第1話 出会い
あれから十年経ちました。
君は僕のことを覚えていますか?
君は僕と最初に会った時のことを覚えていますか?
君は僕に最初に告白した時のことを覚えていますか?
始めのうち君は僕を困らせるような世話のやける子だと思っていた。君との時間は、忘れられない良い思い出であり僕は感謝しています。
そして、遠くに行って僕には分からない世界に行ってからも元気でやっていますか?
もし、この本が書店に並んでヒットすれば、きっと君だって読んでくれることでしょう。もし読んでくれたら連絡下さい。
僕は中高一貫校の鉄道研究会に所属している高校二年生、松島裕紀。小学校の時に、鉄道研究会のある中学に行きたいと思い、一生懸命勉強し見事に私立中学に合格し入学した。この学校はいわゆる男子校であった。
しかし、時代の流れで僕が高校一年の時に共学校に変わった。
最初のうちは共学というのは実に名ばかりなほどであった。何せ校舎もバスも全部別。確かに、今までの男子校の設備では女子に不利な点ばかり。トイレは男女兼用だったし、更衣室なんて無い。そのため、プレハブ校舎が新設されたのだが結局志願者が少なかった。翌年の志願者増加のために学校側は新校舎の建設を始めた。それから相変わらず冴えない文化祭があり、新しい校舎が完成し、いよいよ入学、編入試験が始まった。
彼女と出会ったのは、その試験の合格発表の日であった。
僕はずっと撮りたかった臨時列車を撮るため、部活のミーティングの後に急いでスクールバスに駆け込もうとした。そしたら、前から合格証明書と入学手続の書類を持った彼女が歩いてきてぶつかってしまった。
「すみません。急いでいて。」僕はすかさず謝った。
彼女も、「こちらこそごめんなさい。よそ見していました。」
そう一言ずつ交わして、別れてしまった。あの時、彼女が後を振り返ったことはつい最近になって知ったことである。
高校二年生に進級し、やっとのことで鉄道研究会の部長の座についた。中学から一緒にやっている友達、岸野陵が副部長の座についた。そして、二人で勧誘ポスターとクラブ紹介のスピーチの原稿を作った。もちろん、実際にスピーチするのは僕である。
「松島部長、頼みますよ。部長のスピーチ一つでもしかしたら部員が入ってくれるかもしれませんよ?ひょっとしたら女子部員まで期待できるかも。」
「おい、無理させるなよ。ただでさえ緊張しているんだから。」
そう、後輩部員の思っているほど簡単なことじゃないのだ。実際表に立ってみるのは難しいことである。それは今となっても同じ。人前に立つともう失神寸前。スピーチが終わるとやはり手ごたえは無かったと陵に話した。
「ごめん、今年も駄目かもしれない。」
「よく人前に立って喋れたじゃないか。まぁちゃんと説明出来ただけでも俺は十分だな。」
「上から目線だなぁ、お前は…。」
「すみませんね、部長様。」
実際のところ、現在の部員は自分と副部長を含めて五人。やっぱり五人ではあまりにも部活として成り立たないので、この状況はどうしても変えたかった。
次の土曜日にクラブ公開があった。最初のうちは誰も来なかった。
諦めて片付けようと思った瞬間一人の女子が入って来た。もちろん、彼女であったが初めてぶつかった時のことなんてすっかり忘れていた。こんな男の城に一人で入って来るなんて何て強情な奴だって思ったのが最初の彼女に対する個人的な印象であった。
「あのースピーチをしていたこのクラブの部長さんにお会いしたいのですが…」と彼女は部員に話し掛けた。「部長〜」と呼ばれて仕方なく出て行くと、
「やっぱり。合格発表の時にお会いしませんでしたっけ?」といきなり言われた。
「すみません。あんまり記憶がはっきりしないのですが。多分あなたが会ったというなら会ったのでしょう。あっちょっと待って。あの日は…臨時列車があって急いで帰ろうとしていたんだ。そしたら、合格した子とぶつかった。その時ですかね?」と言った。
「はい。本当に鉄道がお好きなんですね。」と彼女は部活がどうこうというよりも、パーソナリティーに興味を持ち始めた。
「部活の説明、もう一度してくれませんか?」と彼女は丁寧に頼んだ。
「僕は大勢の前じゃ説明下手だったから、ここでもうまくできるか分からないけど。うちの部活は…。」
長々とした説明の後、「部長さんのやる気に一票。私も入部して良いかしら?」と言った。
そしたら、今まで黙っていた副部長が「こんな男臭くて、駄目部長ですがそれでも良いなら私どもは歓迎です。」と言った。
クラスを聞くとなんと同じ学年。彼女の名前は川崎遥香。隣町の女子高校から編入したのだとか。クラスは三十人のクラスに対し女子十人だとか。こうして、新しい部活が六人で始まったのである。
部活が終わってから、彼女と陵と三人で街のカフェに出掛けた。
「旅行好きなんだって?」
「ええ。」
「どこに行ったことがあるの?」
「九州とか、広島とか。最近は大阪に行きたいなって思っています。」
「へえ。自分らも大阪がお気に入りでね。国鉄型の車両が…」
「ストップ。マニアックな話禁止!お前はいつもそうだ。」
副部長があまりにも話が長引きそうだったので、僕は陵を止めた。
「あのな、あくまでも鉄道研究会だが、時と場合を考えよう、副部長。」
「すまん、すまん。じゃあ部長代わって。」
「今度のゴールデンウィークなんだけど、部活で旅行をしようと思っていて、せっかく新しい部員も来たことだしここは新入部員の希望で行こうかと思って。その前にゴールデンウィークは予定入ってる?」
「特に無いです。どこでも良いんですか?」
「どこでもと言っても、日帰りで帰って来れるところだからあんまり遠くなきゃどこでも良いよ。」
「じゃあ銚子なんてどうですか?地球が丸く見える丘公園とか行ってみたいんです。」
「おっと銚子電鉄か〜。なかなか良いところつっつくな。」
「だから、そうじゃないだろ?そういう場所が中心になるだろうから鉄はちょっと諦めろ。」
「多少ならお伴しますよ。何せ鉄道研究会なんですから。」
「何か悪いね。こんな勝手な部活だからいつまで経っても部員が増えないんだよね。」
「でも、趣味があるって良いことじゃないですか?」
「まぁそうだね。この趣味は本当に特殊だしね。」
「俺そろそろ行かなきゃ。ちょっと用事思い出した。模型のパーツ買って来なきゃ。じゃあまたね。」
陵は勝手にも帰ってしまった。
「行っちゃいましたね。」
「そういえば、タメなんだし改まらなくても良いんじゃない?」
「いやいや、部長さんですから。」
「部長なんて名ばかりだから、良いんだよ。その方がこっちも楽だしね。」
「じゃあそうする。部長っていうのも何か堅くない?」
「え?部活なんだし、それで良いんじゃない?」
「裕紀とか?裕ちゃんとか?」
意外だった。さっきまであんなに落ち着いて話していた彼女がまるで別人のような接し方をするのだ。
「あんまり下の名前で呼ばれるのは慣れてないしね。」
「そうなんだ。じゃあ部長で。あっ私のことは普通に遥香って呼び捨てにして良いから。」
「そうかい?」
「まぁこれからも色々お世話になると思うから、よろしくね。」
「う、うん。」
「いきなり変なこと聞いちゃうけど、やっぱり今まで男子校だったから付き合ったこととかないの?」
「(何なんだ、こいつ…)そりゃそうでしょ。あんな学校じゃ何も良いことなんて無かったよ。共学になってやっとまともになったかと思いきや、うちの部活なんて影の存在になっちゃうんだから。」
「そっか。」
「じゃあ君は?」
「私は、好きだった人は居た。でも、付き合うまでには行かなかった。」
「へえ、そうなんだ。」
僕はただ、平然と聞いていた。なぜ、彼女がこの部活にそしてこの僕にそういう話をしてきたのだろうかということも全く知りもせずに。その後、二人は駅前で別れた。




