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【サメ映画和風アレンジ】デス畳 - DEATH TATAMI -  作者: 七谷ぐちた
第三章 兵器の起動・最終決戦
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第54話 崩壊する洋館


「いけない、早く!」


 ビームが放たれる直前に“カタブツ”がさけび、メカ畳の付近にいたふたりのそばへ行き、“玉袋デカ男”の誇張しすぎた特注ふんわりズボンをかける。


 この世にあるまじき熱量であった。

 特注ふんわりズボンはこんなにも誇張されすぎているというのに、熱を遮断しきれず、蒸し器のなかに閉じこめられたような心地である。

 “カタブツ”は、“ゲス野郎”と“お嬢さま”に覆いかぶさり、状況がおさまることをただ祈った。


 しずかになったころ、そっとそとをうかがう。


 そこでは――デス畳が、まさに溶けてゆく最中であった。


「口惜しい、口惜しい……ズカズカと押し入って安寧(あんねい)なる眠りをさまたげ、生まれた尊き命を、身勝手にうばう。それがキサマら人類だ……。だが忘れるな。われらは、何度でも生まれ、あらゆるものに姿を変える……」


 もはやミニ畳ほどのサイズとなってもなお、ぞっとするような、呪いのことばを吐く。

 デス畳に吹き飛ばされ、バイクから飛び降りたときに強打した左腕をおさえながら、“カタブツ”はデス畳に語りかけた。


「キミの……しずかな眠りをさまたげたこと、すまなかった……」


 デス畳はその言葉を聞いたのち、しばし沈黙した。

 それから口をひらくが、


「口惜しい、口惜しい……」


 とだけつぶやいて、やがてあとかたもなく溶けてゆく――


「終わりましたのね……」


 “お嬢さま”が、ようやっと這い出て、言った。

 “ゲス野郎”はたえがたい激痛から、すでに失神してしまっていた。


「メカ畳さま……」


 ふたりが目を向けると、メカ畳もまた、至近距離からの究極秘技によってみずからも熱線を浴び、下半分が消失していた。

 もはや、半分の一畳ほどの面積しかのこっていない。


「ありがとう、ありがとうございます……。あなたやミニさま、そしてダミ畳さまにも、なんとお礼を申していいか……」


『いいのデス。ワタシの存在理由を……そしてマスターの目的を、やっとはたせました……。30年、ふりかえってみれば、長かった……』


「存在理由……」


「いかん、そろそろ崩れるぞ!」


 “カタブツ”が見あげると、メカ畳やデス畳の魔技(まぎ)にて損傷した壁や天井のコンクリートなどが、大きなかたまりとなって落下してきていた。

 メカ畳は脱出をうながす。


『行ってください……。ワタシはこのまま、この館とともに眠ります。あのマシンも、あと一度ならエネルギーがもつはずデス。それを先ほどのバイクに……』


 “カタブツ”はうなずくと、ミサイルとなったバイクの破片をかき集め、落ちていた『誇張しすぎマッシーン』を拾って使用する。

 中型バイクはみるみる復元していくが、中途半端なところでライトが切れてしまった。


「む、エネルギー切れか……」


「それでもふたりなら、のせられるでしょう。まずは“ゲス野郎”さまを……」


 ふらつきながら“お嬢さま”が立ちあがり、担架(たんか)に車輪がついたようなかたちで誇張されすぎたバイクに、ごく軽微な応急処置だけした“ゲス野郎”をゆっくりとのせる。


「ふたり……? しかし、生きのこったのは4人いるんじゃ……」


「あとで申しますわ。まずは“わけ知り顔”さまの無事を、たしかめましょう……」


 “わけ知り顔”ははなれた場所にいたため、レーザーについては大した影響を受けていないようだった。

 だがすでに体力はないに等しく、上にのっている――自身をかばってくれた“太鼓持ち”の下から這い出すこともできなかった。

 “カタブツ”が手を貸し、引きずり出す。


「“わけ知り顔”……無事でいてくれて、よかった……」


「はは、これを『無事』といえるなら、ですけど……。それでも、みんなにくらべたら、贅沢はいえませんね。“太鼓持ち”氏、なぜ、私なんかを……」


「きっと、とっさだったんだろう。“太鼓持ち”、すまない。本当はとむらってやりたいが、時間がない……キミの勇姿、ぼくは、ぼくたちは、決して忘れない」


 みなで、合掌をして“太鼓持ち”のことを(いた)む。

 “わけ知り顔”はボロボロと泣いていた。

 そこでまた、建物がゆれる。

 彼らのすぐ近くに、人など容易(ようい)に押しつぶせるコンクリートが落下してきた。


「“わけ知り顔”さま、失礼をいたしますわ。せまいですが、“ゲス野郎”さまのおとなりに、そう、くれぐれも安静になさってくださいましね。これで……よしと」


 “お嬢さま”は“わけ知り顔”をお姫さまだっこのように両手でかかえると、誇張されすぎたバイクの上へそっと置いた。

 『誇張しすぎマッシーン』のなんたる気づかいか、ふたりを固定するベルトまでついており、それをしっかりと装着する“お嬢さま”。


「時間も、おふたりをかかえて地上へと走る体力も、わたくしたちにはもはやございません。天井に大きな穴がありますから、あちらを通して地上へこのバイクで飛ばします。そして、この“玉袋デカ男”さまの誇張しすぎた特注ふんわりズボンでつつめば、着地の衝撃ぐらいならないも同然にしてくれるはずです……」


「“お嬢さま”、それではあなたたちは!?」


「わたくしたちは、最後にやることがあります……。本当は、わたくしひとりでと思ったんですが、“カタブツ”さま……最後まで、わたくしにおつきあいくださいますか?」


 うるんだひとみで自分を見あげる“お嬢さま”に、詳細はわからないながら、信じてなにも問わずにうなずく“カタブツ”。


「ああ……もちろん。どこまでもいっしょだ」


「ま、まってください。こんなまもなく崩壊する建物にいたら、助からないじゃないですか! せっかく生きのこったのに、私たちだけなんて、そんな……」


「ご無事を、お祈りしております」


 そう言って、ハンドルを思いきりまわすと、ズドドドとエンジンが起動してバイクは高く()びあがっていった――

 ふたりはそれをまぶしそうに、見あげる。


「それで、ぼくはなにをしたらいいんだ? なにか手伝おうか」

「いえ、ただお茶をのんでいただければそれで……」

「お茶?」


 話しながら、メカ畳のほうへともどっていく。

 メカ畳はピポパポと電子音を発したあと、ふたりを叱責(しっせき)した。


『なにをしているのデス? 早く逃げなければ、もう本当に崩壊して下敷きになってしまいます……! いますぐ逃げるのデス!』


「メカ畳さま、あなたの存在理由はみごとはたされました。でも、あなた自身が望んだことは、まだ達せられていないのではございませんか?」


『ワタシが、望んだこと……』


「畳としてだれかをのせて、お茶を一服、あなたのうえで……」


『おだやかな、ときを……』


 “お嬢さま”は歌うようにしゃべりながら、そっと、袋から茶器(ちゃき)をとり出した。


「ふふ、目に入った荷物を急いで詰めたのでしょうね……。戦いにはつかえない、わたくしがもってきていた茶器(ちゃき)にまで『誇張しすぎマッシーン』のライトが浴びせられていたようですわ……。茶碗と茶筅(ちゃせん)ぐらいしかございませんが」


 服には乾いた血がこびりつき、焼け焦げ、ところどころ破れてさえいるというのに、周囲に花さえ咲きそうな優雅な所作(しょさ)で、「失礼いたします」という声とともに“お嬢さま”はメカ畳の上へ正座した。

 “カタブツ”もまた、しずかにそれに(なら)う。


「なにぶんお道具がそろっておりませんので、略式も略式でお恥ずかしゅうございますが……」

「いや、こちらがお恥ずかしい。ぼくはほとんどこうした経験がなくて作法(さほう)がわからず……。これからは、こういう勉強も必要になりそうだな」


 ハハハと、“カタブツ”が未来の話を出して、快闊(かいかつ)に笑う。

 “お嬢さま”もまた、楽しそうにくすくすと笑った。


「わたくしが、お教えしますわ……。何度でも、時間をかけて、少しずつ。そのかわり、わたくしが知らないことは、“カタブツ”さま、やさしく教えてくださいましね」

「ああ、むろんだ」


 まわりではコンクリート(かい)が落下しているというのに、ふたりの周辺だけは、日本庭園の見える茶室ですごしているかのごとく、静謐(せいひつ)な時間が流れていた。


『おお、これが、これが畳としてのしあわせ……。こんなものを、こんなものを最期に味わえるなんて……。ワタシはただの兵器じゃなかった、ただ命をうばうだけの兵器では、なかったんだ……!』


 メカ畳の、感涙(かんるい)にむせぶ声がひびく。

 “お嬢さま”がからの茶碗で、茶筅(ちゃせん)をカチャカチャと手際よくまわすと、誇張されすぎたことで玄妙(げんみょう)ふかしぎにも無から抹茶がわき出てくる。

 それをそっと“カタブツ”へとさし出した。


「“お嬢さま”の……誇張しすぎた粗茶(そちゃ)でございます」

「ありがたくちょうだいいたします……む、なにか、飲むまえの作法があったな。なんだったか……」

「きょうは、かまいませんわ。ただ、味わってくださいまし」

「では、いただこう」


 いよいよ、崩落(ほうらく)ははなはだしくなる。

 天井が欠け、壁がはがれ、リビングの家具さえも落下してきた。

 モンスター住まう洋館が、長いあいだためこんだ怨念(おんねん)とともに、つゆと消えようとしている……

 ひときわ大きなかたまりが彼らの頭上にせまったころ、“カタブツ”はひとことつぶやいて、ほほえんだ。


「これは、たいへんみごとなお点前(てまえ)で……。いまここに、命があって、目のまえにはキミがいる。……ぼくは幸福だ」


 “お嬢さま”もまた、ほおを赤くそめ、しあわせそうにほほえみかえす……


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