檻の中で絶望していたあなた
ーーどうして、こうなったんだろう。
足に深い傷を負った少女、アイラは朦朧とする意識の中、考える。
今、彼女がいるのは牢屋の檻の中。
何年も掃除などされていないのだろう、床には埃が薄く積もっており、壁には不気味な赤黒い染みが幾つも付いていた。
ここは王国内の牢屋の中でも特に恐ろしい独房で、大抵の罪人は、正気を保てずに1ヶ月を待たずに死亡したという報告が相次いでいた。この独房は、殺人や王族への反逆罪といった大罪を犯した罪人しか入れられることはない場所である、ーー本来ならば。
アイラには、第二皇女暗殺未遂の疑いがかけられていた。先に断っておくが、アイラは潔白である。それでもアイラが捕らえられたのは、明確な証拠は無かったものの、不気味なほど状況証拠が揃いすぎていたからである。同時に体調不良を訴えた第二皇女の専属メイド達が前日にアイラとお茶を飲んでいたと証言したこと、メイド長がアイラの立候補により専属メイド代理として命じたと証言したこと、そして、なぜかアイラの机の引き出しの中に入っていた毒薬。
『嵌められた』ーーそう思った時にはすでに遅かった。
ここに閉じ込められてから、すでに3日は経過している。初日に渡されたわずかな食料も尽きてしまった。
目の前に審問官が来て、謂れのない罪状を読み上げられた時には、もちろん、自分じゃない、話だけでも聞いてほしいと必死に頼み込んだ。しかし、本来なら開催されるはずの裁判すら開かれず、弁明の機会など無かった。その上、この牢屋へ運ばれる時も、足に重い鎖がついていたため、歩くのに手間取っていたアイラは、兵士に「歩くのが遅い」という理由で散々足を殴打された。
ーーどうして、いつも私は幸せになれないのだろう。
そんな思いが胸中に広がってゆく。
気にしないように努力してきたけど、生まれてからずっとこんなことばかりだ。子どもを所有物としか思わない両親、売られていく兄弟達、大の大人でも嫌がる長い重労働、体調不良と言っても休ませてくれないメイド長、仕事のミスを押し付けてくる意地悪な先輩メイド達...
この15年間、どんなに辛くても真面目に生きてきた。それなのに、良かったことなんてーーあぁ、一つだけあったっけ。優しくしてくれたあの子にもう一度だけ会いたかったな...。でもきっと自分はここで死ぬのだ。今日か明日あたりには、きっと。
そう思うと、全てがどうでもよくなった。瞳に深い絶望と諦めの色が落ちる。
もう、疲れた。今はただ、静かに死なせてほしい。
それだけを望み、そっと目を閉じた。




