第四十八話 日常の楽しさ
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最近、百希はすごく幸せそうだ。今日だって彼女はコーヒーに砂糖をたくさん入れている。彼女が楽しいときは大体甘いものがセットだ。時刻は早朝まだ太陽が地平線の下にあって薄っすらと明るい。
「君といると楽しいね。僕、本当にそう思うんだ。」
「百希って俺のどこが好きなの?」
正直に言えば俺は非常に不誠実なことしかしていない。散々好意を示されていたのに他の人も好きになって……悪いことだとは分かってはいるが結局続けている。
「……君が僕の思い通りにならない所かな。何でも叶う僕らにとって叶わない物こそ何よりも価値を持つ。」
「もう叶ったと思うけど……。」
「それもそうだね。」
百希はゆっくりとコーヒーを飲んでそれからまだ眠っているミーラとアイスを見た。
「ねぇ、百希。百希はどうか分からないけど、俺はこの世界のことが好きだし、ここに来てよかったと思う。」
「……僕もレベルⅣ多元宇宙からここが選ばれたのは偶然では決して無いと思う。たくさん回り道はしたけど僕らは幸せをここで見つけたからね。」
「急に知的になったね。」
「……馬鹿、せっかく良い雰囲気だったのにさ。」
そんな風に話しているとかたわれ時が終わる。ここまでの早起きは久しぶりだ。朝日に照らされた百希のサイドテールがきれいで見惚れてしまった。
「今、君かわいいって思ったでしょ?」
「かわいいというよりは綺麗かな。」
「……ありがとう。」
百希は綺麗と言われたからか微笑む。初めて彼女を素直に褒められた気がする。ただその後彼女は何か思いついたのか俺にこう言ってくる。
「……散々僕が君の好みの服とか髪型を試行錯誤したのに君が何にもしてないのはおかしいと思わない?」
「つまり?」
「僕が君をオシャレにしてあげるよ。」
俺は急いでこの場から離れようとする。考えないでも分かる、絶対に長くなる。もしそこにミーラやアイスが参戦してこようものなら終わりが見えなくなる。それだけはなんとしても避けたかった。
しかし百希は俺のそんな行動を予測していたのか足を引っ掛けて俺を転ばせる。
「君も一回やれば楽しさが分かるよ。」
彼女は俺に馬乗りになってそう言う。
「百希、話せば分かる。」
「問答無用。」
当然の帰結だが少し一連の言動がうるさかったのかミーラとアイスが起きる。あれこの状況って……。しばらくの沈黙の後でこう言われる。
「「何してる(のよ!?)(んですか?)」」
俺は現実逃避した。
帝国と東の大帝国この両国の戦争はいよいよ終盤になっている。帝国軍の質は時代を一つか二つ先取りしているが内戦もあってあまり兵数は多くない。メラージ家の支配下にある全ての国を合わせても足りない。リベレは決戦で何とかする気のようだが少し心配だ。
「ユータ……その、謝るわ。だから許して。」
「何を?」
「だって、さっきから全然話してくれないし……。散々百希さんの記憶の件を邪魔したことを怒ってるのよね?」
アイスは何を言っているんだろう。彼女がプライベートビーチに誘ってくれたからパラソルの下で百希とミーラが遊んでいるところを見ていただけだ。
「俺のことを思っての行動だったし怒ってない。言うべき事を言ってくれるアイスには感謝してる。」
「たとえ恨まれても、とめるつもりだったのに……私の負けよ。」
本当に優しいのは彼女のような人だと思う。恥ずかしくて彼女の顔は見れなかったが俺はそっと彼女の手に自分の手を重ねる。
「……ユータ、泳がないの?」
「いやせっかくだし船で遊ぼう。シー・アーク・ドーントレス哨戒艇召喚。」
少し沖に哨戒艇が現れる。それに気づいたのか百希とミーラも遊ぶ事をやめてこちらに駆け出す。
「やっと君も遊ぶ気になったの?」
「うん、船に乗ろう。」
その言葉を聞いて笑顔になったミーラが俺の手を引いて海に駆け出す。しかし波打ち際で二人とも止まってしまった。
「確かミーラさんは泳げなかったわよね。」
「……そうでした。」
「心配しないでいいわよ。」
……実は俺も百希も泳げない。それなのに沖に召喚してしまった。そんな事を考えているとアイスがみんなを浮かばせて運んでくれた。俺は彼女にお礼を言って意気揚々と運転席に座ったが俺にはもう武器使役のスキルが無かった。
「あなた、運転しないんですか?」
「もう出来なかった……。」
「僕が代わろうか。」
百希がそう言ってくれたから俺は席を譲る。百希が少し悪そうな顔をしていたけど彼女の事は信用している。
「フルスロットルで進め!」
風を切る速さとはどういうものか実感できる。
船を止めて他の遊びをしようかと考えているとミーラが海を覗き込んでいて危なっかしいので声をかける。
「ミーラ、何見てるの?」
「お魚さんがあそこにいるんです見えますか?」
彼女は海の中を指差しながら言う。
「……見えないけど。」
「ほらそんな君にプレゼント。」
「まさかこれで釣れと?」
百希は俺に釣り竿を渡してきた。俺は早速準備をして釣り糸を垂らす。
「君は釣りが上手だからね。」
「そうなんですか!?」
ミーラが期待した目でこっちを見るから全然やったことがないと言えなくなってしまった。こ、これは釣るしかない。
多分、百希は魚釣りとは言ってないとかそんな落ちなのかな。突然竿に重さが加わる。
「かかった。」
ミーラが嬉しそうにこちらを見ている。ただ思ったより力が強くじりじりと俺が追い詰められてゆく。百希が俺を助けてくれるが互いに身体的スペックが低いからあまり事態は好転しなかった。
「私も手伝います。」
「ありがとう。」
ミーラが手伝ってくれて互角になった。これなら行けるかも……。そう思った矢先だった、彼女のしっぽがくすぐったくて力が入らなくなった。
バシャンという音がして俺とミーラが海に引きずり込まれる。不幸中の幸いにも怪我はしていなかった。俺は泳げないからミーラに助けてもらおう。そう思って彼女の方を見ると彼女も溺れていた。ソウダッタミーラモオヨゲナカッタ。
「ミーラ、大丈夫!?」
「たしゅけて……。」
「gravitate」
……助かった。ミーラの目が回っていてふらふらしているから俺は彼女を支える。
「二人とも水は飲んでないわね?」
俺とミーラはうなずく。
「なら良かったわ。後は任せてくれるかしら?」
彼女は得意げにそう言った。流石Sランカー、俺のスキルも百希と分割して弱体化したしもう単身では彼女に勝てない。百希にもミーラにも勝てなくなった。喧嘩しないようにしないとな……。
結局、アイスがスキルで捕まえてくれた。今は焚き火の周りにみんなで座っている。あたりは暗くなって綺麗な星空が見える。さっき濡れた服もようやく乾いてきた。
「百希さんって料理上手ですね。私感激しました。」
「えへへ……。僕もやれば出来るのかな?」
月明かりと焚き火では対して明るくない、みんなの事はよく見えない。夜が一番良い。多分、夜ではみんなも俺のことを気にしないはずだ。ただ俺は満月を眺めていた。
「君も美味しいって言ってくれたし良かった……聞いてる?」
「聞こえてないわね。ユータ何見てるのよ。」
ミーラが俺の肩を叩いて意識をこちらに戻す。
「あなた、何を見ていたんですか?」
「僕分かった幽霊がいたんだよ。」
「や、やめなさいよ。」
アイスが引きつった表情で否定しているから面白かった。あぁ、いつの間にか互いの顔が見えるくらい距離が近くなっていた。
「それで、君は何を見てたの?」
「……ごめん、月がきれいだったから。」
この言葉で百希が顔を真っ赤にして何も言わなくなったから気づいた。そういえばそんな裏の意味もあった。
「待って……別に深い意味はなくて……。」
「どんな意味があったのよ?」
「私も知りたいです!」
……もっと考えて発言すれば良かった。




