第一章 6
オーキーは後ろ髪を引かれつつ、何度も振り返りながら森の中を進んでいく
「ファティ、一人で大丈夫だろうか・・」
オーキーの心配も他所に、元来掃除好きなファティが喜び勇んで草むしりに没頭しているなど思いもせず、心の内を吐露する。
少しして、森が唐突に途切れ、川辺に出た。
その水面は、遥か上流で天から常に降り注ぐ虹が溶け込み、淡く七色に耀く。
森に住む者たちにとって貴重な水場となっており、本来透明なはずの川は文字通り虹色をした不思議な川だ。
オーキーは普段この虹色の川で、捕らえた魔獣などの血抜きや、その毛皮を鞣す下処理に利用している。
「確かこの辺りだったと思うんだが・・」
キョロキョロとその巨体を揺らしながら周りを見渡し、目の端に目的の物を捉える。
「あったあった。」
それは自然の力によって滑らかに切り取られた大きく美しい虹色に輝く岩石であった。
墓石にするには少し大きいが、彼にとっては気にするほどの物ではない。
「大きさはこれだけあれば申し分ないな。」
コツコツと岩石を爪で軽くたたく
「うん、やはり加工するには丁度いい硬さだ。」
その岩石は硬すぎず柔らかすぎず、加工がしやすいため、調度品の素材として市井でも流通している。
しかしこの森に流れるこの川でしか採取できないため命がけの採取となる。
その為、宝石と同じ扱いで取引され、貴族などの一部の富裕層にのみ重用されている。
「よいせっ」
都市部の一等地に豪邸が三軒は建てられる価値はあるその大きな岩を、軽々持ち上げ右肩に乗せる。
「ふむいい感じの重さだ。それに形もいい。」
岩の具合を直に触って確認し、あの子の顔を思い浮かべる。
「喜んでくれるだろうか。」
きっと驚くに違いないと、勝手に納得して一人頷く。
そのまま踵を返し元来た道へ歩きだした。
その足取りは来たときよりも幾許か軽く感じた。
*************
ファティの待つ場所へ戻る途中。
「ーーー」
「ん?」
なにかがふんわりと耳の端を触れる。
それは微かな音。とても微細で繊細な水泡が弾けるような音。
「なんだ?・・」
「ーーー」
「・・歌・・・?」
初めはただの音としてしか認識出来なかったが、近づくにつれ次第にそれが歌であることがわかった。
「なんて歌声だ・・・」
段々とはっきりしてくるその歌声にまるで引き寄せられるような感覚を覚えながら、ふらふらとその歌声のする方へと歩みを進める。
その歌声はファティのものであった。
「・・・!?」
その歌声をはっきりと耳朶が捉えた時、全身が震えて動けなくなる
森は静まり返り全ての生きとし生けるものがその歌声に魅了され、眠りについている
静寂の中、その歌声だけが響き、静謐を生み出している。
オーキーは声を掛けようと手を伸ばしかけたが、躊躇ってしまった。
その目に映る光景が信じがたいものだったからだ。
「・・なんだ、これは」
この森の動物達は警戒心が強い。
普段から魔獣に追い回されているため、見慣れない者には先ず近寄らない。
なのに、まるでファティを護るように取り囲んでいる。
「これは・・・魔力が込められている?」
歌そのものはこの地方に伝わるただの牧歌であるが、その歌声の美しさにまるで心を丸裸にされるような、全てを受け入れてしまいそうな、そんな感覚に陥る。
吸い寄せられるような、惹きつけられるような、そんな言い表しがたい力をもった歌声。
「ファティ!」
心が囚われそうになるのを必死に食いしばって声を掛けた。
その瞬間、歌声は静寂に消え、取り囲んでいた動物達も起き上がり、状況を把握しきれない様子でサッと散り散りに逃げ出していった。
「!」
それまで目を瞑り気持ちよさそうに歌っていたファティは、声を掛けられ少しビックリした様子で目を見開き振り向いた。
もっと聴いていたかったような、聴いてはいけないような、そんな相反する感情がオーキーの胸を通りすぎる。
「オーキー!早かったですね」
「見て下さい!とっても綺麗になったでしょう?」
広場の雑草が綺麗さっぱりなくなっており地面が整えられていた
両手を広げクルっと回り、ファティは嬉しそうに言った。
第6話
いつもお読みいただき本当にありがとうございます。
今回も短くて申し訳ないです
少しでもいいなと思ってもらえたら
いいね、ブクマ、感想などいただけるとヘベレケは感無量です
次話も月曜日の朝7時10分に更新予定です。




