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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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三十二話

魔法使い様は大青の塔ごと諸侯を葬り

高笑いをあげその邸宅に戻った


三つの聖地の一つを破壊され格諸侯を殺された聖堂と諸国はコレを決して許さぬと王国に対し白姫様の首を差し出せと息巻いた

無論彼らに暫くはもう一度戦をする余力は無く数年は叫ぶだけなのだろう


塔の崩落に巻き込まれたレーレン嬢のレーレン領は真金様の進言により

ヒバナ侯が三分の一を

王家が三分の一を

遠縁の者が三分の一をそれぞれ引き継いだ


そう、レーレン嬢はあの日あの場で亡くなられたのだ

本当に一時の事だったが夫であった私は口をつぐむしかない

広大な領地はその口止め料なのだろう


後にヒバナ殿に教えられたが、私たちに見えぬだけでワンワン殿はずっと白姫様についていたらしいし

レーレン嬢のされる【イタズラ】も全てご存知だったそうだ


まるで道化ですねと笑う私にヒバナ殿は蛮族には勿体無いよと笑っていた


あの日あの後、私は王国ダリトゥディモ領内の陣屋で目を覚ました

追手が有るかもしれぬと急ぎ王領まで戻ったのだそうだ


レーレン嬢がどうなったのかは誰にも分からない


看病の者の肩を借り白姫様のもとへ向かうが、白姫様はお庭でワンワン殿相手に札遊びをされ、金切声を上げて札をワンワン殿に叩きつけもう一度ですと声を立てておられた

ワンワン殿は私を見るとああ目が覚めたのかと言って庭に有る天幕を指差され

鼻息も荒い白姫様の手札から一枚を抜き取られた


私は看病の者に大丈夫と言って引き取らせ、天幕の中を覗くと其処には静かに寝息を立てるヒバナ殿の姿があった

ホッとし、お側に寄添いそっとその頬を撫でる

相変わらず顔色は青白く、肌も心なしかひんやりとしていた


「気安く触るな」


「お目覚めでしたか」


私はその言葉にホッとしてその冷たい手を握り、安心しましたと笑って見せた

ヒバナ殿はああ気持ち悪い、触るな蛮族と軽愚痴を叩かれ

これは失礼と言って両手を添えた


「私に取り付いていた炎の竜のかけらは消えた、お陰で暫くは寝返りもできそうに無い」


「私がお側におります」


「やめてくれない?気持ち悪い」


ヒバナ殿は苦笑いをされ、寝るからどこかに行けと言われ目を閉じ

私はハイと答えヒバナ殿が寝息を立てるのを待ち天幕を出た


天幕を出るとワッハッハとはしたなく笑う白姫様とやれやれと言ってコッチを見るワンワン殿

ワンワン殿は立ち上がり此方へいらっしゃると私の事を指でつつき、思いの外頑丈なのだなと言って小さな袋をくだされた


「痛み止めと熱冷ましだ、怪我は自分で治せ」


ワンワン殿はそのように言うと白姫様のもとへ戻り、また白姫様の遊びに付き合われた

私はワンワン殿にレーレン嬢は?と声をかけると、生まれた所へ帰ったよとだけ答えられ札遊びに興じられた


レーダの街へ戻ると、おばばは私の有様を見て驚き医師様のところに行って薬を貰ってきてくれた

それからひと月が経ち

ヒバナ殿は療養に戻られ、そのお姿をめっきり見なくなった


私はお前にやると言われた新領地を王から付けられた官司とおばばの紹介で雇ったゴブリンの元役人を連れ、見て回った

官司はやる気などこれっぽっちも無く

結婚して直ぐに死なれるとは運がいいのか悪いのかと私を揶揄うばかりで

広大な領地が転がり込んだ私を馬鹿にしているようだった


ゴブリンの元役人は領地や領民の話をつぶさに聞き、土地を見て回り、私に色々難しい事を言ったが

要約すると田舎ばかりでロクな街はないが開墾と入植に力を入れれば十年で収穫は二倍になる

そう言う内容だった


そんな簡単に入植者が集まるのかねと官司が笑うと、ゴブリンは夜働く者なら幾らでもと鼻で笑った


今、レーダの町外れにあるゴブリンの集落は、ゴブリンの楽園が有ると聞き移住してきたゴブリン達で溢れかえっている

ゴブリン侯と呼ばれる私はよく街の者にさすがにあの人数は何とかならないかと相談されていたのでコレは一石二鳥だ

ゴブリン酒場を三店にまで増やしたシャン夫人には客が減ると文句を言われそうだが


意外な事だが旧レーレン領で一番実入りの良い所はレーレン家の遠縁の者に与えられ

何も無いところを王家と私が引き継いだ

王にも慈悲の心は有るのだろうなどとは思わない

あのお方の事だ

また何かを企んでいるに違いない


私はゴブリン達の入植の為のお力添えを頂こうと白姫様のもとへお伺いする

その日はヒバナ殿がいらっしゃった

ヒバナ殿はようやく歩き回れるようになったと顔色のよくなった様子で仰られていた


私はお話を聞いてくださるシジュウ様に新領地で徴収した銅貨全てと開墾後の収穫の一割を条件に援助のお願いを申し出た

シジュウ様は難しい顔をされ

私の申し出に対し井戸十本、ゴブリン向けの白家百軒、魔法の肥しひと山、家畜小屋二十軒、ゴレーレムでの開墾10日を約束してくださった


食料千人分はさすがに無理だったがそれは正堂にあてがある


先ず百家族

次の年うまく行けば次の百家族

住み着くのがゴブリンなのは問題はないだろう


いや勿論色々な問題は起こるだろうがそれはここでもあった事だ

正堂にも来ていただくつもりだし

ゴブリン達が光石や冷石を作り出すのを見れば直ぐに見る目も変わるだろう

火石は正堂の専売だが薪はゴブリンに売らせよう

うん

何とかなるな


私の雇う役人はゴブリンだらけだが私はゴブリン侯なのだ

何も文句はなかろう



話がひと段落するとヒバナ殿のもとに向かい

疲れるからと腰掛けられているヒバナ殿と少し話をした


レーレン嬢は魔法使い様の国でそれはそれは幸せに暮らしているらしい

もう私の事もレーレンのことも忘れ

幸せに


ヒバナ殿は私が如何です私の屋敷で酒でもとお誘いすると、それも良いかもねと仰られ私の誘いを受けて下さった


私は綿毛のように軽い足取りで馬車を呼び、ヒバナ殿を我が家にお連れし酒を振る舞い料理を並べた

おばばはヒバナ殿の匂いをかいでこりゃまるで別人だと驚いていた


ヒバナ殿はあまり酒にも料理にも手をつけられなかったがしきりに疲れたと言っておられた

驚いた事にヒバナ殿は私の屋敷にそれから三日滞在して下さった


怠くて動きたくないとは言っておられはしたが

ヒバナ殿のためにこしらえた部屋を見回し、お前も馬鹿だねと笑われたり

ミップやモッチ達と昔話をされていた


そして四日目の夜、寝床でヒバナ殿の胸に出来た傷跡を指でなぞり

くすぐったいとその手を払われ、二人、月を眺めた


「これでお別れだ」


ヒバナ殿のその言葉に私は動揺も焦りもなかった


「姉がもう此処で働かなくて良いと言ってね、いやとても働ける体調じゃ無いんだけど」


そうですか

私は笑顔で答え手を取った


「私はようやく死ねる、もう何年生きたのかもよく分からないけど、ようやく年が取れる」


きっと今よりお綺麗になります

ヒバナ殿の細い肩を抱き

少しひんやりとしたその身体を温めた


「だから此処でもう本当に姫騎士は終わり、一人の娘として生きていくよ」


私はもう一度ヒバナ殿を寝床にお連れし

ヒバナ殿の最後の男になり

ヒバナさんの最初の男になった


ヒバナさんは翌朝何事もなく朝食を召し上がられ

歩いて御屋敷へと戻られ

見送りはしなかった


カッコつけたのではない

未練がないわけでもない


魔法使いの国の乙女と

魔法の無い国の男の物語を終わらせたかっただけた


部屋で新領地についての調べ物をしていると茶を持って来たおばばが言った

いいのかと

私は良いんだよと笑って手のひらを眺めた

そこに残る指輪の後

姫騎士と五指の誓いを誓った指輪は今朝眼が覚めると無くなっていた


私はもう一度良いんだよと言い

おばばがあんたは良い男だねと笑った


「知らないのかい?私はモテるんだよ」


私の軽口におばばは笑い

次はゴブリンの嫁でももらいなと言って部屋を出た

それも悪くは無いのかもしれない


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