武力
「まったく、どういう経緯でばれたのかは分からないが、いやはや、大したものだ。」
タバコを咥えたまま笑うササーレンは先ほどまでと違う。
うだつの上がらない中年男性などではない。
強化鳥の滞空には熟練の技術がいる。
窓枠を飛び越えた身のこなしと合わせて考えると、おそらく彼はベテランの空翼兵だ。
乗っているのは羽根の大きさと嘴の色からして爆撃用の強化鳥。
速度に劣るが耐久性に優れ、長距離移動に適している。
「まぁ。どちらにせよ、私は古巣に帰らせて頂くがね。おっと、そこは危ないよ?」
「なに?」
窓際のセイレンを嘲笑うとササーレンは強化鳥を翻す。
「待て!お前には聞きたい事が!」
「危ない!」
咄嗟の事で、声を出すのが精一杯だった。
ササーレンに対して、攻撃魔法を構えたセイレン。
その背後で警棒を振り上げていたのは、警備部長だ。
「くっ!」
私の言葉で彼に気付いたセイレンは、間一髪のところで攻撃を躱す。
「あなたもグルだったか!」
「すまんな。俺にもいろいろと事情があってな。」
諦めたように言うと、警備部長が首から下げていた笛を吹いた。
人間には聞こえない音は、この街で最も優秀な兵隊を呼ぶ合図だ。
扉を突き破って銀色の人形が現れた。
魔導人形。
人間より遥かに丈夫で、疲れも不満も抱かないそれは、まさに完璧な警備兵だ。
たかだか5体だが、数としては充分だろう。
「マレウス!使えるな!」
オルガが先ほど示した剣を投げて寄越した。
どうやら私の事もお見通しだったか。
剣を構え、走り寄ってきた魔導人形に向き合う。
突き出された腕を掻い潜り、肩と首に一突き。
動力パイプを破損した魔導人形が崩れ落ちる。
「マレウス…剣なんて使えたのか?」
「護身程度だよ。あまり期待はしないでくれ。」
驚いたように声をかけてくるセイレンに笑いかけると、私は意識を集中する。
いい機会だ。試して見たい魔導が一つあった。
意識を集中する。
古代魔法が忘れ去られた原因の一つに、古代文明が滅びた原因が魔法だという事がある。
魔法が発達した文明は、ある魔法の出現で一気に瓦解してしまった。
魔法の無効化魔法。
その力の一端を私は発動した。
鈴に似た音が響き、魔導人形が一斉に倒れる。
突然の事に、警備部長は目を丸くして驚くばかりであった。
「ん?コレは…面白い魔法があるもんだ。」
部屋の片隅から愉快そうな笑い声が聞こえた。




