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77.二人一組

Mon dieu(おお、神よ)! かの(つるぎ)へ光あれ!」


 シャルロットが両手を開くと、眩いばかりの光が溢れだし十郎の持つ小狐丸の刀身へ吸い込まれて行く。

 あの術はどうやら物装……つまり術による物体強化の一種だろう。

 

「ジュウロウ様の剣へ聖なる力を注ぎこみました。聖属性で滅せぬ魔はありません」

「ありがとな! シャル。俺も小狐丸へ触れないようにしねえとな……」


 ついついいつもの癖で肩へ小狐丸の峰を当てようとした十郎は、慌てて刀身を下段の位置に戻す。

 

「シャルロット、その魔術はどれほどの効果時間があるのだ?」


 肝心なことを聞いておかないのが十郎だ。だからこそ、私が先に捕捉しておく。

 

「わたくしが魔力を注ぐことをやめない限り持続します」

「それだと、MPの負担が心配だ」

「問題ありません。MPの消費は僅かですから。もっとも……発動にはMPをそれなりに消費しますが……」

「分かった。十郎、ちゃんと聞いていたか?」


 十郎は声のかわりに右手をあげて、了解の意を示す。

 

 私たちが参議への対策を練っている間に何もせず待っている二人ではなかった。

 彼らも彼らで動きを見せる。

 

 十郎が距離を取った隙に参議は大きく後ろへ下がると、蔦でがんじがらめにされている左大臣へ手を伸ばす。

 蔦が参議の手に触れると、触れた部分の蔦が跡形もなく消失した。


「術障壁か……?」


 私の独り言が聞こえたのか、参議が得意気に応じる。

 

「いかにもオ、我が手で消せぬ術はないのでス。ね、九条様」

「そうであルなあ。参議よ。予想以上にやルではないか。我々も本気でかかるトしようか」

「元より我らは二人一組でこそ真価を発揮スるのですよ」

「うむうむ。ちょいと捻ってやるかノお」


 また変な芝居がかった大げさな仕草でやり取りを行う左大臣と参議。

 

「なら、二人まとめてぶった切ってやるまでだ!」

「ならば妾は十郎の支援に回ろう」


 二人の元へ一息に駆け始める十郎に対し、リリアナは大きなルビーが尖端についた杖を体の前にかざす。

 

セーヴ(樹液)バレット(弾丸)!」


 最初に動いたのはリリアナだった。

 彼女の力ある言葉に応じ、空に琥珀色の握りこぶしほどの塊が大量に現れる。彼女が杖を下へ降ろす動きにあわせ、琥珀色の塊が勢いよく左大臣と参議へ飛んでいく。

 しかし、参議が両手を掲げるだけで彼から一メートルほどのところで全ての琥珀色が消滅してしまった。

 

「もらった!」


 両手をあげる隙を見逃す十郎ではない。

 十郎は斜め下から斬り上げるべく小狐丸を構えたまま、勢いよく参議の懐へ飛び込む。


「残念無念ダよのお。十郎だったカ?」


 左大臣は人を小ばかにしたような呟きと共に、手のひらから魔の力を走らせる。


「な!」


 まさに参議を斬り伏せようと腕を動かしたその時、十郎の体が足元からくるりと回転するように空へと「落ちて」いく。

 まるで地面が反対向きになったかのように。

 

 これにはさすがの十郎といえ、どうすることもできなかった。小狐丸を離さぬよう握りしめるのが精一杯といった様子だ。

 そこへ、参議がすくいあげるように鬼棍棒を振るう!

 

 ――ドガッ!

 鈍い音が響き、十郎は小枝のように吹き飛ばされた。

 彼はそのままとても奇妙な軌道を描きながら櫓の中ほどへ激突し、地面へ落ちる。

 

 十郎がまともに打撃を受けたことより、飛ばされた軌道の方へ驚きを隠せない。

 あの力場? といえばいいのか。左大臣が作り出しただろう力場の中では空と地が反転する。

 一方で参議と左大臣は反転の影響を受けず空へと落ちて行くことは無かった。となれば、あの術は対象を限定するものだ。

 そして、鬼棍棒に打たれた十郎は、あの力場を通常の空間として表現するなら跳躍したところを頭から打ち付けられるように鬼棍棒を喰らった。

 なので、空へと勢いよく落ちて行きつつ吹き飛んでいったのだ。しかし、二メートルほど行ったところで今度は逆に地面へ向かう軌道に変化した。

 

「射程距離は左大臣から六メートルくらいか」

「そのようじゃの」


 私と同じ結論へ至っただろうリリアナが同意する。

 

「しかし、厄介じゃの。術は無効化され寄ると空へ『落とされる』」

「剣圧や矢も同じだな。空へ落ちると思うぜ」


 結構なダメージを負っただろう十郎は、いつの間にか私の横まで戻って来ていた。

 彼は自分の意見を述べるやいなや、シャルロットより前に出て再び左大臣と参議の二人と対峙する。

 

「晴斗。お前さんなら妙案が浮かぶかもしれねえが、ここは俺にやらせてくれねえか?」

「貴君がこのような場で我を通すなど珍しい。分かった」


 十郎はいの一番に敵へ斬りかかるが、厄介な敵と相対する場合は必ず私と意見をすり合わせていた。

 それが、「任せろ」と言ってきたのだ。彼に何か秘策があるとみて間違いない。


「ありがとな! 覚悟かいいか? お二人さんよお!」

 

 十郎は小狐丸を背負った鞘へ戻し、前へ一歩踏み出す。

 

「まタ、叩き潰してやル。今度は力を受け流させたリはさせぬゾ」

「十郎の次は、生意気な禁忌を犯した陰陽師……次は女どモだ」


 参議と左大臣は下碑た薄笑いを浮かべつつ、お互いに顔を見合わせた。

 さらに左大臣は、こちらを挑発するように人差し指をクイクイと折り曲げる。


「まあ、まともに攻撃を当てられたら俺もただではすまねえな! が、それはもうねえ!」


 十郎は膝を落としぐぐぐっと脚へ力を込めた。彼が膝を伸ばした瞬間に爆発的な速度で二人の元へ迫る。

 対する二人のうち左大臣はまたしても両手を前に突き出し、手のひらから魔の力を走らせた。

 

「黙っテ、見ているだけではなイぞ。小童」


 左大臣の言葉が終わらぬうちに、 参議と十郎を遮るように高さ五メートルの鉄の壁が出現する。

 鉄の壁は鋭いトゲが多数ついており、そのままぶつかればただではすまないだろう。

 

 しかし――。

 準備していた術を発動する。

 

「十郎。そのまま進め! 六十五式 激装 破城」

「ハナからそのつもりだぜ!」


 札から赤色の光が沸き立ち、鉄の壁が塵と化す。

 破城は壁を壊すための陰陽術ではない。術自体を解体し無効化するための術である。

 とても都合のいい術に思えるが、そうは問屋が卸さない。どのような術にも得手不得手があり、万能なものなのないのだ。

 破城は「物質化」した術の解除以外行うことができない。本来の一番の使いどころは「式神」を消し飛ばすためにある。

 

 勢いを止めぬまま十郎が参議へ肉薄――。

 しかし、左大臣の天と地を反転させる術で体が反転し足が地面から浮き上がってしまう十郎。

 

 その時、彼は体を丸めると小狐丸を引き抜き、反転する勢いを全て刀を振るう力に変え頭上から空へ向かい小狐丸を斬り上げた。

 一方で今度こそ息の根を止めてやろうと鬼棍棒を握りしめ振り上げる機を伺っていた参議は完全に不意をつかれる形になる。

 

 ――ズバアアア!

 参議の股下から頭の先までを小狐丸が真っ直ぐに切り裂く!


「ぐがああああアアア!」


 参議の絶叫が響き渡る。

 聖なる力を宿した小狐丸は今度こそ参議へ致命傷を負わすことができたようだ。

 その証拠に二つに分かれた参議の身体は、端の方から黒い霧へと変質していっている。


 今が左大臣を仕留める好機!

 袖を振り、札を指先に挟む。

 

 ――心を水の中へ……。深く深く瞑想し、自己の中へ埋没していく。

 その時、リリアナの声が耳に届いた。

 

「最大出力じゃ、重ねてくれい。ハルト!」

 

 「了解だ」心の中で了承の意を示し、術を構築していく。

 私の身体からぼんやりとした青白い光が立ち込め……目を開いた。


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