第六十九話 隠されていたモノ
大分休載の開始が近づいてまいりました。
休載までは頑張りますのでよろしくおねがいします。
リヒトによる特大斬撃が決定打となり、俺達は工場要塞の討伐に成功した。
長かった。実に長かった。
時間で言えば恐らく一時間程度だろうが、それでもどこまでも湧き出るロボット兵という時点で精神的な疲労感がヤバい。
途中でお茶会を挟んだとはいえそれだけ戦えば当然俺達は疲労困憊。
しかし、工場要塞を倒せば俺達の戦いも終了、後は皆で悠々と帰るだけ。
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
「うえぇ!? このヤロッ、今度はどっから湧きやがった!?」
「ヤバい、集中砲火! ああもう、クールタイム間に合わない! ユカ魔法撃てない!?」
「もうMPポーションないよー! 魔法当てにしてるならまず私を守って! 一番死ぬ可能性あるの私だから!」
「いやー、これどうやって動いてるんだろうね? プラントフォートレスから魔力が供給されてたならもう止まってるはずだし、魔力のバッテリーみたいなものがあったとしても、もう止まってもおかしくないと思うんだけど……」
「考察してる場合じゃねえだろうがぁ! 頭と口より身体動かせ!」
なんとこのロボット兵ども、親玉の工場要塞をブチ壊しても止まらないのである。
おまけに工場要塞が指揮を担っていたのか、ある程度の統率が取れていた動きもめちゃくちゃになり、逆に読み辛くなっている。
そのせいで俺達は戦う意味のわからない延長戦に突入することになった。
広域殲滅能力も継戦能力もない俺は速度で撹乱してチマチマ削るだけなのでわりと余裕があるが、最も安定して高火力を出せるリヒトと殲滅能力最大のユカはかなり大変そうだ。
そんなわけで、俺は別行動でロボット兵を少しずつ倒していたわけだが……
「……なんだこりゃ?」
俺は奇妙なものを見つけた。
それは扉。
見るからに重厚で頑丈そうな金属製の扉である。
それが工場要塞の真裏に隠すように配置してあった。
……まず間違いなく何かしら隠してあるだろうな。
必死に隠そうとした結果、逆に怪しすぎてわかりやすくなったパターンだろこれ。
「……とりあえず入ってみるか」
迷ったらまず行動、考えても情報も時間もない現状で答えなんて出るわけないんだから、動いたほうが遥かにプラスだ。
よし、じゃあまずは扉を開けて……開け、開けて……
「ぬおぉ……!!」
ダメだ、重すぎる。
俺もSTRにはそれなりに振ってるので非力ではないと思うが、それでもびくともしない。
恐らくこの遺跡の入口にあったクソデカ金属扉より厚いし重いのだろう。
見た目から周りの壁と同じ材質だから破壊するのも難しそうだ。
ならば、全力で突破するのみ。
〈風纒〉を発動させてSTRとAGIを強化。
さらに各種加速スキルを全て重ね掛けしてAGIを推進力に変換する。
リヒトやユカの支援がないからさっきよりは劣るが、それでもかなりの爆発力を誇るのが俺のビルドだ。
やってやろうじゃねえか、金属扉なんざ押し通ってやるよ!
「うおぉぉぉお!!!」
俺は軽く後退してから助走をつけて壁を叩くように押す。
足の先から頭の頂点まで全ての力を振り絞る。
それを数秒も続けていると、僅かに扉が動いたような気がした。
「おっ……ら゛ぁあ!!!」
それを見逃さず、扉に身体を叩きつける。
先程よりも強い衝撃に扉はさらに押されて、狭い隙間が開いた。
そこに手を差し込んで勢いに任せてさらに押し込む。
なんとかこじ開けた人一人分ほどの隙間に身体を無理矢理ねじ込み、強引に扉の先に滑り込んだ。
「あっぶねぇ……! 死ぬかと思った……」
えーと、身体は無事か。
扉に手足でも挟まってたらぶっ千切る覚悟はしてたんだが……ああ、それだとゲームシステム的に死ぬのか。
リアルでも四肢の一、二本くらいなら切り落としても生きてるもんなのに。
「こういう時だと案外不便に感じるもんだな……」
俺は立ち上がり、部屋の中を見回した。
そこに広がるのは壁一面の棚とそこに収められた本やらファイルやら書類の束やらの紙類。
そしていくつかの作業机とその上に置かれた見たこともない機械類らしいもの。
ただの鉄の箱にしか見えないが、作業机に置いてあるということはパソコンみたいな事務処理用だと思うが……どうやって動かすのかさえもわからない。
下手に操作して壊したり動かなくしたりするとマズいからとりあえず放置するか。
となると、後見れるのは壁の棚の書類だが……
「どんな量だよこれ……」
この部屋の大きさが目算で一〇メートル立方程度、その部屋の壁のうち扉のない三面が全て書類で満たされた棚で埋まってる。
最早ちょっとした図書館だ。
俺としては流し見る程度に留める気だが、ガチの考察勢とかがここから情報を探すとしたらとんでもない労力になるだろうな……
「まあ、俺の知ったことじゃねえな」
俺は近くの棚から適当に一冊のファイルを引き出してパラパラと捲る。
『始原歴二六十九年竜季第七週四日 戦闘用ゴーレム下位機体二〇〇体の生産』、『始原歴二六十九年竜季第八週二日 整備用ゴーレム下位機体一〇〇体の生産』……なるほど、あの工場要塞の記録か。
始原歴だの竜季だの初耳の言葉が出てきたが、これは暦だろうか。
「というか、この量の手書き文書って……」
機械文明が発達していたなら、それこそパソコンか何かに打ち込めば良かっただろうに……いや、よく見ればこれ全部文字の筆跡同じか?
もしかして、これって誰かの個人的な記録だったりするのか? この量を?
馬鹿げている……とは言えないか。
現にこの文書が無かったらパソコンをいじれない俺は何も見ることができなかったわけだし。
……まさか、それを予期して紙媒体の記録を遺していたとか……
「流石にないか」
そんなことしてたら、そいつは預言者か未来予知能力者かって話だ。
まあ、ゲームの中の世界だから無いとは言い切れないのが怖くはあるが……
その後も文書を読み進めていくと、いくつか奇妙な点を見つけた。
一つ目は年代。
ご丁寧に始原歴という西暦のようなものが全てに書いてあるため年代の経過を見ることができるのだが、俺が見た中で最も古いものと最も新しいもので百年以上の開きがある。
それら全てが同じ筆跡で書かれていることも相まって何やら薄ら寒いものを感じる。
二つ目は最後が唐突にプツリと途切れていること。
見た中で最後の記録は始原歴二六七四年亀季第九週五日。
それが棚の途中に配置され、それ以降は白紙のファイルが棚の最後まで続いている。
まるで“何かの記録の途中から最後までを切り取った”かのように。
どちらも奇妙……というよりオカルトチックな感じだ。
特に二つ目に関してはする意味もわからない。
誰が何のためにやったのか、それがどうにも考えつかない。
「ん? なんか触れたような……」
棚の端のファイルに触れた時に妙な違和感を覚えた。
ファイルの表紙を撫でてみると、角に僅かな膨らみがあるのがわかった。
カバーとファイルの本体の間に薄い何かが挟まってるようだ。
カバーを切り開き、中に挟まっていたものを取り出すと、
「これは……紙、だな」
手のひらより少々大きいくらいのサイズの紙片が四つ折りになって入っていた。
それを開いてみれば、書いてあったのはたった二行の言葉。
『戦いに備えろ
奴らが動き出す前に』
「……なんだよ、これ」
戦い? 奴ら? 一体これを書いたやつは何が言いたい? 何を言っている?
わからない。何も、わからない。
考察するにしても情報が足りなさすぎる。
「いや、どれだけ悩んでも無意味だろ……」
そもそも前提となる何かが足りてないんだ、考えても意味がないのはわかってる。
これは頭の片隅にでも放っておこう。
どうにもならないことはどうにかなることを期待して先に進むのが一番だ。
さて、そろそろアイツらと合流するか。
俺だけサボってたなんて知られたらぶっ飛ばされちまう……
ガシッ
「……ん?」
はて、何やら肩を掴まれたような感触がしたんだが……
「探したよレンくん」
振り返ってみると、そこには底冷えするような威圧感を漂わせながら俺の肩を掴むリズさんの姿があった。
「あー……どうも?」
「どうも。さて、早速だが本題に入ろうか」
そう言うと、リズさんは俺の身体を正面に向かせ、肩に触れていた手に力を込める。
「私達が必死になって戦っていたときに、こんなところで一人のんびりと時間を潰していたことについて、何か弁明はあるかな?」
ヤバい、これはかなりマズい状況だぞ。
なんとか上手い言い訳は……ダメだ、なんにも思いつかねえ。
そもそも俺は口が上手いほうでもないからなあ。
仕方ない、ここは元々そんなにないプライドをなげうって土下座をするしか……
「まあ、そんなことは言ってるけれど、私は別に気にしてないんだよ」
「へ?」
「こんなところにこんなにも面白そうな場所があったんだ。私としてはここを見つけてくれたことのほうを称賛したいね」
おお、これは風向きが良い方に向いてるぞ。
これは俺の命はまず間違いなく助かるだろう。
「だったら……」
「うん、私は咎める気は無いよ。だから━━」
リズさんはニッコリと笑いながらとある方向……俺が入ってきた扉のほうを指し━━
「━━命乞いなら彼らにしなよ?」
━━そこには般若の形相を浮かべたハキルとタイガがいた。
傍らにはリヒトとユカもいるが、怒っているようにはみえない。
だが、リヒトはガチギレの二人を見て顔を引きつらせているし、ユカは俺のほうをじっと見て合掌している。
……ふむ、なるほど。
「まずは土下座からだな」
今回出した暦については今後整理して出します。




