。
神話の続きが始まる…つまり。
自分の中にある何か。
それは、『フラウ』の何か。
意思とか、心とか、記憶とか、そんなはっきりしていないものは分からない。
それが自分の中にあるのであれば、外科的に脳みそをいじらないと無理だろう。
でもこの世界はそうじゃない。魔法がある。
絵本の通りならば、自分はフラウと共に生きている、ということになる。
この本の話をしなきゃ。
そう思った時、神月は本の元に向かって歩きながら言う。
「これは俺が大っ嫌いな神様の話。爺さん、これ借りてくよ。」
神月は本を手に取って桜に渡した。…大嫌いな神の名前。どういう意味だろうか。
自分のことを言われた訳じゃないのになんだか少し傷ついたし、この話をしにくい雰囲気になってしまった。
「帰ったら読んでみて。ディフとかディフィガのことが書いてある。」
…借りて良いんだ。それは嬉しい、今はひとつでも疑問を解決したい。しかしまた疑問も増えてしまった。なんだかモヤモヤした気持ちで本を受け取る。
「ありがとうございます。」
おじいさんはカウンターの椅子に腰かけると、白はカウンターの上にジャンプして飛び乗り、おじいさんの目の前に座って言う。
「それで、本題じゃ。」
白は、桜がこの世界にたどり着いた経緯と、今日起きたことをお爺さんに全て話した。それは無駄がなく、要点をまとめた完璧な説明だった。人間以外の動物が喋り、そしてすごく頭が良い。なんとも言えない不思議さだ、脳の構造は一体どうなっているのだろうか。
「うむ…なるほど。ディフじゃない人間がこの世界に来れて、魔法も使えた…と。」




