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「万里、ハタチのお誕生日おめでとー!!」
「ありがとー!!!」
夏休みも終わり、すっかり秋真っ只中な今日この頃。
私は20才の誕生日を迎えた。
毎年この日は知佳と一緒に過ごすのが恒例となっていて、今日も知佳の家でケーキを食べようと2人で予定を合わせていた。
「えーと、私の5才の誕生日からだから、15……16回目か!」
「短いような、長いような……」
「毎年ありがとうございます」
「いいってことよ。あ、それより見てよ!」
知佳がそう言うので手元を覗いてみると、「じゃじゃーん!」と言いながら、コンビニの袋からビールの缶を2本取り出した。
「やっと万里とお酒が飲める! 楽しみにしてたんだよー!」
知佳はすでに5月の頭、つまりゴールデンウィーク中に誕生日を迎えていて、アルコールも経験済だ。
「長いこと待たせて悪いね」
「ホントだよー! なんてね。いいっていいって。とりあえず乾杯しよ! はいコレ万里の!」
ビールの缶を渡されたので、とりあえずプシュリと開ける。
「じゃ、万里のアルコールデビューを祝しまして!!」
「「カンパーイ!!!」」
「!!! ……にが~!!」
乾杯の勢いに任せてグビリと飲んだが、初めて飲んだビールの味に思わず顔を顰めた。
「あはは! やっぱり? それが大人の味だよ、万里君」
「なによそれ~。あーでもホントに苦い。よく飲めるね」
「私も最初は苦くて飲めなかったよ。だからまぁ、想定の範囲内の反応だわ。だからしょうがない、知佳ちゃん特製シャンディ・ガフ作ってあげちゃう」
知佳はそう言うと、紙コップとペットボトルのジンジャー・エールを袋から取り出した。
「……シャンディ・ガフ?」
「そそ。ジンジャー・エールで割るだけなんだけど、結構飲みやすくなるのよぅ。……はい!」
そう言って紙コップを渡されたので中を見ると、琥珀色の液体がシュワシュワと音をたてていて、鼻を近付けるとジンジャー・エールの甘い香りがした。
ビールの味を思い出しながら、恐る恐る口を付ける。
「……ん?! 美味しい! 私これ好きかも!!」
「でしょー! 万里なら絶対気に入ると思ってた! さすが私だわ!」
「ホント! 知佳様々だね! あはは!」
「よーし、じゃ、今日はカロリーなんて気にしないでケーキ食べよ!!」
「食べよ食べよ!」
私たちはそう言ってお互いにフォークを持ち、ホールのケーキにぶすりと突き刺した。
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「……でね、最近そのチャラ男がよく来るんだよ」
「ふぅーん? もしかして連絡先とか交換は……?」
「最初に言われたけど断ったよ。どうせただの暇人のナンパか、なんかの罰ゲームだろうしね」
ほどよくアルコールも回ってきた頃に女2人がする話といえば、まぁ、やはり恋バナで。今は知佳の話を聞いているところだった。
知佳は彼女が通う大学近くのコンビニでバイトをしているのだが、夏休みの中頃に1人のチャラそうな男の人が買い物に来て、レジの時に「一目惚れしたから付き合って下さい!」と言われたんだそうだ。
もちろんキッパリ断ったそうだが、それからもちょくちょく来ては告白してくるらしい。
ちなみに。
知佳が通う大学と私が通う大学は割と近いところにあるので私もたまに知佳がいるコンビニに買い物に行ったりするのだが、告白の場面には出会していない。
「顔は? カッコイイの?」
「うーん、カッコイイっちゃ、カッコイイかなぁ」
「え、知佳がナンパ人をカッコイイって言うの珍しいね」
「そうかなぁ?」
知佳はショートボブがよく似合うオシャレで可愛い女の子だ。
昔からよくモテて、それこそナンパもよくされるが、本人が面食いでなかなかお付き合いまではいかず、いったとしてもすぐに別れてしまう。
本人は「クール系イケメン彼氏が欲しい!」とよく言っているが、一見ツンとした雰囲気とは裏腹に結構な構いたがり屋な性格をしているので、連絡等がマメなワンコ系の人の方が合うのではないかと私は内心思っている。
それにしても、いつもならチャラ男は論外と言う知佳が、チャラ男のナンパ人をカッコイイと言うなんて。
これは結構な……顔面どストレートなのかもしれない。
「まぁ、私の話はもういいじゃん。ていうか、万里は?」
「ん?」
「最近どうなの? その、研究室の智也先輩とは?」
「どうって……特に……なにも」
先輩の名前をピンポイントで出されて、思わずしどろもどろになってしまう。
「えー? 好きなんでしょー? 告白は? しないの?」
「たしかに、カッコイイなぁとは思うし、ちょっとヤバいなって思ったこともあったけど……まだ出会って3ヶ月も経ってないんだよ? 好きなんて……」
「甘い! 甘いよ万里君! 恋に落ちるのに時間なんて関係ないのだよ?!」
「ナンパ嫌いの知佳に言われたくない~」
「私の事はいーの! カッコイイんでしょ? 真面目で優しいんでしょ? 一緒に居て楽なんでしょ? 何がダメなの?! あ。……もしかして彼女がいるとか?」
「彼女はいないって……別の先輩が……」
この前会った時に涼先輩が聞いてもいないのに教えてくれた。
「え、それ、信用できるの?」
「たぶん、できる。彼女がいる雰囲気全然しないし。それに……」
「それに?」
「先輩、前まで髪長かったんだよ。特に前髪が目にかかってて。でも、私が目のこと褒めてからさ」
「あー、この前聞いた図書館のグレーダイヤ事件ね」
「事件って。まぁ、あれからちょっとしてね、先輩、髪を……」
「もしかして……切ってきたの?」
「……うん」
「あーもーなによー! 確定じゃない?! その先輩絶対万里に気があるってー!!」
「まだ分かんないじゃん! 先輩就活あるし! 私が言ったからですか? なんて聞けないし!」
「聞こう! ついでに告白しよう!」
「やだよ!! 自信ない!!」
「なんでよ! 万里可愛いよ! この知佳ちゃんが保証する! 髪はサラサラだし、色は白いし、化粧してないのにパッチリした目にピンクの唇! 私と違って胸もあってスタイルもいい! 素材が良いから、もうちょっと化粧してオシャレすれば絶対その先輩落ちるって!! ……って言うか、万里! 先輩の前でその顔しちゃダメよ?! 告る前に襲われちゃう!」
「知佳もう何言ってるの?! 酔ってる? 酔ってるのね?!」
「襲われる時はちゃんと合意の上で、ゴムは付けてもらいなね?!」
「ひーーーー! もう知佳黙って!!」
ガチャ……「ちょっと、あんたたち何騒いでんの?」
私たちがキャーキャー言っていると、知佳の母親がドアを開けて顔を覗かせた。
「お母さん! お帰り!」
「おばさま! お帰りなさい!」
「……元気ねぇ。って何そのケーキとお酒……あ! もしかして今日、万里ちゃんの誕生日だった?! しかもハタチ?! やだー! おばさん何も用意してないのよー!」
「あはは、大丈夫ですよー! 知佳が祝ってくれましたし、おばさま忙しいでしょう? お気持ちだけで十分です」
「やーん、万里ちゃん相変わらずイイ子ー! やっぱりウチの子にならないー?」
ガバリとハグをされ、そんな事を言われる。
「あははは! ありがとう、おばさま! えーっと、じゃあ、大学卒業したら知佳と結婚しよっかなー」
「ねーもー本当に! 知佳が男だったら……というかウチに男の子がいれば絶対お嫁に来てもらうんだったのにー!」
「あはは!」
知佳母にギュウギュウとされて、それがなんだか可笑しくて笑っていると、知佳がおばさまの肩を叩いた。
「何言ってんのお母さん! 万里、とうとう好きな人ができたんだよ?!」
「ちょ、知佳! 何言ってるの?!」
知佳の突然の暴露におばさまの腕の中でギョッとする。
「えっ?! 相手は?!」
「大学の先輩!! イケメンで! 真面目で! 優しい人だって!」
「まああ!! 万里ちゃん、本当なの?! 告白は?!」
「…………まだです」
恥ずかしくてまともにおばさまの顔が見れない。
「まだってことは、好きなのは好きなのね?! ……良かった!! 明日休みで!!!
知佳、お母さんちょっと自分のビール取ってくるから。戻ってきたら詳しくお願いね!」
知佳の「まかせて!」という言葉を受けて、おばさまがガバリと私から離れ部屋から出て行った。
私といえば、今までの話をもう一度しなければならないという予感で帰りたくなったが、当然知佳が許してくれる訳もなく。
たくさんのビールを抱えたおばさまの再登場に、内心絶望の叫び声をあげたのだった。




