聖王女の再会
そこに立っていたのは、兄とそう変わらない年頃の青年だった。ディオンハルトが華やかな美貌であるのに対し、こちらは繊細な美しさというのだろうか。紫水晶色の瞳は僅かに影を帯びて、涼やかさの中に憂いを感じさせる。舞踏会の時は一つに纏められていた長い銀色の髪は今は背中に自然と流されている。そうだ、確かにあの夜七面鳥を投げつけた青年で間違いなかった。更に言えば、とりあえず顔を見ただけで幼児化することもなく安心した。
「アイーシャ王女」
青年ーーールーディウスは部屋に入って来たアイーシャを見ると、座っていた椅子から立ち上がってアイーシャを迎え入れた。
「この度は私の我が儘を聞き入れて頂き感謝致します。舞踏会以来ですね・・・私を覚えていらっしゃいますか」
「は、はい。むしろ本来なら私が謝罪に向かわねばならなかったのです。」
忘れられなかった。色々な意味で。
「殿下、この度は私の態度で大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
先ずは謝罪だ。アイーシャは頭を深く下げる。相手は大国の王子。身分など関係なくともアイーシャがしたことは良くないことに違いない。するとルーディウスが慌てたようにアイーシャの身体を起こす。
「頭を上げて下さい、アイーシャ王女」
「ですが、」
「私は貴女の謝罪を求めて来た訳ではない。貴女が異性に馴れてないことは国王陛下からも伺いました。私が貴女の手にいきなり触れたから驚いたのでしょう、私こそ謝罪を」
「いえっ、本当に私が悪いんです!あの後兄にも叱られて」
「おや・・・陛下は貴女をとても大切にされているのに、叱りもするのですね。いや、大切だからこそ叱るのか」
「殿下?」
「ああ、失礼。貴女の兄上・・・ディオンハルト陛下が妹姫を溺愛されているのは有名な話なのですよ。他国の若い王子や国王は皆知っています。メリオロッドの王女を妻にするにはまず兄を倒すべきだとね」
「えええ」
そんな恥ずかしい話、何処から沸いたのか。確かに大切にされていて愛情を感じることもあるが、溺愛というよりは比較的野放しにされているし、兄妹喧嘩を始めるとイザルグにしか止められないほど激しいと言われるのだが。
「叱るも愛の内です。それが出来ない者も多いのですから、貴女方は良き家族だ・・・昔からそうでしたよ」
「はあ」
昔というほど前からディオンハルトと知り合いだったのだろうか。まあ兄に限らず、両親が健在の時から仲の良い家族だったとは思う。