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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
10/63

Side アドルフ



 とりあえず舞踏会の会場を後にして屋敷に帰ってきたはいいが……。


 (マリアンヌが……)


 明らかに思考回路をショートさせている。


 一見はふんわりとした令嬢らしい笑顔を浮かべ、声をかければ返事もするし、会話もする。動きも優雅だが……どこかが変。

 どこがと聞かれても上手く答えられないが、明らかに変。

 普段のマリーをよく知る人間にしか分からない僅かな違和感があって……どこか、変。


(……まぁ、こうなっても仕方ないか)


 なんだかんだ言ってもマリーは侯爵家の箱入り娘なのだ。

 初めての国王陛下への謁見だけでなく、予想外の大公閣下とのダンス、しかもいきなり2曲続けてともなれば、キャパオーバーもするだろう。


(……あの兄弟には困ったものだな)


 それにしても、あのマリアンヌがあの様に完全に思考停止させているのを見たのはいつぶりだろうか。


 ……。


 ああ、アレは4年前、マリーがまだ14才の時。


 そう。たしかそうだ。


 マティス陛下からせがまれてガルシア公にマリーを紹介しようとしたが、マリーが熱を出して会わせられなかった時のことだったな。




 ***




 それはマティス陛下のお願いから始まった。


 時はさらに遡り、8年前。

 私が31才、マティス陛下が20才で、まだ王太子殿下だった頃の話である――――。



 領地についての定期報告を終え、マティス殿下の部屋から退出しようとしたが、引き留められた。


「シュヴァリエ侯、少し話がしたいのだが、よいか?」


 頭の中でこの後のスケジュールを確認する。


(……30分ぐらいなら捻出できるか)


 そう思い至り、少し浮かせていた腰をもう一度下ろしてから答える。


「大丈夫ですよ。なんでしょうか? 話とは?」


「ああ。……侯、そなたには娘が1人いたな?」


 予想外に娘の話が出て驚く。


「はい。マリアンヌと申します。まだ10才になったばかりですが、貴族年鑑の内容をスラスラ言えちゃうスゴい子ですよ。それも10年分! しかも、よく私に差し入れをしてくれる優しさもある! 10才の少女がですよ?! しかも手作りで! そんな天使みたいな私の娘がどうかしましたか?」


「ああ、いやな。ウチの……「え、まさか。ウチの嫁にとか言わないですよね? 駄目ですよ。いくら娘が可愛い上に頭も性格も良いからといって。まだあの子は10才ですからね。イネス様のお父様がなかなか婚約を許してくれないからといって、トチ狂わないでいただきたい」


「ちがうちがう! そうではない!!! というか、その情報どこから仕入れた?! そなたの治める領地とは正反対に位置する国の話だし、まだ未発表のはずだぞ?!」


「いやだな。辺境伯をやっている私の情報網を舐めないで下さいよ。でも、まさか、殿下がロリ……「だから! ちがうと言っているだろう! 話を聞け!!」


「……はぁ。……で? ウチの娘がどうかしましたか?」


「まったく! ……あのな? 私に弟がいるのは知っているだろう? ……娘を弟に紹介してくれないだろうか。ああ、もちろん今すぐにというわけではないんだ」


「アレクサンドル殿下にですか? 15才になられたから……娘とは5才差ですね。最近、騎士団に入られたとか。……そう言えば、先日たまたま鍛練している姿を拝見しましたが、なかなか筋が良い。あれなら将来はウチの合格ラインに届くかな」


「お前な、仮にも一国の王子に対して上から目線すぎるだろう。ここには私しかいないからいいものを。不敬だぞ。……それに侯爵基準で強さを考えるなよ。そなた自身の強さと領地の軍事力の高さはハッキリ言って異常なんだ」


「ははは。アナトールとの国境を任されているのですよ? あの程度の軍事力は当然です。……それに、私だって領地を任されているだけのただのオジサンですよ」


「……あくまで能ある鷹は爪を隠すつもりか」


「……大丈夫ですよ。これでも私は貴方に忠誠を誓ってますからね」


「その言葉、信じるぞ」


「はい。……で、結局? 何故、紹介をしないといけないのです?」


「単純だよ。そろそろ弟もカノジョを作れば良いのに。そうすれば、あの無愛想も少しはマシになるはずだ。という、弟を心配するただの兄心だ」


「では、何故ウチの娘なのですか? 他にも候補になりうる令嬢はたくさんいるではないですか。それに、ウチの娘はまだ10才だ」


「うーん、勘だ」


「は?」


「そなたに娘がいると聞いた時にな、なんとなくだが、弟はそなたの娘と一緒になる。そう直感した」


「全くもって意味がワカリマセン」


「はははっ」


 そのやり取りの後からである。

 マティス殿下が私と2人になる度に、いつ2人を会わせるかと聞いてくるようになったのだ。


 が、正直、可愛い娘を第二王子とはいえ男に紹介する話だなんて、私としては1ミリも面白くなかった。


 そもそもウチの娘は可愛すぎるのだ。紹介したが最後、絶対『カノジョ』では済みはしない。

 王族から求婚されてはなかなか断るのも難しいだろう。


 だから私は、せめて娘が成人し、物事の判断を自分でできるようになるまではと、マティス殿下の話を何だかんだとはぐらかし続けて。そうしてそのうち、アレクサンドル殿下も成人し、自分から社交界に出られるようになった。


 その時は、ああ、これで、わざわざウチの娘を紹介しなくても良くなるかもと安心したものだった。


 が、しかし。


 しばらく様子を見ていたが、なかなかアレクサンドル殿下はお相手をお決めにならず、群がる令嬢たちとは一定の距離感を保ち続けた。


 その一方では、私がマティス殿下に紹介をせがまれる。


 そしてとうとう、4年前。

 私は、マティス殿下の執念に……負けた。


 アレクサンドル殿下が騎士団団長に就任される少し前、殿下が19才、娘が14才の時だ。

 たまたまウチの領地に殿下が視察に来られることになり、そのタイミングで屋敷に招待して、娘に会わせる事となったのだったが……。


 アレクサンドル殿下が屋敷に来られる前日のこと。


 昼頃からマリーの様子に違和感を感じた。

 呼べば返事をするし、会話もする。どこがと聞かれても上手く言えない、僅かにしか感じられない違和感。


 そうしてしばらく観察して、ん?? そういえば、頬がいつもより赤いような? と思い、頬に触れようとした時、プツリと糸が切れたようにマリーが倒れた。


 慌てて抱きとめると体温が高く、それから医師を呼んだりして大変だった。


 後日、体調が戻った本人に聞いた話だと。


 朝ちょっと悪寒がして、風邪かな? とは思ったが、まぁ、すぐ治るだろうと普通に過ごしていたら、いつの間にか発熱していたらしい。

 だから、途中からの記憶はほとんどないが、ただ体だけがギリギリまで令嬢として振る舞い続けたようだ……。


 という、不調を悟らせまいとする令嬢根性の賜物だった。


 ……ちょっとお父さんは、お前が心配すぎて、やはりしばらくは嫁にやれそうにないぞと、どんな男が相手でもお前を紹介するのはもうしばらく先にするぞと、私が決意を新たにするのも分かっていただけよう。


 ちなみに、マリーはというと。


 それから3日ほど寝込み続け、もちろん殿下に会わせる話もお流れになった。というか、した。


 それからは社交界デビューも迎えていない娘がアレクサンドル殿下に会う機会はないまま、殿下は騎士団団長に就任され、いつしか社交界にも出てこられなくなった。


 流石に諦めたのか、その頃には国王となっていたマティス陛下も何も言われなくなって。

 正直、娘には自分の意思で相手を見つけてほしいと思うようになっていた私は、無理に紹介しなくて済んで内心ホッとしたものだった。


 それなのに。


 娘が社交界デビューを迎える舞踏会に、あのパッタリと社交界に姿を見せなくなっていたアレクサンドル殿下・現ガルシア大公が出席すると聞かされた時には、飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。


 ……絶対にマティス陛下の仕業である。


 え、あの人まだ諦めてなかったの? と思わずにはいられなかった。


 ――――そして迎えた舞踏会当日。


 ダンスを踊る2人の様子を思い出してみるに、まんまと陛下の直感通りになってしまいそうなのだからお手上げだ。


 ……娘自身も満更ではない様子だったから、私が拒否する訳にもいくまい。


(はあぁ~あ……。なんなんだろうな。マティス陛下、あの人は)


 私はそう思いながら、久々に感じる完全なる敗北感に、タメ息をつくのを止められないのだった。

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