第十二話 探索
「真祖様。そのモーリアンさんを助ける為にミドラスと戦えばイイんですね」
人間の姿となったタイラントがドラクルに尋ねる。
タイラントも眷属になる事により、人型に変われるようになったようだ。
ちなみに。
全てのアーマードタイガーはキャスの眷属となっている。
そんな中、タイラントだけは妹の子分になるのはイヤだと駄々をこねた。
その結果、タイラントだけは、ドラクル直属の眷属にして貰っていた。
それ以来、タイラントはドラクルの事を真祖様と呼んでいる。
「手伝ってくれると有難い」
そう答えるドラクルに、タイラントはドンと胸を叩く。
「まかせてください。アーマードタイガーの戦士100人、地獄の底までお供します」
タイラントの言葉に、人間の姿に身を変えた戦士達が一斉に頷いた。
筋肉の鎧を纏った2メートルを超える巨漢ぞろいだ。
よく分からないが、戦闘力の高さが外見に反映されている気がする。
「じゃあ、ミドラス帝国に向かって出発します」
ドラクルの言葉と共に、アーマードタイガーが、猛獣の姿に戻った。
その背中にウェポン族が騎乗する。
もちろん、ウェポン族の移動速度も格段にアップしている。
それでもキャスの眷属となったアーマードタイガーの方が遥かに速いからだ。
「真祖様、どうぞ」
アーマードタイガーの姿に戻ったタイラントが伏せの姿勢をとる。
その背中に飛び乗るドラクルに続いて。
「よしなに」
「よろしくな」
ミウとレオミアもタイラントの背中に乗った。
が。
「よっと」
キャスがよじ登ったトコで、タイラントが不平を漏らす。
「おいキャス、何でお前まで乗るんだよ。アーマードタイガーの姿に戻って自分で走ればイイだろ」
しかしキャスは平然と言い返した。
「ワタシはマスターの第一の眷属だからイイのよ。それに、ワタシに文句があるのならレオミアにも同じ事、言ってみなよ」
キャスの言葉にレオミアが笑みを浮かべる。
「ほう、アタシに文句があるのか。いいぜ、言ってみな」
獣王の迫力に、顔を真っ青にしながらタイラントが必死に取り繕う。
「文句なんかあるワケないじゃありませんかアネゴ! 喜んで運ばせていただきやす!」
キャスはタイラントの言葉にニッと笑って、レオミアとグータッチを交わした。
それをを見てタイラントがボソリと呟く。
「ズルいだろ、それ……」
が、それを耳ざとく聞きつけたキャスが意地悪な笑みを浮かべると。
「何か言った?」
わざわざタイラントに聞いてきた。
「何でもないよ! じゃあ真祖様、出発します」
タイラントは、泣きそうな声でそう言って走り出す。
しかし流石はアーマードタイガー族の族長。
ほんの10分ほどでザンパを見下ろす丘の上に到着したのだった。
「さすが最強の魔獣と呼ばれるアーマードタイガーだな」
タイラントの凄まじいスピードに遅れる事なく付いて来たアーマードタイガー100頭を振り返ってそう呟くドラクルに、キャスが明るい声をかける。
「ミドラス軍の出発にも間に合ったしね」
キャスが言ったように。
ミドラス軍はザンパに展開していた宿営地の撤収作業中だった。
想像以上に早くザンパに戻った来れた事にホッとしながら、ドラクルはこれからの行動を説明する。
「このままミドラス軍に付いて行こうと思います。ミドラス帝国までは1か月はかかるハズ。途中で何回か休憩するだろうから、その度に俺はモーリアンの居場所を捜索します。モーリアンの居場所が判明したら奪還作戦に移るし、分からなかったらミドラスに到着して収容されたトコを奪い返します」
ドラクルは全員が頷くのを確認すると、タイラントに言葉をかける。
「よし、じゃあ距離をとってヤツ等と並走してください。頼みますね」
「任せてください。おい、行くぞ、オレに続け!」
ドラクルから『頼む』と声をかけられて張り切ったのだろう。
タイラントが、アーマードタイガー達に大声で指示を出した。
と言っても、ミドラス軍の進行スピードは人間が行軍するスピード。
つまり歩く速さでしかない。
だからドラクル達の進行スピードもノンビリしたものになってしまう。
その歩みの遅さに、キャスがイライラとグチり始めた。
「ノロいなぁ。もっとサッサと進めないかな」
しかしキャスよりもっとイライラしているのが、レオミアだ。
「まったくだ。もういっその事、このままミドラス軍を皆殺しにしちまおうぜ。うん、それがイイ、そうしよう」
放っておいたら本当に1人でミドラス軍に突撃しそうな勢いだった。
そんなレオミアを、ドラクルが慌てて止める。
「落ち着いてレオミア! ミウが捕まった時みたいにモーリアンを人質にされて降参しろと言われたら厄介だろ」
「その時は尊い犠牲となってもらおう。心配すんな、仇は取る」
ニッと笑うレオミアに、ため息交じりに説明するドラクル。
「それじゃ本末転倒だって。モーリアンを無事に取り返すのが最優先。その時、障害となるなら戦ってミドラス軍を排除する。これが今回の計画だから」
「そうか、人質を奪還してからの方が思い切り暴れられるってモンだよな」
顔を輝かすレオミアに、キャスがドラクルに耳打ちする。
「何か微妙に会話がかみ合ってないよ、マスター」
「奇遇だね、キャス。俺もそう思っていたトコだよ」
そんなドラクルとキャスの肩をパァンとレオミアが叩く。
「なにコソコソ話してんだよ、心配すんな。アタシを信用しな」
ニッと笑うレオミアに。
(笑顔だけは最高なんだよなァ)
そう心の中でドラクルが呟いた、その時。
「真祖様、ミドラス軍が行軍をストップしましたぜ」
タイラントが報告してきた。
軍隊は、日没の1時間前には行動を停止して野営の準備をする。
ミドラス軍もセオリー通り野営の準備を始めたようだ。
それを目にしたドラクルは全員に告げる。
「ここで休憩にします!」
休憩を言い渡したが、魔族と魔獣に、人間のように野営の準備など必要ない。
それ以前にヴァンパイアの眷属には休憩の必要は殆どない。
しかし、それでも食料の調達は必要だ。
だからドラクルは、マサムネとタイラントに指示を出す。
「マサムネさん、タイラントさん、食料の調達をお願いできますか?」
「お任せくだされ」
「勿論でさぁ」
こうして食料の調達をマサムネとタイラントに任せると。
「キャス。ミウ。レオミア」
ドラクルは3人を集めて、今後の行動を説明する。
「日が沈むと同時に俺はミドラス軍の野営地に忍び込んで偵察してくるよ」
そしてドラクルはミドラス軍の野営地に可能な限り接近して身を潜めた。
日が沈んで暗くなったら、もっと近くまで接近できるだろう。
後は蚊に身を変えて偵察するだけだ。
そして日没と同時にドラクルは。
「行ってくる」
その身を無数の蚊へと変えてミドラス軍の野営地へと潜入したのだった。
蚊の飛行スピードは、実は遅い。
そんなスピードは、とても2000万ものミドラス軍を全て調べる事など、できないだろう。
しかし、その正体は。
アーマードタイガー一族とウェポン族と獣王レオミアの力を得たドラクルだ。
つまり獣王に匹敵する速度で飛ぶ事ができる。
その脅威の飛行速度でドラクルはミドラス軍を必死に調べ回った。
ヴァンパイアは強力な攻撃魔法を操れる。
そのヴァンパイアが捕らえられているのだ。
何らかの方法で魔法を無効化していると考えていい。
そして2000万もの戦力を繰り出して捕まえた、不老不死に不可欠な貴重品でもある。
厳重な警備のもと、連行しているハズだ。
だからドラクルは、兵士が厳重に警備している馬車や、特別な造りの運搬車をメインに探す事にする。
しかし相手は2000万人もの超巨大軍隊。
捜索対象が余りにも多くて、この日は見つける事はできなかった。
ドラクルは後ろ髪を引かれる思いで、夜明けと共に撤退した。
そしてマサムネ達と合流し、タイラントの背中に飛び乗ると、ドラクルは全員に声をかける。
「残念ながら、今回は空振りに終わってしまいました。でもミドラス軍が帝国に到着するまでに、何回もチャンスがあると思う。だから長丁場になると思うけど、皆さん頑張ってください」
『おう!』
アーマードタイガー族とウェポン族が、力強い声で答えた。
そしてミドラス軍に見つからない距離をとりながら歩き出す。
まだまだこれからだ、と自分に言い聞かせるドラクルにキャスが抱き付く。
「大丈夫だって。きっとモーリアンさんは取り戻せるって」
大きな瞳でドラクルを見上げるキャスは、抱きしめたくなるほど可愛い。
「ありがとな、キャス」
ドラクルはキャスの頭を撫でる。
「へへ」
キャスが日向ぼっこをする猫のように満足そうな顔で微笑んだ。
と、ミウがそのキャスを押しのけてドラクルに抱き付く。
「拙者も全力でサポートするでござる。ドラクル殿、気落ちせずに頑張ってくだされ」
そう言うと、頭を差し出すミウ。
どうやらキャスにしたように、自分も撫でてくれと催促しているらしい。
「お、おう、サンキュな」
頭を撫でてやると、ミウは頬を赤く染めながら顔をドラクルの胸に埋めてきた。
「ドラクル殿、拙者……」
「はいはいー、今度はアタシの番だよー」
何かを言いかけるミウを、今度はレオミアが押しのける。
「アタシだって頭を……いや、ギュッとしてくれ。ギュッと」
抱き締めてくれ。
そう言っているようだが……。
「それ、ぎゅ~~」
その割には自分からドラクルを抱き締めるレオミア。
(このままだといつまでも放してくれなさそうだな。仕方ない)
というコトで。
「はい、レオミア。ぎゅ~~」
ドラクルが抱き締め返してやるとレオミアがそっと囁く。
「うんうん、人に抱き締めてもらうのは何千年ぶりかな。やっぱイイもんだな」
獣王が歴史から姿を消したのは4000年前。
もしもそれからずっと1人であの渓谷に隠れ住んでいたのだとしたら。
その孤独はどれ程のものだったろうか。
『森』に向かう時の寂しさを思い出すと、レオミアを抱きしめる腕に、つい力が入ってしまう。
そんなドラクルの心に気付いたのかは分からない。
分からないが、レオミアが目を輝かせて顔を近づけて来た。
「ドラクル、アタシその気になってきたぜ。このままヤッちまおうか」
が、そこでキャスとミウが怒鳴る。
「やり過ぎよ!」
「そこまででござる!」
そしてレオミアを押しのけようとするが、レオミアも負けていない。
「1度くらいアタシに譲んな」
「ヤ!」
「これは数の問題ではござらん」
「器が小さいなぁ」
「ソレとコレとは話が別よ!」
暴れ出すキャス、ミウ、レオミアにタイラントがボソッと呟く。
「勘弁してくれよ……」
しかしこの3人に文句など言えるワケがない。
大きなため息をつくと、タイラントはひたすら歩き続けるのだった。
そして2日目の夜もドラクルは、蚊に身を変えてミドラス軍の野営地を飛び回っていた。
昨日はモーリアンが閉じ込められていそうな馬車や移送車を探索した。
今日は指揮官などから情報を収集する事にする。
指揮官は隊の中心にいる筈。
だから、ミドラス軍の中心に建つ立派なテントに忍び込んで、ドラクルが聞き耳を立てていると。
「しかしザンパ領で3日も息抜きをして大丈夫ですかね」
何人かの士官らしき男達が話しを始めた。
「心配いらんだろ。皇帝が目の色を変えて追い求めた高位ヴァンパイアはA級神化兵部隊の護衛で本国に送ったのだから」
(何だと!!)
ドラクルは心の中で絶叫すると、キャス達に怒鳴る。
「やられた! モーリアンはとっくにミドラス本国に送られてたんだ!」
『ええ!?』
驚くキャス達と共に駆け戻ると、ドラクルはタイラントに飛び乗って大声で叫ぶ。
「ミドラス本国に全速で向かう!」
眷属となった者は、どれ程離れていてもマスターの心の声を聞く事ができる。
事情はとっくに理解してるから誰も理由など聞いたりしない。
だから。
アーマードタイガー族は、ウェポン族を背中に乗せると全速力で走り出したのだった。
2020 オオネ サクヤⒸ




