1.プロローグ
「聞いた?あいつ、とうとう女子に刺されたんだってさ」
高校の廊下。通りがかりのトイレの中から聞こえた知らない女子の言葉に、ドキリとして思わず足を止める。
「えっ?あいつって誰よ?」
「あの2年1組の杉山太一だって」
「あ~っ!!あの調子乗って、いつも女子を何人も侍らせてるあいつ?うわ~っ、あいつなら納得だわ。いつか刺されるんじゃないかと思ってたよ」
「ひどっ!!でも、わかる~。一見、全然もてない人畜無害そうな顔してるくせに、女子を次々とたぶらかしてさ」
「だね~っ、天罰かもね~」
「ちょっと言い過ぎだって~、ハハッ!!」
………そこまで話を聞いたところで目を開けると、窓の外はまだ真っ暗だった。
しばらくぼんやりしてから、ようやく、今いる場所は高校の廊下じゃなく、自分の部屋の暖かいベッドの中だということに気づいた。
夢?またこの夢か……。
同じクラスの男子が刺されたって噂話を聞くという夢を繰り返し見るようになったのはここ数か月の話。
このやけにリアルな夢にうなされた後は、いつも胸がドキドキして眠れなくなってしまう。
「仕方ない……」
わたしは階段を降りて台所でコップに水を注いだ。
台所の窓から師走の新月が見えた。水を飲みながら月を見ているとようやく落ち着いてきた。
それにしても、なんで同じ夢を何度も何度も見るんだろう?
しかも、同じクラスのあの杉山くんが女子をハーレムのように侍らせて刺される?
まさか……そんなことあるはずない。
あの、地味でパッとしなくて、女子どころか男子の友達すらほとんどいない、あいつが、ハーレムみたいに女を侍らせて、調子に乗って女子に刺されるなんてあるわけない……。




