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第二章 3


真っ白な世界に強制的に招待されたあの日、光る人型の何かに無理やり知識と力をねじ込まれ、賢者ワイズとして救済機構の一つに組み込まれた。


与えられた力も知識も使命もよくわからないまま、その後2年ほどは何事もなく、家の手伝いをしながら普段通りの生活をしていたロイだがある日、白い教会服を纏った白徒教の聖女を名乗る背の高い黒髪の美しい女性が訪ねてきた。


「初めまして、わたくしは白徒教で聖女と呼ばれています。カノンと申します。あなたがロイ君ですわね」


甘ったるいのによく通る声と整った面立ちを朗らかな微笑みで煌びやかせ、近づいてきたその聖女にロイは見蕩れ、ほのかに香る花のような香りに赤面した。


「ひゃいっ! ぼ、僕がロイです」


こんなにも美しい女性に出会ったのは、生まれて初めてのロイ少年は思わず声が上ずってしまった。


「僕に何か御用でしょうか?」


白徒教は知っている。この村にも教会はあるし、何よりこの国の国教だ。

だがその教会から使いがくるなど、思い至ることはまるでない。

ましてや聖女など関わろうはずもない存在だ。


「ええ、ずっと探していましたのよ、あなたを。宣託を受けた賢者様」


「宣託?」


「ええ、ええ、宣託ですわ。ロイ君、あなた白主様にお会いになったでしょう?」


少し興奮した様子で頬を赤らめ、前のめりになる聖女


「うひっ! あまり近づかないでください。僕、貴方みたいな綺麗な人と話したことないんです」


恥ずかしさから顔を真っ赤にして数歩後ずさるロイ少年


「あらぁ、かわいい賢者様ですこと。大丈夫ですのよ、欲望のままにわたくしに見蕩れてくださいな」


煽情的なその体を艶めかしく白い手が這うように自身で撫でる聖女


「な、なな」

燃え盛る炉の中に放り込まれた玉鋼のように真っ赤になった少年は今にも破裂しそうな様相だ。


「な、なんなんですか貴方は!」


「聖女ですのよ」

「性女の間違いじゃ」

「そうとも言いますわね」

いうんかい。と心の中でつい突っ込んでしまった。


「ところで宣託、てなんのことですか、それに白主様ってあそこの教会に祀られてる白主様のことですよね」


先ほどのやり取りで少し落ち着きを取り戻したロイはそれでもまだ尚赤い顔をしたまま聞いた。


「そうです、人々を救い導く白の御方。我々の主、白主様です。」


今度は恍惚とした表情で天を仰ぎ、自分の世界に入り込む聖女。

と、唐突にロイへ向き直り真剣な顔をした。

「ロイ君、貴方最近不思議な体験をしなかったかしら」


「不思議な体験・・・ですか」


少し思案したが、あの事だろうかとすぐに思い至る。


「2年くらい前に光る人に会って、全身から血を流して倒れたことなら」


「ああ! やはり白の御方にお会いになられたのですね!」


聖女はグイっと距離を一気に詰め少年の手を両手でしっかと掴んで上下にぶんぶんと振り回した。

腕を振られるたびその身長差から体ごと持っていかれ、なすがまま状態のロイ

目の前には巨大な二つのスライムがこれでもかと暴れ、目のやり場に困った少年はぐるぐると目を回し、真っ赤な顔は徐々に青くなり、ついには限界を迎え気を失ってしまった


「あら、急にぐったりしてしまってどうしたのかしら。お持ち帰りしちゃいますわよ」


そういい聖女は少年ロイをお姫様抱っこしてもと来た道へ踵を返し楽しそうに鼻歌交じりに歩き出した。


***************


ガタゴトと音を立てあまり綺麗には舗装されていない道を走る一台の馬車


「揺れる・・・揺れる・・・大きなスライムが、助けて、襲われる!」


夢にうなされうわごとを言いながら少年ははっと目を開けた


「あら起きましたわね。どこか痛いところとかないかしら。」


「えっあれ? ここどこ? 頭がなんか温かいし、柔らかい」


「わたくしの膝の上ですのよ」


「え! なんっ」

驚いて勢いよく体を起こすロイ。しかしその勢いは大きな二つのスライムに阻まれる。


「やんっ大胆」


聖女は赤らめた頬に手を当て恥ずかしそうに嘯く


「あ、あのちょっと状況がつかめないのですが、どうして貴方が膝枕を? というか耐えられそうにないので離れてください」


そういいながら今度は慎重に起き上がり距離をとった


「まぁ、そんなに離れなくてもいいですのに。さぁ遠慮なさらずこちらにおかけになって」


自分の膝をポンポンと叩いて、当たり前のように自分の膝に誘導しようとしてくる聖女。


「遠慮させていただきます!」


「もう、女に恥をかかせるものではないですわよ」


「この状況でよくいえますねそんなセリフ」


段々とこの聖女を自称する女がわかってきた、この人はただの痴女だ、そうに違いないとロイは心の中で納得した。


「ところでここは、馬車の中、ですか?」


きょろきょろと周りを見回すと木製の台に幌がかけられた狭い空間にいることが理解できた。


「なぜ、僕は馬車に乗っているんでしょうか、家の仕事がまだ残っているのに」


「お持ち帰りしましたの」


「へ?」


「お持ち帰りしましたの」


にこやかに、なんの悪ぶれもせず、衝撃的な内容の言葉を二回言い放つ


「おおおお持ち帰りってなんで、人さらいじゃないですかそれ!」


「人さらいだなんて、心外ですわ。白徒教の聖女がそんなこといたしませんわよ。ちゃんと親御さんともお話はついていましてよ」


胸元から一枚の丸めた羊皮紙を取り出しロイへ渡す。

そこにはロイは白徒教に親権を譲り、今後両親はなにがあっても関わらないというような内容が書かれていた。


「えええ、なんで父さん。こんなこと許しちゃうんだよ」


「泣いて喜んでいましたよ」


「金、かぁ」


がっくりと首をうなだれて大きなため息をついた。


「お察しが良いですわね。さすが賢者様」


とても裕福とは言えない、日々の生活費を薪を売って賄っていたロイ家族は、おそらく法外な金額を提示され大喜びでロイを差し出したのであろう。


「まったく、息子を金に目がくらんで簡単に手放すなよなぁ」


また大きく溜息をついて、心を落ち着かせる。


「事情は分かりたくないけど分かりました」


「ご理解が早くて助かりますわ」


一息ついたところで今の状況に目を向ける


「ところで僕はどこに連れていかれるのですか」


「王都にある白徒教本部に参りますわ。そこで賢者様の力の使い方をお教えいたします」


時間がかかってしまい申し訳ありません。

次話も気長にお待ちいただけるとたすかります。


カノンさんお気に入りキャラなので書いてて楽しかった。

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