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あっと!ヴィーナス!!  作者: 神崎理恵子
ヴィーナス編
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第一章 partー7

「さて、みなさん。恒例というか自己紹介をお願いしますね。出席番号順にしましょう」

 と言いながら出席簿を広げた。

 出席順だったら、弘美は相川だからいつも一番に呼ばれるはずだった。

 しかし……。

「相田康平君」

「はい」

 と呼ばれて立ち上がる相田君。

 はーっ……、とため息をつく弘美。

 どうやら男子から女子の欄に出席を移行してあるみたい。

 ヴィーナスに手抜かりなしか。

 やがて男子が終わって、女子の番となった。

「相川弘美さん」

 やっぱりね……。

 ちょっと悪戯してみたくなった。

「俺の名前は相川弘美だ。つい昨日の朝まで男をやっていた。こんなことになったのはそこにいる女神奇麗とか言う教師のせいだ。実は信じられないだろうが、ヴィーナスという女神で男から女の子にされてしまった……」

 とここまで言いかけて異様な雰囲気を感じて、言葉を飲み込んだ。


 自分の声以外何も聞こえないのだ。


 生徒達のざわめき、運動場からの体育の掛け声、窓際に茂っている木々の風にそよぐ音。

 一切が消えていた。

 しかも教室を見回してみると、生徒達さえも動きを止めていたのだ。

 鼻くそをほじくっている生徒。

 背中がかゆいのかシャツの襟から手を突っ込んでいる生徒。

 髪の毛の手入れに余念がない生徒。

 あくびをして大きく口を開け、手で隠している生徒。

 みんな固まったまま微塵も動かない。

 自分のまわりだけが時間が止まっていた。

 すべてヴィーナスのせいか?



「あなたの魂胆なんかみえみえですよ。わたしを誰と思ってますの。女神なんですからね」

「心を読んだな」

「何かをやらかしそうな感じがしましたからね。それにそんな事しても無駄です。また記憶を消せばいいことですから」

「どうして時間を止めた?」

「あなたにいいようにさせないためです」

「おまえにそんな能力があったのか?」

「わたしには時間を操ることはできません。時間を管理しているのは時間管理局のディアナです」

「なのになぜ?」

「ディアナから授かったこのイヤリングのおかげです。これが時間を一時的に止めるスイッチになっています」

「そのイヤリングを使えば、あたしにも時間を止められるのか?」

「それは不可能です。女神の持つアイテムを使用するには、女神エナジーが必要なのです。盗んでもしかたありませんよ」

 ちぇっ、見透かされたか……。

「それにしても何で教師になってまで、どうして俺に付きまとう? 女の子に戻したらそれでいいじゃないか」

 弘美はあえて男言葉で詰問した。

「それはあなたの心です」

「こころ?」

「今しがた男の子のように振る舞った、そういう態度を改心させるためにここにいるのです」

「どういうことだ?」

「身体の方は女の子に戻しましたが、心の中までは女の子にすることができません。ですからあなたが間違った方向、つまりわざと男の子のふりをするような事のないように監視しているのです」

「余計なおせわじゃないのか?」

「わたしは、あなたを身も心も美しい真の女性に生まれ変わらせるためなら、天空の狭間の虚無の世界に落ちてもいいわ」

 ほんとかよ!

「じゃあ、落ちろよ。真の女性になってやるから」

「うそよ」

 あのなあ……。

 女神が嘘をついていいのかよ。

「いいに決まっているじゃない」

 心を読むなよ。

「勝手でしょ」


「あーっ! もう、うっとおしい」

「どうしたの? 弘美ったら大きな声をだして……」

 え?

 愛ちゃんが心配そうに覗きこんでいる。

 あれ? いつの間に戻ったの。

 ヴィーナスもいないし。

「ホームルーム中ずっと居眠りしているなんて度胸がいいわね」

「居眠りしてた?」

「女神先生、可哀想だから寝かせておいてあげましょう、っておっしゃってさあ。やさしい先生だよね」

 どこがじゃ……。

 それにしても……。

 もしかしたら、時間を止めたのではなくて、眠らせて意識に直接語り掛けていたのではないだろうか。

「弘美に愛。一時限目は、音楽だよ。そろそろ教室移動しなくちゃ遅れちゃうよ」

「わかった、弘美行こう」

 と手を引く愛ちゃん。

「待ってよ。教科書と笛……」

 まあ、なんにせよ……。

 クラス全員は、あたしを女の子として認知していることが判った。

 この時点で相川弘美は、栄進中学の女子生徒として、学校生活には何不自由しないことが理解できた。まずは一安心だ。


 さて音楽と言えば、リコーダーと歌。

 リコーダーはまあいいとして、問題は歌だよね。

 自分の声を出さなければならないから恥ずかしいな。

 自分自身の声というものは、人の耳にどのように聞こえているか、自分では理解できるものではない。

 例えばテープレコーダーなどに録音した自分の声を聞いて、『この声、ほんとに自分?』と、感じたことのある人は多いだろう。しかし他人がその録音を聞けば、間違いなくその人の声だと言う。

 みんなは可愛い声だという。

 でも自分じゃ判らないんだよね。

 MDプレーヤーがあるから、今度録音して聞いてみようっと。


 ぞろぞろと女の子が連れ立って音楽室へ移動する。

 女の子というものは、何事にも仲良しグループで行動することが多い。

 そのメンバーは、双葉愛、西条明美、新川美奈、そして弘美の四人。

 これがヴィーナスの選んだ仲良しグループというところだろう。

 他愛のない話をしながら廊下を歩いて音楽室へ。


 でもって現われた音楽教師がこれまたヴィーナスだった。

 いい加減にしろよ。

 と言いたくなった。

 しかしながらもピアノ伴奏する腕前は、本物だった。

 意外だな……。

(神に不可能はないの)

 意識を操作してそう思わせてるだけじゃないか?

(ピアノは女神の必修科目なの)

 嘘付くなよ。幼稚園か小学校の教諭じゃあるまいし。

(いい加減にしなさいよ)

 はん!

「それでは相川弘美さん。歌っていただきましょうか」

 え?

「弘美がんばってね」

「弘美の素敵な声を聴かせてね」

 ちきしょう……横暴女神め。

 とはいえ、今は音楽の授業時間だ。個人として歌わせるのは教師の授業采配の一つだ。歌わなければ授業成績に響くというものだ。

 ピアノ伴奏がはじまる。

「♪♪なじーかはしーらねーど……♪♪」

 みんな静かに歌を聴いている。

 うーん。自分の歌声がどんなものか……聴いてみたい気分。

 歌い終わったと同時に拍手喝采だった。

 あ、どもども。

 ちがーう。

「弘美さん。素敵な歌声をありがとう」

 へい、へい。

「それじゃあ、次は……」


 音楽の授業が終わった。

 ホームルームへ戻りながら愛ちゃん達がさっきの歌について誉めてくれた。

「弘美、相変わらず奇麗な声だったわよ」

「そうそう、ほんとうらやましいわ」

「顔も可愛いけど、声も可愛いのよね」

 そ、そうか……。

 て、てれちゃうなあ。

「そんなことないよ。愛ちゃんも可愛い声してたし……」

 そんなこんな話をしながら、廊下を歩いて行く。

 女の子同士、他愛のない話。

 それにしても女の子はどうしてグループを組みたがるのだろうかと思いながら……。


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