試験小隊
騎士団に入団すると1年間の訓練生期間を与えられる。この期間は騎士団としての職務になれるためにある。訓練生と言っても正式な騎士たちとほとんど変わらいない。座学が週に数回あるのと、特別に戦闘教練などを見てくれる教官が付く程度だ。そして訓練生は本隊とは別の小隊に組み込まれる。試験小隊と呼ばれる小隊であり、その年の入団者を小隊単位に分けるのだ。今年の場合は5〜6人の3部隊。実力の高い者、つまり試験の上位3名を小隊長とするこの小隊は他の騎士と共に野営をしたり巡回をしたりする訓練を行うためにある。小隊長になったものは騎士としての素養のほかに指揮官としての才も見られる。この試験小隊期間は正式配属の際の配属先に大きく影響するのだ。
「第2試験小隊の小隊長かぁ・・・」
僕は一人つぶやきながら第2試験小隊に割り振られた宿舎へと向かう。騎士になってからは非常時でもない限り宿舎で暮らす必要はない。しかし訓練生期間の間に宿舎を使うことに慣れておく必要はあるのだ。しばらく前から両親が不在となっているためこの制度はある意味ありがたかったが、他の訓練生との共同生活がうまくいくかは不安しかなかった。何せ他の訓練生は大体年上で、貴族としての地位も上な可能性が高い。そんなところで隊長をやるのだから不安しかないだろう。今年は平民出身も何人か出たらしいが、だとしても一応貴族である僕のことを目の敵にしてこないとも限らないのだ。
そんなことを考えながら歩いていたらそこはすでに宿舎の入り口だった。少し扉の前で間をおいてから扉を開く。
「おはようございます、小隊長」
中に入ると同時に聞こえた声の方向に目を向けるとそこには一人の少女がすでにラウンジにいた。見覚えのない少女は動きの邪魔にならない程度の長さに切りそろえられた黒髪で凛とした声やその佇まいから相当の実力者であることは見て取れた。
「おはようございます。早いんですね、ええっと・・・」
「リザです。リザ=シニアス。今日からあなたの副官として第2試験小隊に配属されました。よろしくお願いします」
どうやら彼女は副官、つまりはこの隊の副隊長であるらしい。頼りになりそうな副官に対してほっと胸をなでおろす。
「ユーイ=ルクスです。よろしくお願いします」
僕が手を出すと彼女は手を握り返しながら笑顔を作った。
「小隊長、丁寧語は必要ありません。これから1年も共に過ごすのですから」
「そう?ならそうさせてもらうよ。僕は下級貴族の出身でね。あまり丁寧語を使う機会とかがなかったから助かるよ」
「小隊長は下級貴族なのですか?あの強さを見ててっきり名家の出身かと」
「うーん、強いというほどじゃないと思うけどなぁ。ルイスには勝てなかったし、アレス様には素手であしらわれちゃうし」
「アレス様・・・?騎士団長のアレス様ですか?」
「そうだよ。幼いころから手ほどきを受けてるけど全然追いつけなくて」
「小隊長は騎士団長の弟子なのですか!?」
「弟子っていうほどのものでもないよ。ただルイスと一緒によく遊んでたからついでに教えてくれてただけで」
「ですが団長の手ほどきを受けたならあの強さにも納得です」
リザはどこか目を輝かせているような感じだった。リザ=シニアス。彼女はこの数分のやり取りでも十分信頼できる人間だと分かった。
(・・・シニアス?)
「・・・ねえ、リザ。もしかしてリザってあのシニアス家の出身なの?」
「あの?ああ、武道の名家の、という意味ですね。そうですよ。この国の正統派剣術のシニアス流を生み出したシニアス家の次期当主です」
そういわれてみれば確かに武道の家と言われれば彼女の放つ雰囲気もわかるし、その所作からは名家の出身というのも疑いようもなかった。
「それじゃあもしかして君の方が僕よりも強いんじゃ」
「それはありません!」
彼女はすごい勢いで否定してきた。僕が面食らって少し驚いていると彼女はすぐに謝罪する。
「武家の出身である私が彼我の実力差をわからないはずがありません」
そんな話をしているとドアの開く音が新たな出会いを知らせた。
次の投稿は12月18日(木)の予定です。




