四十八話
「牛が居たら少しは楽なのに」
確かにそんな事を言った事がある
今の畑仕事は農業歯車を使う
大昔は牛を使っていたそうだけど
だからたとえ話で人手が欲しいなぁと言う意味で「牛が欲しい」と言ったのだけど
“いつも娘とワンワンが迷惑をかけて居るから”
スズさんはそんな事を言って自分の経営する大牧場から牛を四頭も送って来たのだ
母のキイは笑って貰っておけと言った
ワンワン様は馬小屋の横に牛小屋を建ててくれた
飽きたら売って金にしろとも仰ってくれたけど子牛が出来たらそうしようか
これからは牛の乳で何か作ってみよう
高学舎は《山田》の飛行場からは少し遠く
郊外にあった
《山田》でも外れの地域の中学舎に通っていた私達は皆銀輪で通うことになる
私は父に頼み十六になったら動輪の免状を取り動輪で飛行場から学舎へ通う事にした
動輪は父のお下がりを用意して貰った
ちっちゃくて可愛いやつだ
父が私に免状を取る時に出した条件は
二人乗りは絶対にダメ
アコヤには馬が有るから大丈夫だと言って気がついた
こりゃあ父は私がアコヤと馬で二人乗りして通っている事を知ってるなと
そして十六と言えばもうひとつ
小遣い稼ぎだ
街から通う子達は皆何処そこの店の給金が良いだのと言って盛り上がるが、私達外れから通う子達は必然限られてくる
街まで出て稼ぐか
農村で仕事を見つけるか
魔人のアイちゃんは近所の店で
毛人のタロちゃんとジロちゃんはおうちの食堂喫茶の手伝い
人間のエイちゃんサカエくんユウくんイサムくんは街で学舎帰りにそれぞれ郊外の店で
私はアコヤはどうするの聞くと自分は家の手伝いさと笑う
確かにアコヤはいつも畑仕事を手伝い馬や牛の世話をして居る
じゃあ私もそれでいいやと言うとアコヤは笑ってお給金は最低給以下で休みの日は日の出前からだよ言い、私の胸をフニフニとつついた
給金は兎も角日の出前とかありえない
私は胸をつつくアコヤの手を払い、家に帰ると母さんと父さんに相談してみた
父さんは渋い顔をし
母さんはさっぱり理解できない様子だった
それもそうだろう、父、ワンワンはこの世に欲しいものなんて物が無いし
母、スズは私が呆れるくらい田舎者なのだ
「欲しいものが有るなら」
父がそこまで言ったところでばば様が話に割って入った
「皆がする事をしたい、皆が買う様に稼いだ小銭で小さな贅沢をしたい、そうなのでしょう?年相応ではないですか」
父も母もばば様の言葉に首をひねり
小銭ならと言って懐を漁りだす父の頭をポカリとばば様が叩く
「マイは大森林のお役に立ちたいと言っているのです」
ばば様のその一言でようやく二人はああと理解し
母がそれではお庭の手入れでもと言いかけたところでばば様が母を黙らせこう言った
「マイには私の手伝いをしてもらいます」
「ばば様、ばば様のお手伝いって何をすればいいの?歯車動かしたりは出来ないよ?」
ニコニコと笑ってばば様の後ろに続き歩く私にばば様が振り返る
「給金は大森林が法の定めの中で一番低いものになります」
私はそのひと言にえ〜と口を尖らせ
ばば様はスズの時ははハイと素直に答えたものだと笑う
そんな事をしていると別のばば様が手に何かを持ってやって来た
「くっそダサいんですけど」
ばば様が持って来た服に袖を通し鏡を見て呆れる
「それくらいがちょうどいい」
ダサい服を着た私をみてばば様は頷く
この服はアレだ
蛮族と会う時の
つまり
「ばば様、私のお手伝いって」
「蛮族館の手伝いをしてもらいます」
やっぱり
「なんか汚そう」
私の嫌そうな顔をみてばば様は笑い
ばばがついていると言った
蛮族館は蛮族との折衝や取引に使われる所で見た目だけはそこそこ立派に出来ている
蛮族が来ない日に何度も行ったことがあるが特に面白い所じゃない
そこでは父に借金のある隣の蛮族一家の女が受付で働いていて
後はばば様達が蛮族の相手をする
たまーに母さんも王様とか皇帝とか尼さんとかと話をするけど
私が口を聞く蛮族は門の外に立つ奴らとシャンおばちゃんくらい
明くる日、学舎の皆んなに私が蛮族相手の手伝いをする事になったと話すと
危なくないの?
汚くないの?
変な病気とかうつされない?
と大騒ぎになった
特にアコヤは驚き、危ないからうちの蔵に転がっている槍か刀を持っていけと心配し
ばば様が居るから平気だよと笑う私に皆んなはマイちゃんは図太いねと呆れていた
帰りの飛行場で見送るアコヤは蔵から持ち出したおっかない物を抱え、本当にいらないの?と心配するので、防犯用の閃光灯と警報機を受け取り
またねと言って頬をつねり《館》へ飛んだ
帰っておやつを食べ終わると早速くっそダサい服に袖を通し
ばば様と橋を渡って蛮族館へと向かう
今日は明日の準備を手伝うだけなのだけれど一応アコヤから貰った警報機と閃光灯を首から下げ
それをみたばば様は何と用心深いと言って笑う
私はばば様に言われた通りカップを数え菓子を数え茶葉を数えた
それを近くの素体へ伝えると
蛮族がガラスのゴーレムと呼ぶ素体は指で了解のマークをして見せ
やってきたばば様に次は果実水とグラスを数えなさいと指示された
その後はあれこれとばば様の言う事を聞き庭仕事で汚れた歯車をホースとブラシを使って洗ったり
蛮族達の待合室にグラスと果実水のボトルを用意したり
花瓶にお庭の花を飾ったりして、夕食の頃に今日はこれまでと言われひと段落
疲れたを連呼する私にばば様は、明日が本番だと言って笑い
私はうへぇと舌を出した
明くる朝、飛行場まで迎えに来ていたアコヤが何もなかった?と心配そうに何度も聞いて来たり
同じような事を学友の皆んなに聞かれたり
本番は今日だよと私が答えると皆んなはまた話を聞かせてと言う
アコヤはポケットから包丁の柄の様なモノを取り出し私に押し付けて来た
私がナニコレ?と聞くとアコヤは暗器とさらりと答え
「蔵にあったキイ婆の持ち物で力一杯握ると空気の刃が飛び出して」
とそこまで言った所で学舎に何持って来てんのよと言って頭を叩き
だって蛮族だよ?と言うアコヤの顔をみてはいはいと答え鞄の奥にねじ込んだ
《館》に帰り、酔っ払って居るキイ婆に事情を話し包丁の柄みたいなモノを返すと、キイ婆は嬉しそうにやっぱり男の子は頼もしいと言って笑い
せっかくだから仕事中だけでも持っておけと言われ投げてよこされた
ばば様も笑って御守りがわりに持っておけと物騒な事を言う
私は今日もまたあのくっそダサい服に袖を通し蛮族で溢れる蛮族館へと向かった
今日は開館日
沢山の蛮族が蛮族館に押しかけ利用されて居るとも知らず大森林のおこぼれに預かろうと群がっている日だ
受付は隣の蛮族がやっていて
こちらの指示に合わせ待合室に蛮族を通す
待合室にたまった蛮族を今度は隣の蛮族が空いた部屋へと案内する
今日の私のお手伝いは部屋の中で待つ蛮族に茶と菓子を出して回る
ばば様に付き添われ緊張しながら最初の部屋へお盆に乗せた茶と菓子を運ぶ
ガチャガチャカタカタとうるさいお盆を運び、ばば様が開ける扉をくぐり蛮族にガチャガチャと茶と菓子を振舞った
「真金様、此方は?」
蛮族がなんとも言えない表情で私を見てばば様に声をかける
「スズの娘マイ、今日より私の手伝いをさせている」
蛮族はばば様の言葉を聞くとビクンと姿勢を正しこれは姫様御自らとは勿体無いと言って傅き
私と付き添いのばば様はコレにてと言って部屋を出た
「姫とか笑っちゃう、ねえばば様、あいつレーレンさんに言って丸焼きにしましょう」
ばば様は私の言葉を聞いて笑い
こんな事で蛮族を焼いていてはレーレンが何人いても足りないと言って私の肩を叩き
さあ次ですよと言って溢れた茶で濡れたお盆に次の茶と菓子を乗せた




