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第2話 旅の始まり

部活で約束した旅行の当日、僕は焦っていた。調べたものを失くしてしまったからだ。

やっと見つけたという時にはもう遅刻ぎりぎり。もちろん、着いた頃には駅前にみんなの姿があるものだと信じ込んでいた。

何でみんな居ないんだろう、もしかして置いて行ったのか?と思い、陵に電話を掛けた。


すると、「ごめん、風邪ひいた。休んで良いか?」と返事があった。他の部員二人に電話すると「ちょっと用事が…」とのこと。最後に彼女に電話を掛けてみた。

「遅れてすみません。もうすぐ着きます。」と言った。僕は正直どうしたら良いのか考えた。このまま決行するか、それとも延期するか…。


しばらくして、遥香が到着した。


「遅れてすみません。他の人たちはどうしたんですか?」

「副部長は風邪とか言ってるし、他の二人は用事があるとか。本当にわがままな人たちだよ。」と言うと、「良いじゃない?二人で行くのも。私なら大丈夫。」と彼女から言い出した。


現に僕は女子と二人で出掛けた経験がなかった。そうやって言われて何となく落ち着いて、「じゃあ行こうか」と一歩踏み出したのである。

あとから聞いた話なのだが、これは陵の罠だったらしい。女性関係の噂が全く流れない自分にたいして色々経験をさせてやりたかったという意図があったのだとか。


「もしかして、こうやって女子と二人で出掛けたのは初めて?」

「うん。何か恥ずかしいね。」

「そうかな?そうかもね。これじゃ部活っぽくないし。」

「要するに…?」

「デートってやつ?」

「やっぱり。こんなの予想外だから本当に緊張するよ。」

「まぁ気楽に。Take it easyだよ。」

そんなこんなで話しているうちに目的に到着した。


「この赤と焦げ茶の電車に乗り換えるよ。」

「何か可愛い。この電車のエピソードとかあるの?」

「エピソード?ん…この電車は元々地下鉄の電車だったんだよ。」

「へぇ〜やっぱり部長だね。」


そしてのんびりとキャベツ畑の中を走る銚子電鉄に乗って名所も巡った。犬吠岬の近くなのでこのシーズンは、潮風がとても心地良かった。

「何か凄くいい感じの場所だね。」

「そうだね。こうやって電車で旅するのが一番良いよ。」

「うん。何か素敵。」

「電車は車みたいに排気ガスを出さないしね。」

「そうだね。」


僕と遥香は隣の駅まで歩いてみた。雰囲気の良い無人の駅に着いたが、電車はちょうど三十分後。次の駅まで歩くと遠いだろうから、その駅で休もうとしていた。


「何だ?この汚いベンチは。」僕は驚いた。

「座れないぐらい、ゴミが散らかっているじゃないか…。ちょっと鞄持っていてくれる?」僕は彼女に渡すと、ポケットにしまっておいた軍手をはめ、掃除を始めた。

「ねえー立ったままでも良いよ?」

「いや、僕の気が済まないから。」

「え?」

「後に使う人のことを考えてみな。この周りはみんな農家でしょ?ご老人とか座るかもしれないじゃない?」

「なるほど。」


十五分経って、すぐに綺麗になった。

「わぁ〜凄い。」

「ほら、ちょっとの時間でも綺麗になるんだから。」

そうして、二人でベンチに並んで座ることが出来、外川駅で買った銚子電鉄の名物、濡れ煎餅を一緒に食べた。


その日の夕方の帰り際、一番恐れていたことが起きてしまった。それは我が父に二人で歩いている場面を見られてしまったからだ。


「おいー裕紀。彼女が居るなら隠さなくても良いじゃないか。」

「え?だから違うって…。」

「俺見たぞー。駅で女の子と一緒に歩いていただろ?」

「あーあれは、部活の仲間だよ。」

「どう見ても違うと思うんだがな…。良いんだぞ。もうそんな年頃だ。」

「でも、もし本当なら基本的に部活か恋愛かっていうのはどっちかに絞るつもりだから。」

「そうだな。恋は盲目っていうぐらいだしな。お前これ以上視力が悪くなったら電車も車も運転出来なくなるんだから視力を失わないように頑張れよ。それにしても、父さんはお前がどんな彼女、嫁さんを貰うか楽しみだ。こんな鉄でも気に入ってくれる女の子が居るなら。」


父はおやじギャグを飛ばしつつも案外嬉しそうだった。それはそうだろう。父自身も鉄だった故に、彼女が出来ずに最後はお見合い結婚だったのだから。しかも、いつも父はこう言いながら毎朝僕の髪の毛を整える。


「お前は、俺の大切な一人息子なんだから、俺よりもいい男になれよ。」と。


最後に父はこう言った。

「鉄子の旅とか漫画出たから、今時代は鉄に向いてるんだろう。羨ましいよな、お前は。」


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