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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第3章 プリンスと過去
11/23

11 復讐と片想い

「なんで士官学校を終えたての奴が、一気に海佐に、それも大佐に昇進したのか。不思議に思わなかったのか?奴が上級司令官にふさわしくない程身分の低い子どもだったことは、軍の高官どもには周知の事実だった」

 シアーズは何も言わなかった。たしかに、士官学校を卒業してすぐ、ポーツマスから実家に戻りもせず、ウィルは戦に行った。そこで大きな軍功を上げた。異例の昇進を遂げ、若くして大佐になった。だが、どんな功績を上げたのかは聞いても教えてはくれなかった。その頃はまだ自分は、士官学校に入るか入らないかくらいの年齢だったし、特に興味があったわけではなかった。ウィルが戻っただけで良かったのだ。だから時が経つにつれ、自分の中では、それはもうたいしたことではなくなった。それにウィルは実際優秀だったから、何をやってもおかしくないと思っていた。


「それ以来、奴は俺達海賊のなかでは、裏切り者なのさ。誰が命を救うように嘆願したかも忘れて。でも、あいつがあのまま育っていたら、間違いなくあんたと敵対してただろうな」

 その言葉にはっとさせられる。ウィルと敵対する、か。今とは全く逆の立場で。相手がどういう人かも知らずに、真っ向から対立したのだろう。結局、形は違うが、ウィルとは敵対する羽目になってしまったが。でも、俺はウィルのことは誰よりよく知っている。きっと、エドモンド=ローランド卿よりも。

「ウィルは、義父のローランド卿をこの世で最も尊敬していると言っていた」

「そうか。しかし奴もローランド卿に救われるとは……。可哀そうな奴だ」

「どういうことだ?」

 シアーズは本心からそう思った。たしかにエドモンド=ローランド卿は、非常に冷たい方だとは聞いたが、ウィルのことはそれなりに気にかけていたはずだ。とある島から二人で帰って来てからは、一層気にかけていた。……それでも、普通の親子に比べれば、随分と冷えた関係だったのも、事実だろう。

「ああ、あんたは知らないだろうな。エドモンドは、あいつが今みたいになると分かっていて、わざと跡取りにしたんだ。ひでえ奴だな」

 シアーズは黙ったまま、リーガを見た。言っていることがよく分からない。そんなシアーズを見て、リーガは少し考えて話し始めた。

「あいつは貴族じゃない。それは周知の事実だ」

 そうだろう、とシアーズを見る。確かにウィルの身分は皆に知られていた。偏見も差別もあった。パーティーに呼ばれた時などはいつも、見世物小屋の犬の気分だとウィルが言っていた。受け入れていたのはごくわずかの人だけだった。

「だが、エドモンドの跡取りとなれば、父親の身分からして、かなり高い位から就任することになる。あいつは親戚中から恨まれ、うとまれた。一族の恥さらし者め、とね。それだけじゃない。他の貴族からも目の仇にされている。あんただって貴族やってたんなら、それくらい気付いただろう。そうそう、あいつの額に傷があるの、知ってるか?」

 自分の額をとんとんと叩きながらリーガが言う。他人の不幸は蜜の味。嬉しそうだ。

「額の傷……髪の生え際のところの、か?」

「ああ。あれは何か、知っているか?」

 シアーズは何も言わなかった。リーガは、シアーズが知らないのだと勝手に思い込んで、話を続けた。


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