第1話:部署ごと異世界に召喚された
新連載です。よろしくお願いします。m(__)m
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佐藤が目が覚めたのは、壁も床も真っ白な石造りの部屋だった。
──どこだ、ここは?
よく見ると壁には複雑な彫刻が施されている。そして木製の重厚な扉にも、同じように彫刻がなされている。まるで中世ヨーロッパのお城みたいだ。
そして同時に視界に入ったのは、俺が勤務する企業、株式会社ジャパンAIファクトリー総務第三課のメンバー3人。
──自分も含め、4人を拉致したのか。
そんな離れ技をやってのけるのは、どこのどいつだ?
素人の3人はいざ知らず、秘密工作員として訓練を受けた自分をこともなげに拉致するなど考えられない。いったいどんな手段を使ったのか。
とりあえず大事な鞄は手にしたままだ。
取り上げられなかったようで安堵する。
「成沢さん、大丈夫?」
「うん、だいじょーぶ。心配してくれてあんがとね佐藤君」
「おいおい佐藤。俺のことは心配してくれないのか?」
課長がウザ絡みしてきたが面倒なのでスルーする。
その時物々しく扉が開き、赤いロングヘアのえらく美しい女性が現れた。
神話に出てくる女神のような白いドレス姿。歳は10代後半に見えるが、それにしては胸の発育が良い。
頭にはティアラ、手には複雑なデザインが施された、大きな杖。
ギャル沢がつぶやいた。
「コスプレ……?」
確かに。もっともな反応である。
「ようこそパウロ伯爵家へ。わたくしはフローリア・パウロ。あなた達をこの世界に召喚した者ですわ」
確かに貴族っぽい高貴な顔つき。だが表情は固く、話し方もつんつんした感じだ。
「は? お姉ちゃん。何かのイベントか?」
課長が発した疑問はもっともだ。佐藤も同じことを思う。
「いや課長。これは異世界転移ですよ」
奥田はさも当然のように言ったが、課長も佐藤も異世界転移がなんのことかよくわからない。
フローリアと名乗った貴族令嬢は、クールな表情のまま話を続ける。
「この召喚魔法は、元の世界での特徴に応じて特別なスキルが付与されますの。あなた方の得意な仕事を口にしてください。決して嘘はつかないように。神のご加護の元、その言葉が真実か否か、能力鑑定がなされるのです」
「へぇ、そういうアトラクションか。面白いな。じゃあ俺は、みんなの中心に立って、みんなを鼓舞して、目立つ仕事をするのが得意だ」
まあ、嘘ではないなと佐藤は思う。仕事のレベルが高いかどうかは別だが。
「わかりました」
フローリアが杖を掲げると、先からまばゆい光がほとばしり課長の全身を包んだ。
「そのような貴殿の特徴を神が分析し、与え給う職業は【勇者】、付与スキルは……【身体強化】!」
光が止むと、なんと課長の服装はまったく別物に変わっていた。
「なんだこれ!? 服装も変わったし、身体に力がみなぎるぞ。どんな手品を使ったんだ?」
腕や足に装甲。背にはマント。手には立派な剣。まさに勇者のスタイル。
「おお……神の思し召しで、勇者が出ました。これは素晴らしいですわ……」
フローリアのクールな表情が少し緩む。
「へぇ、勇者って、超イケてるじゃんカチョー」
「そうだろそうだろ」
貴族令嬢は、次に奥田に目を向けた。
「では次はあなた」
「そうだな……僕は、色んな知識があることだな。細かな知識まで得るのが好きでたまらん」
「つまりオタクだよねぇ~オタク先輩」
「黙れギャル」
フローリアは杖を振った。また光がほとばしる。
「そのような貴殿の特徴を神が分析し、与え給う職業は【賢者】。付与スキルは【世界図書館】……!」
賢者というイメージにふさわしく、白のフード付きローブと手には分厚い書物が現れた。知的な雰囲気を醸し出している。
「おおーっ、なんだこれは。頭の中にこの世界の知識や情報が流れ込んでくるっ!」
「我が領地にある図書館で一般公開されている全ての書物。そこに意識でアクセスできるスキルですわ」
「すげぇっ! これ、手品とかアトラクションとかじゃないぞ。僕たちホントに異世界転移したんだ!」
「なに言うてんの、オタク先輩」
「キミも付与スキルもらったらわかるよ」
「そうですね。では次はあなたです」
ギャルに目を向けるフローリア嬢。
「ん~あたしの一番得意な仕事は、コピー取りだねー! あとはみんなの気持ちを癒すこと!」
──なんだそれは。
と、佐藤は思った。
成沢はお世辞にも仕事が優秀とは言えない。だけど確かに、コピーを取るのは得意だ。
ミスなく手早く、コピー機を上手に使いこなす。そして綺麗に書類を整えるのも上手い。
本人なりに誇りを持っているのだ。
そして明るいキャラで、皆の気持ちを癒してる。それも間違いない。
「そのような特徴を神が分析し、貴殿に与え給う職業は【聖女】。付与スキルは【複写】!」
「あたしが聖女? ウケる! ──にしても付与スキルの効果とか、全然わかんないんだけど?!」
ケララと笑うギャル。しかもスキルが複写って……。周りも爆笑。
服装は白をベースとした清楚なイメージな聖女スタイルなのに、茶髪で派手なメイクがミスマッチすぎる。
「あなたのスキルは、どんなものでも1日1回だけコピーできる能力ですわ」
どんな使い道があるのか、誰もがよく分からずきょとんとしている。
「それでは最後にあなたです」
クール美女に目を向けられた佐藤は考える。
──さあ、なんと答えようか?
「得意なことなんて何もないよ」
先ほどから全身の力を抜き、持ちうる能力のオーラを消し、気配を最小にしている。
佐藤が訓練により身につけた「能力隠蔽」という技術だ。
わけのわからないこの世界でどこまで通用するかわからないが、他のメンバーに自分の正体がバレることは避けたい。
彼は極秘任務の遂行のために、株式会社ジャパンAIファクトリーに潜入し、無能社員を演じつつ調査を行っている。だから他の社員に身バレするわけにはいかない。
「はぁ、そうですの……」
フローリアは落胆したように少し顔を歪めた。しかし今までと同じように杖を振り、光が溢れ出る。
「そのような特徴を神が分析し、貴殿に与え給う職業は……【無職】。付与スキルは無し!」
しかも服装は地味なスーツのままだ。
フローリアは落胆したように大きくため息をついた。
「はぁっ……どうやらあなたは、戦いではまったく役に立たないようですね」
「そうですね。たぶん、おっしゃるとおりです」
佐藤は苦笑いを返した。だが心の中で呟く。
──戦いで役に立たない? それはどうかな。
俺には今まで秘密工作員として10年以上極秘任務をこなしてきた技術がある。
だがそんなことをアピールする必要などさらさらない。
そう。俺は現実世界で無能社員を演じていたように、ここでも『無職・スキルなし』を演じていればいいんだ。
いや、そもそも俺は重大な任務を遂行している最中だったのだ。なのに突然こんなところに呼び寄せやがって。いったいどういうことだよ。
佐藤は日本で携わっていたミッションのことに思いを馳せた。




