手紙が結ぶその先は
少し落ち着いてきたので、涙をぬぐいながらこれまでの手紙を読み尽くし、ここ最近の分も読む。
『ユリ、あなたに会いたい。もし会うのを許してくれるなら、この腕輪をつけてほしい』
「……腕輪?」
キラキラ光る石がついた細身のブレスレット。なにやら、向こうの言葉で文字が書いてある。
これもなぞれば解読されるのかな?と思ったけど、意味なんてわからなくても、その手紙への返事は決まっていた。
わたしも会いたい。
他の手紙を握りしめて、迷わずに腕輪をはめた。
ーーパキンーー
何かが弾ける音がしたかと思うと、突然浮遊感に襲われた。
床が、割れた!?
「きゃ、あぁーーーっ!?」
例えるならジェットコースターの頂上から一気に下に降りた時のあのお腹の底が持っていかれる感じ。
恐怖にぎゅっと目を瞑っていたら、急に足が地面につき、たたらを踏んで転んでしまった。
「………ったぁ……!」
腕輪!腕輪が壊れていないか慌てて起き上がり確かめる。
と、気付けばどこかの部屋の中だ。
洋風の本棚にはびっしり本があって…
ん?飾ってあるあれは…
「………ユリ?」
「へ…?」
背後から柔らかなアルトボイスが聞こえて振り返ると、窓からの陽光を背に立っていたのは、長い銀色の髪に深い紫の瞳を見開く信じられないほど美しい男性だった。歳は若そうだけど私の少し下ってところかな?
なにこの人、モデル?
長いローブを着て魔法使いのコスプレみたいな。某テーマパークでしかみたことないよ。なんかの撮影?
「ていうかわたし、部屋にいたはず…何これ腕輪しただけなのに」
「腕輪?……ちょっと見せて」
いつのまにか至近距離にいたその人は、わたしの返事も待たずに手を取り、腕輪をまじまじ見る。さらりと長い髪が光を反射しながらわたしの手にかかり、擽ったさに身をよじる。
「うん、うまくいったみたいだね。ユリ、何が起こってるかわかる?」
「はい?えっと、いやわかってない…かな?というかすみません、ここはどこで、あなたは誰ですか?」
手を握ったまま柔和な笑みで聞いてくる青年を訝しげに見る。というか手を離してほしい。
「僕はフェイだよ、ユリ。手紙が来なくなったから、何かあったかと思っていた。だから会いたくて必死で魔道具を作ったんだよ。いやぁー自分で言うのもなんだけど、さすが、トパレスタイル王国一の魔導師」
ーーーー妄想と吐き捨てるには、その目があまりに透き通っていて、その声は存外に心地よく響き、頭の中にあったピースがかっちりハマった気がしたせいもある。
魔力、魔法、その単語をついさっき見た。
あの手紙で。
「え、これ現実?ドッキリじゃないよね、よくラノベである異世界転移?ほんとに?」
混乱しかないし、なぜ自分がこうなってしまったか見当も付いてない。
「腕輪をしてくれたってことは、いいんだよね?」
「な、なにがですか?」
フェイと名乗る青年は握られたままの手を口元に持って行き、あろうことか口付けた。
「!?!?!?!?」
一気に顔が熱くなり、はくはくと口を開閉するばかりで言葉にならない。
「ふふ、真っ赤。可愛い。想像以上だなぁ。」
蕩ける表情で私の黒髪の先にチュッと音を立てる青年は何のつもりだ!?
「ちょちょ、ちょっと待ってください、なんなんですか!?腕輪は貴方が作った物っていうのは察しました。あの、あの手紙の相手は貴方なんですか!?儚げな美女は!?」
儚げな美女?とこてんと首をかしげる姿は間違いなく美しいけれど。
「女だと言ったことはないよ。それに、そばにいて欲しいから、この世界で共にいてくれるなら腕輪をつけてって書いたよね?」
「いやいやいや、会うのを許してくれるならって書いてましたよ!」
「その手紙、もう一枚あるよ」
手元の手紙をずらすと、もう一枚紙が出てきた。
あーーーーっほんとだーーーーー!!!!
「マジか本当に書いてある…え、これ、もう私帰れないやつ?!」
「言うことや感覚がものすごく好みの女の子が、見た目も好みだったらもうそれは仕方ない。ねぇ、手元に愛でる花があると心が安らぐんだよね?ユリ。僕がずっと君が幸せであるように守る。だから、ずっとそばにいてくれませんか?」
慌てるわたしをまるっと無視してそれはそれは嬉しそうに美青年…フェイが跪いてそんなことを言うから。
なんかもういいか、と思ってしまった。
だって、自分だけに向けられたこの笑顔に、満たされてしまったんだもの。
肩の力が抜けたわたしは大きく頷いて、笑った。
空っぽの心を埋めたのは、
言葉と思い、未来の約束。
手紙の相手が運命の人っていうのは、
どうやら本当だったみたい。
お読みくださりありがとうございます〜
あと後日談的なものちょいとあげるかもしれません。
では、また他の作品でお会いしましょう……