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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
29/63



 庭を少し進むと良さげな木を見つけたので、その根本に敷物を2人で広げる。

 ララはアレク様が呼べば来るらしく、荷物を降ろした後に手綱を離しても、逃げることなく目が届く範囲で草を食み出した。


 いつもの昼食の時間を少し過ぎたぐらいの時間だったため、私たちはさっそくバスケットを開けた。


 並んで座り、濡れた布巾で手を拭いて、何気ない会話をしながら食べ始める。

 私はサンドイッチを少しとナポリサンドを1つ、デザートに果物を少し食べたら満足してしまったため、多めに作ってしまったかと一瞬焦ったが、アレク様が残りをペロリと食べてくれたので一安心だった。


 果実水を飲んで上を見上げれば、青い空と、木の葉の隙間から射し込むキラキラとした光が見えて美しい。


 会話を止めてその光景に見入っていると、お腹もいっぱいな事もあり、少し眠くなってきて。

 ふと横を見ると、若干目をショボショボさせたアレク様の横顔が見えた。


「……私の膝で良ければ、お貸ししましょうか?」


 その様子がなんだか可愛くて、つい、そう声を掛けてしまっていた。


 アレク様が一瞬キョトンとした後「すまないが……では、少しだけ」と、すぐに嬉しそうに笑って頷いたので、私はブランケットと本を持って木の幹にもたれかかり、そして笑顔で膝をポンポンとすると、アレク様がいそいそと横になり目を閉じる。

 思っていた以上に顔の距離が近くて恥ずかしくなったが、今更止めましょうとも言えず、気を紛らわせるようにアレク様にブランケットをかけて私は本を開いたのだった。




 *




「……ふぅ」


 読み終えてしまった本を閉じ、一息つく。


 途中まで読んでいた本ではあったが予想以上に早く読み終えてしまったようで、太陽の位置を確かめると、さほど時間は経っていないようだった。


 ふと、下に視線を移すとアレク様の寝顔があった。

 美しいグレーの瞳は閉じられ、長い睫毛が影を落としていて、耳を澄ませば規則正しい寝息が聞こえる。


 サラサラと流れる黒髪を慎重に撫で梳きながら、まじまじとその寝顔を見てしまった。


(そういえば、アレク様の寝姿を拝見するのは初めてではないかしら)


 我が国において。

 男女が正式に婚約をすると、結婚前に嫁ぎ先の家に入り同じ屋敷で暮らすことが多い。

 特に、私のように相手のほうが上位貴族の場合、求められるマナーや教養のレベルも高く、結婚後にそれらを身につけさせようとしても間に合わない場合が多いからだ。


 そのように婚約をした男女が同じ屋根の下に暮せば、所謂()()()()()()もある訳で、特にそれが問題になる事もない訳だが。


 ……私たちはまだ夜を共にした事はない。


 お互い想い合っている事は分かったが、私がまだソレに対する心の準備が出来ていないことをアレク様は見抜いているのだろう。


 もちろん私自身興味がない訳ではないし、閨事について学んだ事もある。

 特に、私たちは貴族であり後継ぎの問題もあるのだから、尚更、結婚したら避けられないものだという事も頭では理解している。理解してはいるのだが、いざそれを実際に経験するとなると話は別というか、何と言うか……。


 とりあえず。

 結婚式までまだ半年以上あるといっても、アレク様は忙しい方で、実質的に2人で過ごす時間はあと少ししか残っていないし、その僅かな時間で、そういうコトになる可能性もゼロではないが。

 何となくだが、アレク様は初夜までちゃんと待ってくださるような気がしている。


(……アレク様と、初夜……ッッ~~~~~!!!!)


 名実ともにアレク様のものとなる夜。


 その夜をちょっと想像してしまい、羞恥心に1人身悶えていると、アレク様が起きる気配がした。


 アレク様の寝顔をまじまじと見てしまった上に、頭を撫でてしまった事や、アレク様を相手にちょっと淫らな想像を1人でしていた事、その全てが恥ずかしくて、私は誤魔化すように閉じていた本を慌てて開いた。


 膝の上に置かれた頭がもぞりと動く。


 本を少しずらして覗き込めば、若干まだ寝ぼけた様子のアレク様と目が合った。


「ああ、マリー……すまない。……熟睡してしまったようだ」


 寝起きの気怠げな様子や、その少し掠れた声が妙に色っぽく、私の羞恥心に拍車をかける。

 わーーーっとなった心を沈めるために本に顔を埋めて堪えていると、下から手が伸びてきた。


「……マリー? どうしたの。……耳が真っ赤だよ」


 そう言ってアレク様が私の耳をスリスリと撫ぜる。


「な、何でもありませんわっ」


 貴方を相手にエッチな想像をしていましただなんて、口が裂けても言えない。


「っ! イタっ」


「?! どうした?!」


 なんとか誤魔化そうと本を閉じようとした瞬間、本のページで指を少し切ってしまった。

 私の声を聞いて、アレク様が慌てた様子で起き上がる。


 見ると、ほんの少し血が滲み始めていた。


「いえ、本で指を少し切ってしまっただけですわ。大丈夫です」


 そう言って指を舐めようと口元にもってきたその瞬間。


「……え?」


 その手を掴まれたかと思えば、アレク様の顔が近付いてきて、……先に舐められてしまった。


 目の前でアレク様が私の指を口に含み、その温かな口内で丁寧に、ゆっくりと舐めていく。


 そしていつしかそれは怪我した指以外にも及んで。


 アレク様は私の反応を観察するように時折私の顔を見ながら、指の間すらも舌を突き出して優しく舐めあげた。


「ア、アレク様……っ、アレク様っ」


 何かを連想させるようなその舌の動きは、消毒と呼ぶにはあまりにも淫靡で、私はその光景から目を離すことも出来ずに、ただただアレク様の名前を呼び続けることしかできなくて。


「あのっ、アレク様……もう……っ」


 耐えきれなくなった私が制止の声をかけようとした、その時。

 アレク様が私の指から舌を離した。


 でも、ようやく終わったと内心ホッとできたのはほんの一瞬だけで。


「んんッ!!」


 次の瞬間には首の後ろに手を回されて、口内を貪られていた。


 急に始まった激しいキスに驚き逃げようとしたが、木の幹に阻まれてしまっていて動けない。


 先ほどの優しく舌を絡めるようなキスとは違い、舌を絡めとられ吸われたかと思ったら歯列をなぞられ、私の官能を誘うように上顎を舌で優しくくすぐられた。


「ん……んんっ、ぁ、ふ……ッ……」


 口内はすぐにどちらのものとも分からない唾液で溢れ、それを必死で飲み下せば、いい子と言わんばかりにうなじを指で撫でられる。



 ――――どれぐらいそうしていただろう。



 アレク様の唇が離れ、出来た隙間から熱い息が漏れる。

 目を開ければ、まだ少し開いた私の唇とアレク様の舌との間に、名残惜しむように透明な糸が渡り、プツリと切れたのが見えた。


「……マリーが誘うのがいけない」


 アレク様と目が合うと、その美しいグレーの瞳を妖しく煌めかせ、少し意地悪そうに笑ってそう囁かれたのだった。

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