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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第七十話 六人での出発点

すみません、遅くなりました。

 あの後、恥と外聞とプライドをかなぐり捨てた渾身の土下座によってタイガのガチキック一発で許してもらった。

 【不屈の精神】が発動して死に際の保険は無くなったし、ポーションやアーツでの回復が禁じられたのでいつもよりスリリングな帰宅を余儀なくされたが、なんとか生きて帰ることができた。

 手に入れたドロップアイテムの売却やそれによって得られたゴールドの分配など、様々な事後処理を済ませてそのまま解散……とはならなかった。


「君達やっぱり私達のギルド入り審査のこと忘れてるよね」


「「「「あ」」」」


「言い出したのは俺ら……つうかリズさんのほうだが、一応審査する側なんだし忘れんなよ」


 そう、リズさんとタイガのギルドメンバー入りについてである。

 ぶっちゃけ俺も忘れてたし、いつもならちゃんと覚えているハキルさえ忘れていた。

 まあ、それだけ工場要塞との戦いがヘヴィだったということで許してもらうことにしよう。


「それじゃあ改めて言わせてもらおう、私達を君達のギルドに……」


「よろしくおねがいしまぁす!!」


「返答が早いねえ!!」


 そして、こんなギャグみたいなスピード展開でリズさんとタイガのギルド設立メンバー入りが決定した。

 ついでに善は急げと言わんばかりにギルド設立の準備を始めた。

 もっとも俺は何をするのかもわからないので大人しく先導するリヒトについていくだけである。


 ギルドを設立する、と言えばわりと大仕事になるように聞こえるかもしれないが、実際はただ紙一枚提出するだけの簡単なお仕事だ。

 『アナザー』の中には『グランギルド』と呼ばれる組織が存在する。

 俺が何回か依頼を受けた掲示板を管理しており、全てのギルドを管理下に置く特大組織だ。

 いたるところにあるドロップアイテムの換金所や依頼報酬の受け取り口もグランギルドの管理下らしく、おまけに俺は利用したことはないが素材の販売や持ちきれない量のアイテムやゴールドの預かり所もやってるというとんでもっぷりである。

 まあこれだけ聞いてもよくわからないと思うので『めっちゃ色んなことやってる超デカい組織』って認識で大丈夫だ。


 何が主要業務かもわからないが、最初は傭兵稼業をやっていたいくつかのグループをまとめて依頼の受注体制などを一括化するためのものだったらしい。

 それに傭兵のみならず護衛団や自治組織、放浪者や武者修行中の者まで集まり、あれよあれよと組織は巨大化。

 それに伴って活動範囲の拡大や事業内容の追加などを行った結果、今やとんでもない超巨大組織になったというわけだ。

 ちなみにグランギルドのオーナーは数百年以上前の設立時から変わっていないという噂があったりするらしい。

 前までの俺なら笑い飛ばしたかもしてないけど、あの遺跡の記録を見た後だとあり得るかもなんて思えてしまうから反応に困る。


 話が逸れたが、つまるところギルド設立のための用紙をグランギルドに提出すればギルドは作れるってことだ。

 そのため、俺はああ、あと三〇分もあれば寝れるかなー、なんて呑気に考えていた。

 そして、その見通しが如何に甘かったかをたった今思い知らされているところである。


「だーかーらー、絶対こっちのほうが良いって!」


「いや、そっち路線は合わないって話になったじゃん! 私が考えたやつのほうが良いよ!」


「アッハッハ、やっぱりまとまらないねえ。……ここはやはり私の案を通すべきでは」


「「それは無いです」」


 喧々諤々の意見を交わすリヒトとユカとリズさん。

 その話題はギルド設立に必要不可欠であり超重要な要素……ギルドの名前についてである。

 いや、すっかり忘れてたというか、それを考えるという方向に頭が向かって行かなかった。

 実際ギルドを作る際には必須であるため、それを決めるために議論しているというわけだ。


 と言っても、特に名前にこだわりの無い俺・ハキル・タイガはほとんど口を出すことはなく、リヒト・ユカ・リズさんが話しているだけである。

 しかしまあ、これが決まらない決まらない。

 クセもこだわりも我も強い三人が自分のが一番良いと信じ切って主張してるのだからそれも当然と言えば当然である。

 その三人が最初に提案したギルド名を一つずつ見ていこう。


 一つ目はリヒト提案の『シャイニング・ヒーローズ』。

 語感や意味としては悪くないが、シャイニング要素がリヒトくらいしかない上にヒーローと呼ぶにはあまりにも難しい人間が約一名いるということでボツ。


 二つ目はユカ提案の『六光騎士団』。

 騎士と呼べるメンバーがリヒトと辛うじてハキルくらいであったこと、六光という名前をつけるとその後にメンバーを追加した時にややこしいということでボツ。


 三つ目はリズさん提案の『ディープカラー』。

 濃い個性をしたメンバーが大半であることが由来らしいが、その意図が伝わりにくいこと、リヒトやユカなど深い色がイメージにないメンバーがいるということでボツ。


 初期案は様々な理由で全てボツ。

 その後も全員(主に三人)で候補を考えていたのだが、ピンとくる名前がどうにも浮かばない。

 良さそうな名前があっても、既にあるギルドと名前が似ていたりとギルド名会議は難航していた。

 ちなみに、グランギルドのギルド設立届の受付前で話しているとめいわくになるかもしれないので、今は第三層の街外れの喫茶店『エデンの園』で話し合いをしている。


「もうなんでも良くねえか?」


「そんなわけがないだろう! 一回決めたら変えられないんだぞ! こだわりが無いという理由で考えようともしない君にはわからないかもしれないがな!」


「そうだそうだバーカ!」


「やーいバーカ!」


 適当なことを言おうものなら、三人からの全力の罵倒が飛んでくる。

 約ニ名は語彙力が小学生なのでダメージは無いが、タイガは煽り耐性が意外と低めなので俺が羽交い締めにして抑えてる状況である。

 ていうか、俺のほうがSTR低いから早いとこ決めてもらわないと抑えつけるのにも限界が来る。


「そういえば、リヒトってなんのためにギルドを作りたいの?」


「そりゃ決まってんだろ! 楽しそうだからだよ!」


 俺が必死に腕に力を込めていると、今まで沈黙を保っていたハキルが唐突に問い掛けた。

 それと同時にハキルが拍子抜けしたように脱力する。


「やっぱりそれだけなの?」


「そりゃそうだろ。あー、でも強いて言えば一番になりたい、ってとこかな」


「一番?」


 聞いていたユカが首を傾げる。

 俺達も疑問に思うが、ハキルだけは平然としている。


「ゲームには色んな一番がある。強さは当然、速さに防御力、生産能力や討伐総数、果ては所持金額だって一番を目指せる。だけどな、誰だって掴める一番もあるんだ」


 リヒトが徐ろに立ち上がり、人差し指をビシッと天井に突きつける。


「楽しむことだよ」


 そう言ってリヒトがニヤリと笑う。


「楽しむことなら誰だって一番になれる。誰がなんと言おうが『世界で一番俺が楽しい』、そう思い込めればソイツが一番だ!」


「そんなもんか?」


「そんなもんだよ。ほら、考えてもみろよ。ここはゲーム、想像力で世界だって変えられる場所だ。そんな場所にいるんなら━━誰よりも楽しんだやつが最強なんだぜ!」


 満面の笑みかつ実に楽しげに話すリヒト。

 さっき平然としていたハキルはこれをわかっていたのか、なんとなく察しているだけだったのか。

 そして、それを聞いて……俺の中に一つの案が生まれた。


「それだったらリヒト、こんな名前はどうだ?」


 いくつかの候補案が書いてある紙の隅に頭に浮かんだ名前を書き記す。

 それをリヒトに見せると、軽く目を見開いてから楽しげに笑いだした。

 そんなリヒトからハキルが紙片を皆に見せる。

 楽しげに笑う者、ほうと感心する者、かっこいいと目を輝かせる者、反応はそれぞれだが受け入れてもらえたらしい。


「よっしゃ、これで決まりだ! マスター、ビールモドキをジョッキで六つくれ! あと、ケーキと料理を適当にいくつか頼む!」


 リヒトがマスターに謎のドリンクと料理を注文して祝いの準備が始まる。

 決まったんなら先にグランギルドに書類を提出してからのほうが良いと思うが……まあ、野暮なことは言いっこなしだな。

 せっかくのお祭り気分に水を差すこともない。

 少し経って、俺達が話していた机に料理とドリンクが並べられる。

 ちなみにマスターに聞いてみたところ、ビールモドキとはビールに似せただけのジュースらしい。

 年齢制限で酒を飲めないプレイヤーに酒宴の気分だけでも味わってもらおうと思って作ったとか。


「乾杯の準備だ! 全員ジョッキは持ったな!?」


「持ったわよ!」


「こっちも来たよ!」


「おら、やるぞ!」


「準備は万端だよ!」


「よっしゃ! リヒト、乾杯の口上だ!」


「任せとけ!」


 リヒトが椅子の上に立ち、手に持っていたジョッキを高々と掲げる。


「俺達のギルド、新たなる始まり。これから俺達は『アナザー・ワールド・オンライン』で一番楽しんだやつらという栄光を目指し、それを目指す者達の先頭たる旗印となる!!」


 そして、俺達もそれに倣ってジョッキを掲げ━━


「ギルド『栄光への旗印(グローリー・フラッグ)』!! 結成を祝って━━乾杯ぃ!!!」


『乾杯!!!』


 店の中にジョッキがぶつかり合う澄んだ音が鳴り響いた。

 元は誘われたとはいえ、一人で始まったゲーム。

 それがリヒトとハキルとユカに合流して四人になった。

 奇妙な縁が繋がってリズさんとタイガが加わって六人となった。

 これからも俺が辞めない限り、縁は繋がり、広がっていくのだろう。


 俺のゲーム攻略譚はまだプロローグを終えたばかりである。

終わりません! まだ終わらないよー!

まあ、第一部完って感じではありますがね。

え? あとどれくらいあるのかって?

第一部 アレン始動編

第二部 階層攻略編(多分とんでもなく長い)

第三部 最終章

……多分今で一〇%終わったかどうかってくらいですかね。


それと、明日予定していた二周年記念番外編ですが、こちらの諸事情により間に合わなくなる可能性が出てきました。なので、明日はまた別の番外編を投稿予定です。

二周年記念番外編はできる限り早く投稿しますので、ご容赦を……

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