表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世でも一緒に  作者: 霜月
番外編
60/63

極上の華は地雷の上で咲き誇る

小説の整理をしていて。

ああ、そう言えば、この話とかはR18じゃないからこっちに載っけてもいいのか!と思ったので、今更だけど載せておきます。

明後日まで。夜8時に1話ずつ。合計3話です。


→初夜編などの他の番外編のお話は、アルファポリスさん等のR18可サイトに載っけております。

【Side オスカー】




「……あ。しまった」


 いつもの騎士団の団長用執務室。

 国に提出する報告書の確認をアレクとしていた時、アレクが不意にそう呟いた。


「ん? どうかしたか?」


「……これに付ける予定の資料を屋敷に忘れてきた……」


「なんだ? 珍しいな。……うーん、提出は今日中じゃなくてもいいんだろ? 明日にするか? って、明日お前休みか」


「……ああ」


 アレクはそう答えると、ポケットから時計を取り出し時間を確認して1つタメ息をつき、薬指の指輪にキスをしてからポケットに時計をしまった。


(……アレ、もう無意識なんだろうな)


 アレクの結婚してから始まった癖を見てそう思い、すこし苦笑してしまう。


「……仕方ない。まだ昼前だし、今から手紙を出して届けさせれば午後には提出できるだろ」


 そして、アレクがそう言って手紙を書きだしたので。


「じゃ、ここまでは確認したし、俺は訓練場行ってくるかな」


 俺はアレクにそう告げて、「ああ、わかった」と言うアレクの声を背に執務室を後にした。







 あの後は。

 先に食堂へと向かい早めの昼食を食べ、1度自分の部屋へと戻り、少し自分の書類仕事を片付けて。腹が軽くなったところで、訓練着に着替えて訓練場へと向かった。


 部下たちを相手に手合わせや指導をし、そして午後。


(……そういえば……資料は届いたかな?)


 シャワーを軽く浴びて、頭をタオルで拭きつつ訓練場から執務室がある隊舎へと向かう途中、ふと、午前中のアレクとのやり取りを思い出した。


 午後には届いて提出できるだろうと言っていたが。


(絶対明日には仕事持ち越したくなかったんだろうな……)


 アレクの癖を思い出し、思わず苦笑する。



 ウチの団長殿が、めちゃくちゃ可愛いと噂されていたシュヴァリエ侯爵家のお姫さんと結婚してから数ヶ月が経った。


 無愛想で無口で女嫌いとまで噂されていて、後から知った事だが、俺との仲まで噂されていたらしいアイツが、婚約をしたと聞かされた時はそれはそれは驚いたものだったが。婚約した後の様子にも驚かされたものだった。


 それまでは何かから逃げるように必死な様子で仕事と鍛練をしていて、団長に就いてからというもの、余計にその雰囲気は厳しいものとなり、その桁違いの強さも相まって周りからは尊敬と畏怖感を抱かれていたヤツだったのに、婚約をしてからはその雰囲気はガラリと変わった。


 仕事中は相変わらず鬼のようだったが、休憩中などのふとした瞬間の雰囲気が明らかに柔らかいものとなり、ニヒルな笑顔しか浮かべなかった口元は、ふわりと温かい笑顔も浮かべるようになった。


 そして結婚した今では、何かを思い出しているのだろう、男の俺でもドキリとしてしまうような甘い顔をして指輪にキスをするという癖が追加された。


 ……まぁ、何を思い出しているのかなど明らかなのだが。


 式を挙げた日の屋敷でのパーティーで改めて紹介されたが、確かにあれでは仕方がないと思う。


 噂されるだけあって見た目が可愛いのはもちろん、何というか、内側から滲み出る美しさ……いや、魅力とでも言おうか。凛とした雰囲気を纏いつつも、アレクに触れられた瞬間などに見せる花が綻んだような笑顔は、目が離せないほどの愛らしさをハタから見ていただけでも感じたものだった。


 あれを間近で、しかも自分に向けられたなら、心臓を撃ち抜かれ虜にされてしまうだろう。思い出しただけでも、あれほど甘い顔になってしまうのも仕方がないのかもしれない。


(くっそー。羨ましい)


 俺だって、まぁ、そこそこの見た目をしているとは思うし、特定の相手がまだいないだけで女性経験がない訳でもない。むしろ夜会に出ればそれなりに秋波を送られて、一夜限りの関係を持ったこともある。


 だからこそ分かるのだ。

 あの女性が極上の華であることを。


 確かに色は地味だが、そんなことなど些細な事でしかなく。

 見た目の愛らしさと、所作の美しさ、ふとした仕草の男心を大いにくすぐる可愛らしさ。

 あれが自分のモノとなったら、どれだけ自分の男としての部分が満たされるだろうかと思う。


 話を聞く限り、他の男に触らせる隙すら与えず掻っ攫い、そのまま手中に収めたアレクのその嗅覚と手腕は、もはや凄いとしか言いようがなく。


 あんな女性が自分の妻として自分の帰りを待っているならば、あれだけの量の仕事をこなす気力など無限に湧くのかもしれない。あんな女性を護る為ならば、あれだけの強さを身に付けてもおかしくないのかもしれないと、ただただ思う。


 もちろん。

 別にマリアンヌ嬢が欲しい訳ではない。

 あの人はアレクのモノだと理解している。


 でも、自分も男の一人として、あんな女性を妻にして、毎夜腕の中で鳴かすことができたならと、そう考えて羨む気持ちが止められないのだ。


(……俺もそろそろ本気で結婚考えるかなぁ……)


 自分だって、思い出しただけで顔がニヤけてしまうような相手が欲しい。


「ハァー……「あ! 副長!!!」


 そう思いながら、大きなタメ息を吐きつつ隊舎へ入る扉をくぐった時、若い隊員から声を掛けられた。


「おー? なんか慌ててんな。どうした?」


「あの、今! ガルシア大公夫人がいらっしゃってて! 書類を! あの、というか、副長! 団長の奥さんってあんな美人だったんですか?!」


「は?」


「オレ初めて見たんですけど、なんですかあの笑顔! あれはヤバい!」


「ちょ、待て待て。落ち着け。えーっと? アレクの奥さんが? 来てる?」


「はい! 書類を届けるようにと団長からの手紙が来たと言っておられて! ああ、そうだ! オレ、団長呼びに行く途中だったんだった!!」


(……なるほど、午前中言っていた資料か。……それにしても、夫人自ら……?)


「わかった。とりあえず夫人の対応は俺がするから、お前はアレクを呼んでこい。……応接室には案内してるよな?」


「もちろんです!」


 それなら良いと、顔を赤くしてアワアワしている隊員を送り出し、俺は応接室へと足を向けた。







 応接室の扉をノックし中へ入ると、そこではシンプルな服装をした夫人がソファに座り、その後ろに若いメイドが1人仕えていた。


「ああ、すみません、夫人。お久しぶりです」


「まぁ、オスカー様! お久しぶりですわ。式以来かしら? お元気そうで良かった」


「はい。夫人も。……えっと、あの、今アレクは隊員が呼びに行っていて……」


「ええ。私が急に来たものだから、驚かせてしまったみたい。すごく慌ててらして……すこし申し訳ないわ」


 申し訳なさそうに眉を寄せて微笑むその表情も可愛らしく、あの隊員はこの顔に当てられたんだなと思った。


「あー、いや、こちらこそ申し訳ない。あいつ、飲み物も出さずに行ってしまったんですね。……用意します」


「いえ、いいのです。オスカー様もお忙しいでしょう? 私は主人に書類を渡したらすぐに帰りますから」


「そう言う訳にもいきませんよ。……ちょっとお待ち下さい」


 そう言って廊下に顔を出せば、ちょうど紅茶のセットをトレイに乗せて持ってくる別の隊員が見えた。


「ああ、ありがとう。あとは俺がするから、下がっていいぞ」


 扉の所で受け取りそう告れば、明らかに残念そうな顔をされて苦笑する。


(まったく、どいつもこいつも……)


 騎士団にはもちろん女性騎士もいるし、女性の出入りがない訳でもないが、仕事の性質上、どうしても男所帯となってしまう。

 年齢が高いヤツや、貴族出身のヤツは家庭を持っていたりするが、歳も若く隊の宿舎で寝泊りしているヤツなんかは特に女性との出会いに飢えているのだ。


 そこに、ポッと、これだけ美しい女性が現れたなら……。それが上司の奥さんだと分かっていても、ソワソワと浮き足立ってしまうものなのかもしれない。


(それにしても……なんだ? この色気……)


 紅茶を出せばフワリとした笑顔でお礼を言い、そしてその紅茶を飲む仕草は完璧な貴族女性そのもので、一分の隙もない筈なのに。


 極上の女が極上の男に芯から愛されたらこんな風になるのかと感心してしまうほどの、匂い立つ色香。


(アレクがココに連れて来たがらない訳だよ……)


「……今日はまた、何故夫人自ら?」


 俺は、俺こそ変な気を起こしてしまう前にと口を開いた。


「え? あ、ええ。主人からの手紙が届いたところに丁度居合わせまして。ふふっ。屋敷の者には少し止められてしまったんですけど、我儘を言ってしまったんです」


「我儘……ですか」


「ええ。1度来てみたかったんですの。主人がどのような所で仕事をしているのか見てみたかったんですわ」


「なるほど……。それにしても、護衛も付けずとは少々……」


「ふふふっ。オスカー様。ウチのメイドも御者も強いんですのよ。だから大丈夫ですわ」


(まぁ、確かに。かなり腕が立ちそうな雰囲気を持っているか……)


 静かに側に仕えているメイドに少し視線を移せば、小さく頭を下げられた。


「……目立たないように服装もシンプルな物にしましたし。それに、ここは騎士団でしょう? 王都で最も安全な場所ではなくて?」


「そう……ですが……」


 貴女に限ってはそうではないかもしれません、とは言えずに視線を逸らせば、メイドも少し呆れた顔をしているのが見えた。


「ふふっ。それにしても、当然ですが騎士様がいっぱいいらっしゃって。皆様凛々しくて、カッコイイですわね。皆様が私たちの安全を守って下さってるのだと思うと、尊敬しますわ」


 本当に楽しそうに、嬉しそうに笑いながら話すその姿は、人の妻だと分かっていてもクるものがあって。

 この人を娶ることができたアレクを心底羨ましいと思った。


 …コンコンッ!


「は……「マリ!!!」


 不意に強く扉がノックされ返事をしようとしたら、少し慌てた様子でアレクが入ってきた。


「何故君が?!ジルはどうしたんだ?!」


「あの? アレク?!」


「オスカーに何もされていない?! 他のヤツには?!」


「ちょっと、アレク! オスカー様に失礼よ。紅茶を頂いただけだわ」


「いや、コイツは以前から君みたいなカノジョが欲しいと言っていてね。……危ないんだ」


「……お前、本当に俺に対して失礼だろ」


「なんだオスカー、本当の事ではないか。……言っておくが、マリは駄目だぞ。私のだからな」


 夫人を抱き締めながら、アレクが俺を威嚇する。


(本当に……女嫌いって噂されていたヤツとは思えん程の溺愛ぶりだな)


「……ねぇ、アレク」


 呆れながらそう思っていると、夫人がアレクに声をかけた。


「本当に大丈夫よ? 何をそんなに心配するの? オスカー様にも心配されたけれど。……ここは騎士団でしょう? 安全な場所じゃない。それとも騎士様はみんな貴方たちの様に心配性なのかしら?」


「……君は……本当に……」


「……?? あ、そうだわ。忘れ物を届けにきたのよ? ふふっ。珍しいわね」


「ああ、ありがとう。それにしても、何故わざわざ君が来たんだ? ……ジルに止められなかったかい?」


「……止められたわ。……ジルにも、サラにも。でも、だって。……アレクのお仕事姿を見たかったんだもの。絶対カッコイイと思って。……そんなに、自分の夫のカッコイイ仕事姿を見てみたいって思うのは駄目なのかしら?」


(……こ、れは……!)


 ちょっと照れた風に頬と耳をほんのり染めて、ちょっと拗ねた風に眉を寄せて、ちょっと悲しそうに目を潤ませて。自分の腕の中で、上目遣いにあんな可愛い事を言われたら。


(……襲いたくてたまらんだろうな)


 流れ弾でもヤバいのに。


 夫人を抱き締めたまま何かに耐えるように固まったままのアレクを見て、そう思った。


「……アレク?」


「……ありが、とう。君のお陰で書類も今日中に提出できそうだ。他の仕事も早く終わらせて、早く帰るよ。ああ、明日は休みを取っているから、そのつもりで。……今夜は…………」


 最後の方は聞こえなかったが、夫人の顔が真っ赤に染まったことから、なんとなく推測されてしまった。


(……チッ、本当に羨まけしからんな)


「さて、出口まで送ろう。……オスカーもすまないな。マリは私が連れて行くから仕事に戻ってくれ」


「え。アレク、少しだけ見るのも……ダメ?」


「………ダメだ。危なすぎる。……それに君は早く帰ってゆっくりしたほうがいいんじゃないか? ……夜に備えて、な」


 アレクがそう言いながら夫人の腰に手を添えて扉へと向かい、扉を開けたその瞬間。


「「「うわぁぁ!」」」

「やべっ!!! 逃げろ!!」

「うわ……! マジ可愛い……!!!」

「ちょ、お前逃げるぞって! あ、だ、団長!! 違うんですーー!!」


 蜘蛛の子を散らしたように、たくさんの隊員がワタワタしながら逃げて行くのが扉の向こうに見えた。


(………何してんだよアイツら……)


 それを見てそう思ったのと同時に。


「………何をしているんだアイツらは……」


 地の底から響くようなアレクの低い声が聞こえて。


「お、おい! ……まぁまぁ、落ち着け!」


 俺は慌ててアレクの前に出て、宥める。


「これだけ美しい女性だぞ?! アイツらが見たいと思うのも仕方ないんじゃないか? 俺だってもうちょっと話をしたかったのに! お前が来るから!」


「ほぉ……?」


(やべっ!!)


「……そうだったのか。それはすまない事をしたな。……お詫びと言ってはなんだが、妻の替わりに夫である私が相手をしようか」


「アレク! ちょっ、今のは違う!」


「最近机仕事ばかりでな、体が鈍りそうだと思っていたところだよ。今日はもう書類を出すだけだし。……オスカー。私はマリを先に連れて行くから、お前は訓練場へと行っておいてくれ。もちろん、さっきのヤツらも……な」


 しまった、失言だった! と思っても後の祭で。

 結婚してからしばらく見ていなかったアレクの黒い笑顔を見て、救いを求めるようにメイドに目線を向ければ速攻で目を逸らされ、夫人に目線を移せばキョトリとした顔で見つめ返された。


 その顔に、つい思わず状況も忘れて一瞬見惚れてしまって。


「……オスカー」と俺の名を呼ぶアレクの声色に、俺は今度こそ自分が地雷を踏み抜いたのだと自覚したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] また拝読できるなんて本当に嬉しいです。 しかも第三者視点とか嬉しすぎます。 このお二人が大好きでまたこのお二人の事を読めるなんて。 溺愛体格差スパダリが大好きな私の好きの全てが詰まっている…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ