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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
53/63

寂しかったと言える喜び



 アレク様がアナトールへと向かわれた、その後。


 どうやったのか、最初の一週間程という速さでアナトールの城が落ちたと国内に知らせが走り、その後、事後処理で時間がかかるが春までには必ず帰るとアレク様から手紙が届いた。


 私の方は、最初の数日間で首筋の痕も消えてしまい寂しくなったが、アレク様も頑張っているのだからとなんとか耐えつつ過ごしていた。


 母はよく遊びに来てくれたが、ユーゴはいい勉強になるからと父に呼び出されて領地に行ったため、結局屋敷には来ていない。


 ちなみに、アレク様と約束していた編み物だが。

 前世の記憶なども引っ張り出して悩んだ結果、これなら仕事中でも使ってもらえるのではないだろうかと、手袋とネックウォーマーを編み、使い方を書いた手紙とともに領地へと送った。

 すると「ありがとう、大事に使う」とのアレク様からの手紙と、「何あれ?! 羨ましい! 私の分は?!」という父からの手紙が届いたので、今度は母と一緒に父とユーゴの分を編むことになったのだった。


 母と話をしながら編み物をしていればサラとソフィが興味を持ち、今の時期にスカート姿で仕事をするのは辛いだろうからと、彼女たちにはレッグウォーマーを作って渡せばすごく喜んでくれた。


「ありがとうございます、マリアンヌ様! これ、とっても温かくていいですね!」


 とサラが喜びながら言うので。


「首とか、手首、足首とかを温めるといいのよ。あとは、腹巻きも簡単に作れるからオススメね。

 女性は特に、月のモノが来た時にお腹とか腰を温めると少し楽になるから、ポケットを付けて布に包んだ温石(おんじゃく)を入れてもいいと思うわ」


 と答えた翌日には屋敷のメイドたちの間で編み物ブームが起きていて、私に編み方を聞いてくるメイドも増えた。


 まぁ、そうなると、屋敷の男性陣もソワソワしてくるもので。

 ジルも例に漏れずソワソワしていたので声をかけると、実は冷え性なのだと告白された。


「ふふふ。ジルにも日頃お世話になっているから、はい、コレ。夜寝る時に使ってみてね」


 と、締め付けが緩くなるように編んだレッグウォーマーを渡せば、翌朝涙ながらに感謝され、それを見かけたメイドたちの間で「そうか! 寝る時つけてもいいのか! それなら自分用だけじゃなくて彼氏(夫)にプレゼントもできる!」と、更にブームが加速した。


 そんなこんなで、アレク様の不在の間は。

 その事を寂しく思いつつも、思っていた以上に屋敷の人たちと仲良く楽しく過ごすことができ、みんなのおかげで温かい気持ちで過ごすことができた。


 そうしてアレク様がアナトールに行かれてから数ヶ月が経ち、冬が終わろうとしている頃。


 アレク様がお戻りになるとの知らせが屋敷に届いた。




 *




「マリアンヌ様! 旦那様がお帰りになられましたよ!」


 ある日の夜。

 ソワソワする心を落ち着けるように私室で本を読んでいると、サラが部屋に入ってきてそう言った。


「わかったわ! すぐに行きます!」


 サラに手伝ってもらい手早く身支度を整えてから、私たちは玄関ホールへと向かった。




 *




 逸る心を抑えつつ玄関ホールへと続く階段まで来ると、階下にジルと話をするアレク様の姿が見えて。


 ダメだと分かっていてももう堪えきれなくて。


「アレク様!!」


 次の瞬間には、手摺りから身を乗り出すようにして名前を呼んでいた。


 アレク様はゆっくりと振り仰いで私の存在を認めると、ジルの横を通って階段の下まで来てくれ、一気に階段を駆け上がる。


 そこから先はまるでスローモーションのようで。


 早くその胸に飛び込みたいのに、足にドレスが絡みついてなかなか進まない。

 早く早くと急く心を落ち着けようとしても、落ち着くばかりか、もどかしさばかりが募って、ついには涙も溢れ出た。


 涙で前も見えなくて、足ももつれて転びそうになった時、アレク様の胸で抱き留められ、そのままキュウゥと抱き上げられ……


「ああ! アレク様!! ……ん?! アレク様?!」


「旦那様!??」


 たかと思ったらそのままズンズンとアレク様が歩き出し、驚いて顔を上げればこれまた驚いた様子のサラと目が合って。

 その次の瞬間には、デスヨネー。と言いたげな表情で手を振られた。


「アレク様?! あの?!」


 慌ててアレク様に声をかけるが押し黙ったまま歩き続けられ、体を離せばバランスを崩してしまいそうな勢いに、アレク様の顔を覗き込む事もできない。


(えっと?! この方向は……?!)


 そう思った時にはとある部屋に入っていて、目の前で扉がパタリと閉まった。


(ここ、アレク様の私室?)


 入ってもらっても全然構わないとは言われていたのだが、最初に案内されて以降今まで機会がなく、書斎には入ったことはあっても私室には入った事はなかった。


 ……私室ということはもちろんベッドがある訳で。


 この部屋がアレク様の私室だと気付いた時にはベッドの上に押し倒されていた。



「……アレク様……?」



 窓から差し込む月明かりに照らされた薄暗い部屋で、アレク様が手をベッドにつけた体勢のまま私をジッと見下ろしていて。

 ずっと無言なアレク様を不思議に思って名前を呼び、伸ばした右手がその頬に触れた、その刹那。


 その手を取られて……キスが始まった。


 軽く一度唇を喰まれれば、私自身ずっと待ちわびていたアレク様の唇の感触に全身が震えて。

 その先を急かすように私から口を開ければ、応えるようにアレク様の舌が入ってきた。


「……んっ。ん、ん。……ぁ……んんぅ」


 アレク様から求められるまま舌を差し出し、舌を差し出されれば応じるように舐め絡めた。

 お互いの舌が絡み合うのと同時に掴まれていた手にもアレク様の指が絡まり、握り合って、それでも足りないと空いていた手でアレク様の背中をキュッと握れば、ゆっくりと体重がかけられる。


 そんな風に互いの存在を確かめるように求め合い応じ合えば、全身にアレク様の存在を感じて、恋しかった気持ちが一気に満たされてゆく気がした。


「……はっ……ッ、マリー……会いたかった……!」


 そう零れた言葉と同時に離れた唇は、瞼へと移り、熱くなった私の耳を喰んだ後、下へと降りていって。


「あ……あぁ……っ」


 首筋を舐められ、存在を刻むように強く吸われれば、喜びが声となって溢れ出た。


 そうしていくつかその痕が付けられた後、アレク様がすこし上体を起こすと、私の顔を覗き込んできた。


「……寂しかった?」


 絡ませた手の親指で私の手を撫ぜながらそう言うアレク様の顔は、申し訳なさそうに眉がちょっと寄っていて。

 反射的に首を横に振りそうになったが、ふと、母が言っていた言葉を思い出した。


 ――――「そういう気持ちは素直に言ったほうが良いものよ。……大丈夫。あの方ならきっと受け止めてくださるわ。」――――


 万里だったら素直に言えていた、たった1つのその言葉を、私は何故今まで言えなかったのだろうか。


(アレク様なら受け止めてくださると分かっていた筈なのに)


 アレク様の頬に手を添えながらそう思えば、自然と言葉が零れ出た。


「……寂しかったです……本当は。みんないるのに、貴方だけがいなくて……心が千切れそうなほど寂しかっ……んんっ」


「……他には?」


 そう吐露すれば謝るようにキスをされ、さらに言葉の先を促される。


「……お会いしたかった……ふ、ぅっ、側にいて、ん、貴方に抱き締めてほしかった」


「……キスも?」


「はい、ん、キスだってしてほしか……んんっ。んっ、ん」


「……ッ、……すまない、マリー。悪かったとは思っているんだが…………それ以上に……嬉しくてどうにかなりそうだ」


 アレク様の破顔した甘く蕩けそうなその表情が、ただただ嬉しくて。


(私がアレク様を求める気持ちを、受け止めてくださるだけでなく、嬉しいとさえ思ってくださるのね……)


 そう思えば、求める気持ちはもう止められなくて。


「お願い、アレク様。……もっとキスして」


「……ああ」


 そう言ってねだれば優しく応えてくれるアレク様の存在が、ただただ嬉しかった。


 何度も優しく唇を喰まれ、舐められ、我慢出来なくなって少し舌を差し出せば軽く吸われた。

 そのまま誘い込めば舌を絡め取られて舐められて、ちゅくちゅくと脳に響く水音に今更ながら恥ずかしくなった。


 それでも止められないキスの途中、絡めていた指が離されアレク様の左手が私の体をなぞれば、ゾクゾクと体の芯が震えて。

 上顎を舌でくすぐられれば、くすぐったさだけではない痺れるような感覚に、自分でも分かるほどの甘い声が漏れ出た。


「……ココ……?」


 一度唇を離されそう尋ねられたが、私の頬にまで戻ってきていたアレク様の手の親指が頬を撫ぜる感触に、羞恥心が煽られ言葉が出ない。


「確かめようか……」


 そう言うアレク様のグレーの瞳が愉悦を含んで煌めいて、私の羞恥心が限界に達して目線を逸らした。


 その、瞬間。


『キュルルルル……』と、……私のお腹が、鳴った。


 …………。


(ちょ……っと……、信じられない……!!!)


 あまりの恥ずかしさに頭がパニックになり、もうどうして良いのかも分からずに固まっていると、「ふはっ!」とアレク様が笑う声がして。

 思わず目線を戻せば、手の甲で口を押さえながらもクツクツと笑うアレク様と目が合った。


「ふっ、くくく……ん”ん”っ。……あー、と、すまない。……夕食がまだだったね」


 アレク様はそう言って私の頭を撫でると、自身の上体を起こし、私も起こしてくれた。


「……すみません……」


 穴があったら入りたい気分とはこのことかと思いながら俯いて声を絞り出せば、もう一度優しく頭を撫でられ「マリー」と名前を呼ばれた。


 その声に顔を上げればニヤリと笑うアレク様がいて。


「……1つ知れたからいいよ」と囁かれたのだった。

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